- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
5 件中 1 件~ 5 件を表示 |
紙の本
ヨーロッパ文化の深いルーツを表す人名。神話、歴史、文学等、膨大な文献を駆使して、その諸相を描きだす。
2000/08/23 00:15
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中条省平 - この投稿者のレビュー一覧を見る
翻訳を職業にしていると、しばしば人名表記の問題に悩まされる。その原因の一つは、ヨーロッパの諸言語において、人につける名前がほとんど共通していることである。
つまり、英語では「ジョージ」、ドイツ語では「ゲオルク」、フランス語では「ジョルジュ」、スペイン語では「ホルヘ」、イタリア語では「ジョルジオ」、ギリシア語では「ヨルゴス」、ロシア語では「ユーリイ」等々と発音・表記される名前がことごとく同じ名前の変形にすぎず、外国人の名前を自分の国語の発音・表記に平気で言い換え(書き替え)てしまうのである。そのため、フランス語の本で見た「アンリ・エーヌ」という名前が、実はドイツ詩人の「ハインリッヒ・ハイネ」のことを意味している、というような事態が生じることもあった(現在では、原語の表記を尊重するのが一般的な傾向だ)。
だが、これは一面ではヨーロッパ文化の深い同一性をあらわす現象でもある。本書は、このヨーロッパ文化の根底に横たわる名前の同一性という特質に注目して、ヨーロッパ人の名前の起源をめぐる様々な逸話を集成している。「事典」と銘打ってはいるが、中身は五十音やアルファベット順の配列ではなく、ヘブライ、ギリシア、キリスト教、ゲルマン、ケルト、スラヴという民族・言語・文化圏別の構成になっており、どこから読んでも楽しくためになるエピソードが満載されている。勿論、アルファベット表記と五十音順による完璧な索引が付いているから、「事典」としても十分活用することができる。
試みに「ジョージ」で検索してみよう。ジョージの語源は、ギリシア語のゲオルギオスで、ゲーは「大地」、エルゴンは「働き」を意味するところから、この名前の原義は「農夫」である。巨人(ジャイアンツ)のGiもゲーと同義で、ジャイアンツとは元々「大地の息子たち」という意味だった。ゲオルギオスは豊饒の神だが、ローマに輸入されて、キリスト教の殉教者ゲオルギウスとなり、豊饒をもたらす正義の聖人という位置づけに変わる。フランク王国の開祖クローヴィスは、聖ゲオルギウスを自分の王朝の祖として崇めるようになる。つまり、ゲオルギウスは、西ヨーロッパの起源となったのである。
その後、各国にゲオルギウス(ジョージ)の名前が広まるが、イギリスでは、ジョージが聖書中の名前ではなかったため人気が出なかった。ところが、十八世紀に国王がジョージ(一世)と名づけられて以来、ポピュラーな名前となる。現エリザベス二世の父親はジョージ六世である。ジョージといえば、一番有名な人物はワシントンだが、彼は十八世紀のジョージ二世にちなんで名づけられた。また、野球選手ベーブ・ルースのファーストネームもジョージである、という具合にこの事典の記述は多岐にわたっている。
聖書を中心にして、シェイクスピアなど文学的文献や歴史書も広く参照し、名前をめぐってヨーロッパ文化の豊かさを説き明かす。研究書としても、読み物としても、充実した仕上がりである。 (bk1ブックナビゲーター:中条省平/フランス文学者・学習院大学教授 2000.08.23)
5 件中 1 件~ 5 件を表示 |