紙の本
日本びいき
2001/07/15 03:48
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投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
スターリングというと『スキズマトリックス』、『蝉の女王』という人は、この短篇集にはちょっと違和感を覚えるかも。
〈生体工作者/機械主義者〉シリーズの、暗黒の深宇宙と異質な人々(いや、「ポストヒューマン」か)、異様な概念に満ち溢れた、日常からも現在からも遠く隔たった変容したあの世界をスターリングの名前と重ね合わせている人は、ちょっと驚くかもしれませんね。
90年代の短篇を集めたこの短篇集では、物語の舞台はこの地球へ、それどころか日本へと、日常に近い世界、見知った世界、馴染みの世界へと移ってきています。ハイテンションでとんがっていて、少々パラノイアじみた雰囲気のあったサイバーパンクのスターリングと比べると、カドが取れたというか、丸くなったというか、おとなしくなったというか、地に足がついたというか、ちょっと淋しい気もしました。
著者序文にいろいろと書いてあるのですが、スターリングの日本びいきは本格的ですね。最初の作品「招き猫」は東京を舞台にしていますが、日本人の作家が書いたとしても違和感がないくらいぴったりはまっています。オドロキです。
表題作でありヒューゴー賞受賞作でもある「タクラマカン」は、昔っぽいというか、『スキズマトリックス』的なスターリングが顔を覗かせていて良い感じでした。大変楽しめた短篇集でした。
解説によると、未訳のスターリング作品がたくさんあるようですね。どんどん翻訳されてほしいものです。
紙の本
全方位の視線
2001/02/17 01:30
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投稿者:檜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者序文の日本礼賛がこそばゆい。
不況にあえぎ政治の混迷する日本にスターリングはエールを送ってくれているのだとは思う。
でもやっぱりこそばゆい。
目玉であるチャタヌーガ三部作は、なにかを書くにはぼくの手に余るので——正直なところ、スターリングのとっつきにくさ大爆発だ。わからないということはないが、疲れる。表題作「タクラマカン」は文句なしにおもしろいけど。大森望氏は「自転車修理人」のラストで爆笑したそうだ。なにがそんなに可笑しかったのだろう?——冒頭の「招き猫」に触れたいと思う。
最初に日本に書き下ろされたこの小品は、ネット社会の未来についておもしろい視点を持っている。
ぼくたちが思い描くコンピュータ未来社会は——サイバーパンクの悪影響かもしれないけれど——いささか暗い。深刻なプライバシー侵害、ネット詐欺、クラッカーの暗躍。
しかし「招き猫」が描く日本はそれと正反対だ。
そこにあるのは善意なのである。ネットを通じてだれもがその人が必要としているものを知ることができ、それを融通しあっている。アメリカのエージェントは既存の秩序を守ろうと汲々としていて、やりこめられる。
スターリングの視線は全方位に向いている。
あと、テクノスリラー「小さな、小さなジャッカル」も楽しい。だってほんとうに“テクノ”だから。
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今まで読んできたのが長篇だったから、比べるのもなんだけど、とにかくけっこう気に入った。
全体的な感想は、サブカルチャーと言うか、カウンターカルチャーと言うか、スカムカルチャーと言うか、
とにかくそう言うものを使うのがスターリングは上手い。わざとらしくなく自然。
『小さな、小さなジャッカル』はその辺が盛り込まれていて、
ロシアに武器を買い付けに来た尊師が出て来たり、
フィンランドのおばあさんが書いた青い生き物の童話が日本で大人気とか、SFではなくほとんど現実。
ハーモニカを吹いている生き物の名前はフィンランド語じゃない、って台詞が出てくるから、やっぱ青い生き物ってあれだよなぁ(笑)。
『聖なる牛』はマサラムービーネタ。さすがスターリング、目をつけるのが早い。
ラッカーとの共著の『クラゲが飛んだ日』はちょいラッカー味が強いかな。
『招き猫』は近未来日本が舞台。
変なところはなく、すこぶる自然。ただ、なると入りラーメンって記述は普通はしないよな。
よっぽと、なるとが衝撃的だったのかな。そーいや、ギブスンの『あいどる』にもブラックブラックガムが出て来たっけ。
