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豚の文化誌 ユダヤ人とキリスト教徒 みんなのレビュー
- クロディーヌ・ファーブル=ヴァサス (著), 宇京 頼三 (訳)
- 税込価格:4,180円(38pt)
- 出版社:柏書房
- 発売日:2000/11/01
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紙の本
豚をめぐるユダヤ教徒とキリスト教との対立。ヨーロッパ農民文化が克明に描かれる。
2001/01/05 15:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本人は無宗教である人が多いから、こと豚に関してそれが禁忌の対象となることがあることに違和感を覚える人が多いだろう。私たちは焼き肉屋では豚足を食べるし、沖縄料理の店では豚の耳の炒め物を楽しむし、台湾料理の店では腸詰めをビールと一緒に胃袋におさめてしまう。日本人にとって豚は「デブ」と同じ意味での軽いからかいの対象ではあるけれど、徹底的に忌み嫌う対象ではない。むしろ豚は鶏や牛と同じように昔から家畜化され、日本人と共生してきた動物であるとさえいえる。
けれどこうした日本人と豚との関係は、全世界で通用するものではない。特にヨーロッパではそうだ。私たちがある外国人に国籍を聞かずに豚肉料理を勧めると、無思慮なとんでもない人と烙印を押されてしまうことになりかねない。そう、ユダヤ教徒と回教徒は宗教上の理由から豚を食べることができないのだ。
本書では帯に「異形の動物・豚の運命」と堂々と謳われているように、ユダヤ教徒とキリスト教徒との間で弄ばれることになってしまった、何の罪もない豚を中心に話が進められている。実に興味深い本である。
著者は1970年代の初めからフランスとスペインとの国境近くにある高原のソー地方に、農牧社会の成立をたどる調査を行っていた。豚が祭りの時以外にも、年中殺され、食べられるというこの地方の食文化に目を付けた著者は、逆にどうして豚がそれほどまで食べられるようになったのかを調べることにした。すると、18世紀末頃からこの地方には「豚商人」「豚の舌裏検査人」「豚の去勢師」が出入りしており、村民に豚を売り、病気でないかを確認し、繁殖方法を伝授する彼らがかなりの権力をもっていたことが浮上してきた。当時豚が他のどんな商品よりも金銭的価値があったことを背景に、彼らは地元の女たちをも追っかけ回し、地域の性風俗をも乱した。そのため「豚商人」らは村民にとって「野蛮」「横暴」「残酷」の象徴となり、やがてそれがユダヤ人やユダヤ教徒のメタファーとして用いられるようになったという。ソー地方の村民はキリストを信仰しており、彼らにとってよそ者となるユダヤ人を嫌う、その表れが豚を殺し、食べるという行為に結びついていると著者は導き出している。
もちろんこうしたソー地方の食文化と信仰との関係は、すべての西欧社会で通用するものではない。しかし、ソー地方の食文化の、日頃はあまり光を当てられない部分が抉られるや、いかに西欧社会でユダヤ教とキリスト教が相剋の関係にあり、根深いしこりを残しているのかということが一気に曝されることになる。著者がキーワードにした「豚」は西欧社会の暗部を表に曝すには格好の材料だったのだ。文化と人間との関わりを濃密に描き出した良書にめぐり会うことが久々にできた。お勧めの1冊である。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学兼任講師 2001.01.09)
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