紙の本
これって王朝小説だったんだ。そんなことを、最初の墓参りの風景から読み取ったとしたら、あなたは偉すぎる
2003/05/07 22:55
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆる作家オタクではない私は、島田雅彦の顔を全く知らなかった。初めて見たのは、昨年か何かのNHKの美術番組でだったけれど、少し投げやりで粘つくような喋り方と、やけにきらきらと輝く大きな目が、俳優の仲代達矢を思わせて、思わずウームと唸ってしまった。あとで、知り合いと話をしたら、彼女は独自の島田雅彦観があるらしく、中味は忘れてしまったけれどかなり厳しい言い方で、彼のスタイルを批判していた。
で、この本。書店で初めて見かけたとき、何と優しい色合いの装丁だろうと思った。前田常作の曼荼羅を、中間色で描いてみたとでもいったらいいのだろうか。話は、それを彷彿とさせる長閑な春の墓参風景から始まる。父・カヲルの行方を探してていた椿文緒は、常盤家の墓を訪れた時、初めて伯母・アンジュの存在を知る。盲目の伯母が語る一族の血の物語。四代にわたる悲恋の歴史。桜と悲恋の取り合わせは、まさに日本の王朝小説。
1894年の長崎で、マダム・バタフライのモデルとなった芸者とピンカートンとの間にうまれたJB。アメリカに渡った彼の、祖国への愛憎と戦時下の恋。息子・蔵人の誕生と悲劇。占領下の日本でのかなわぬ恋。そしてカヲルと不二子との熱い思い。育ての親の常盤シゲル、マモル、アンジュといった人たち。そして驚愕の(全く想像を絶する)結末。なんと、その時代は2015年。本当に王朝小説だったんだ、と冒頭の風景を思い出す。
どこかドウス昌代『イサム・ノグチ』の主人公を彷彿とさせるカヲルは、男の色気に溢れている。小説自体も、実に奥が深い。水村美苗『本格小説』を連想させるのは、アメリカと戦後の日本が舞台だからだろう。これが「無限カノン1」と位置付けられ、2部作の前半だというから驚きだ。私は、これだけで十分に堪能したが、島田と福田和也の対談で、続きの存在や、作者の意図を知って唸ってしまった。100年以上にわたる長大なスパンの、悲恋の遺伝子の物語が、これだけでは終らないという。一体どういった展開が、この完結したように見える話を待っているのだろう。
一部では、絶頂期が過ぎたと言われる島田雅彦だが、私はそうは思わない。むしろ、久しぶりの島田雅彦を堪能した思いで一杯だ。それにしても書き下ろしの本から箱がなくなっていくのは寂しい。他社の本だが、辻仁成『太陽待ち』などを手にすると、箱入り本の美しさを再認識する。書き下ろしは、作家の力がこもっているだけに、機能的な意味からではなく装飾としての箱の復活を望みたいのだが、どうだろう。箱入りは、娘だけのものではないはずだ。
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「蝶々夫人」のお話に端を発する4代が辿る日本近代の歴史.大きな「物語」を現実の歴史と絶妙にリンクさせていくのはスリリング.
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無限カノン三部作の第一部。書店で偶然手にとってなんだか気になったので一気に三冊買って帰りました。たまにはこういうのも読みたいなーと思って。第一部は色々な恋の物語が展開します。そのどれもが悲恋。非常に面白かったです。
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【無限カノン】三部作のはじめ。
悲恋の運命を背負う一族の物語。
本当に悲恋続き…。
私だったらこんな運命絶対嫌だ!神様は意地悪だな…。
でもこんなに人を愛せるのっていいなぁとか思ってしまった。
いちいちご丁寧に野田の男たちに惚れていった私。
こんな人に、こんな風に愛されたいんです。
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3部作の初めの作品。
これから続く作品の為の土台となる作品のせいか、クロニクルの説明的内容で少し退屈に思えた。
しかし、これから始まる物語への重厚な敷石作品。
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結構長くて読むのが大変でした。オペラ蝶々夫人の子孫達が、あと一歩で今の歴史が変わってしまうであろうギリギリの線での恋愛をする話。
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主人公の名前がカヲル。これだけで最高。赤と黒の金魚の名前は、喜びと悲しみ。死者の魂は夢の成分で出来ている。何て素敵なことばかり詰め込んだ作品なんだろう。ずっとこの本の世界で生きてみたい。無限カノンは3部作、あと2冊読む間はこのままいようっと。読書の秋!
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純文学です。3部作の第一部なんだけど、まずは主人公(?)の娘がお父さんの姉に会いに行って、父親のことを尋ねるところから始まるの。それが、結局は曾おじいさんの話まで遡ることになるんだけど、すべての世代の恋愛が細かく書かれているのね。悲劇がほとんどなんだけど、繊細に描かれているから、美しいなって思った。父親(カオル)のお墓は落書きだらけで、どうしてこんなに落書きがされるのか、カオルは一体何をやらかしたのか?って叔母さんに尋ねるんだけど、アンジュ叔母さんは一言、「カオルは恋をしたのよ」って答えるの。一言その一言にこの物語の全てが集約されてるように思えた。ステキだな、ってただこの本をそういうふうに思いました。
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「無限カノン」三部作の1作目。
2作目『美しい魂』まで読んだ後にこのレビューを書いているので、どうしても両者を比較してしまうが、この作品は読むのに結構疲れる。
特に、蝶々夫人の話が始まるあたりまでは、どうも目がスムーズに流れていかなかった。
どちらかというと、1作目は2作目のためにどうしても書かれなければいけなかった長い長い背景という感じ。
読後にいい意味で消化不良を感じてしまうのも、そのためだ。
逆に言うと、是が非でも続きを読まなければならないように設定されている。
だからこそ、僕もすぐに続きを読んだ。
意外にも?(という書き方は著者に失礼かもしれないが)大真面目な恋愛物語だが、最後のほうで巨乳娘が登場してくるあたりが島田氏らしい。
世代を超えて血脈として流れる悲恋の無限カノン。
しかも、大胆に個人の恋と歴史を重ねて物語が作られているので、読みごたえは十分にある。
「歴史は恋の墓場なのだろうか? それとも、恋をなかったことにするために、歴史はしるされるのだろうか?」「戦争も政治も陰謀もすべて、恋と結びついているのです。でも、歴史は恋を嫌う。本当は恋と無縁の歴史なんてありはしないのに」(pp. 307-8)という引用に、この三部作を貫くテーマが凝縮されていると思う。
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最初の二人称の語りにはなじみが無く、読みづらかったものの、しばらく耐えさえすれば甘美な世界が待っていました。
かつて東急沿線、特に大井町線の沿線に住んでいた私には、カヲル編で語られる常盤家の暮らしぶりは懐かしく感じられる世界観でした。
三部作の他の作品はこれから読むので楽しみです。
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カヲルの父 野田蔵人と祖父JB。また、その母 蝶々夫人とJピーカートンのそれぞれの恋について
三部作
第一部:彗星の住人
第二部:美しい魂
第三部:エトロフの恋
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三部作なので、最後まで読まないとわからないけれど、日本の近現代史を下敷きに笑いも含めながら物語は進んでいって、今後が気になるところです。
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4代にわたる恋愛の大河ドラマ。どんどんのめり込んでいって、全く飽きさせない。古典として将来も残る名作だと思う。