で、最後のチャタヌーガ三部作がやはり一番面白かった。
サイバーパンクの必需品、脳内チップとジャックインの代わりに、
ここでは超コンピューターミラーシェイドと言うべきスペックスと言う眼鏡をかけて、ネットワークと接続する。
特に1話目の『ディープ・エディ』がお気に入り。
ちょっと『記憶屋ジョニイ』とかぶる気がするけど。
ここに出てくる女ボディガードのザルデルがかっこいい。モリイには及ばないけどね。
2話目『自転車修理人』に出てくるバーチャルツール・ド・フランスのアルド・チポリーニって、やっぱマリオ・チポリーニがモデルなんだろうな。
3話目『タクラマカン』は一番SFっぽい話なんだけど、それほど気に入らなかった。
サイバーパンクはごちゃごちゃした街で、適当なことしてるのが好きなんだよね。
ちなみに、序文がかなり面白い。本書で一番面白いかも(笑)
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収録作
「招き猫」
「クラゲが飛んだ日」
「小さな、小さなジャッカル」
「聖なる牛」
「ディープ・エディ」
「自転車修理人」
「タクラマカン」
全体的に、過渡期にある作品集なのだと思った。すでに日常になったり、現代とは異なった方向へと進んだテクノロジーの数々。時代に取り残された者と、ついていく者の相対化がよく見られる。
収録作では、「自転車修理人」が一番好きになれた。
「こと自転車になると、人々は妙に寡黙に、伝統的になるのだ」と主人公のライルが考えるように、自転車は古いものを代表しているかのよう。
けれど、それを修理するライルは、生活こそ文明からなるべく離れているかのようでも、抗リビドー治療中だったり、ヴァーチャルシュミレーションでツール・ド・フランスをやったりする。古いものと新しいもの。奇妙に融合し、健康的なオタクとも言うべきこの主人公の姿が面白い。
「レンチをもったただの若造だぜ」
あとは、「タクラマカン」がSFとしては一番濃いかな。リアルな問題と未来像が結びついたヴィジョンは気持ち悪さを覚える。
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ポリティカルフィクションってのにはいまいちピンと来なかったが、表題作はすごい。少数民族問題、世代間宇宙船そして自己進化を続ける機械を組み合わせた陰謀なんてよく考えるわ。閉じた系を外側から眺めてんのは「巣」を思い出す。「クラゲが飛んだ日」のほのぼのとイカれた感じも良かった。
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短編集なんで、もっと気軽に読めると思ったんだけどなぁ。
結構辛かった。
最後の3連作は良かったけどね。
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スターリングの短編集 日本人としては招き猫がいい
表紙 6点田中 光 小川 隆・大森 望訳
展開 7点1999年著作
文章 7点
内容 700点
合計 720点
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著者のスターリングは(おそらく)初めてです。SFの若き旗手であり、短編の題「招き猫」でも判るように、日本のSF雑誌に書下ろしを出したりする、日本びいきの作家だそうです。
一応すべて読み通しましたが、作品として良いのか悪いのかという以前に、私には合いませんでした。
作品の背景として独自の世界を作り上げているのですが、それが単に著者の頭の中に浮かび上がった空想の世界。何故そんな世界になっているのか、そこに理由や必然のようなものが感じられないのです。ハードSF好きの私としては、嘘でも良いから”らしい”説明をしてほしい。それが無いと話に入り込めない。そういう作品でした。
読了日から言うと一日で読みきってるように見えますが、実は途中で投げ出したくなって、他の本に目が行ったりしたために起こった現象です。
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ブルース・スターリングの短編集。
著者名は馴染みのものな気がしていたが、単独名義の本を所有したのはこれがお初だった。
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《目次》
・「招き猫」
・「クラゲが飛んだ日」(ルーディ・ラッカーと共著)
・「小さな、小さなジャッカル」
・「聖なる牛」
・「ディープ・エディ」
・「自転車屋修理人」
・「タクラマカン」