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紙の本
なぜ私たちは聖者に惹かれるのか
2000/11/12 19:50
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:藤井正史 - この投稿者のレビュー一覧を見る
書店の宗教書コーナーには、既存の宗教各派の本に混じって、怪しげな本が数多く並んでいる。いずれも超常現象、超能力や奇蹟について書かれたものだ。本の売り上げランキングには、新宗教の教祖たちの著書が上位にあがる。現在、書籍売場は諸宗教団体が信者を獲得する最前線なのである。
信仰に入るきっかけの多くは、以前の「貧・病・争」の悩み相談と強引な勧誘から、個人的な興味から本を手にすることで、実際の活動に引き込まれていくパターンに変化してきた。そのため、カルト教団、新々宗教各派は、オカルトや神秘思想を巧みにイメージさせて若者を吸収しようと出版に力を注いでいるのだ。しかし、このような教祖や聖者たちの思想と行動、その成立した背景について客観的に分析した本は少なく、一般社会からの視点を持ったものはほとんどない。
この書ではインド研究者・宗教学者・人類学者によって、現代インドの聖者の背景を、<宗教体験><時代的・文化的背景と宗教的体験の言語化><聖者認知のシステムと組織のあり方>という3つのポイントを切り口に分析している。一般的にも知名度の高いサイババ、ビートルズが傾倒したTM(超越思想)のマハリシなど現代の聖者6人、ヒンドゥー教の一派をつくった過去の聖者3人について、その背景と、現状について述べている。
その中で注目せずにいられないのは、フリーセックスとドラッグで注目を浴び、武装したコミュニティーづくりを目指したラジニーシの教団である。80年代、アメリカでの反社会的行動は、オウム真理教の事件に酷似していて、不愉快極まりない。日本の犯罪教団の具体的なモデルはここにあった。
また、インド社会における宗教の在り方を考察する手段として、非差別カーストから集団改宗した仏教徒たち、反プロテスタントのユーロブディズムなど、インドでの仏教各派の活動を取り上げているのは、あまり日本では知られていない貴重なレポートである。そしてキリスト教・イスラム教・仏教・ヒンドゥー教の聖者観の違いに言及し、「聖者と政治権力の関係」の解明を試みている。
近代化を目指す社会構造の急激な変化と人々のこころのずれに対し、聖者たちは求められるまま役割を果たしてきた。何かを探し続ける人々の心は、時代を経ても変わりなく、次々と新しい聖者を生み出していく。海外に進出する教団も多いが、これは彼らが普遍的な教義を持つからではなく、社会から逸脱した聖者の存在そのものに、私たち自身が癒しを感じてしまう証の一つではないだろうか。
(藤井正史/ライター)
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