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著者の本はこれまでにも読んだことがあったけれど、この人があの酒鬼薔薇事件の時の筆跡鑑定をした一人だったとは!
そして、筆跡鑑定なんて言葉も時々聞くから、さぞかしちゃんと成果が蓄積されているのか…と思っていたら、そうでもないとは!
意外なことがたくさんあった。
現代(といっても十年以上前)の学生でも、字が綺麗なことと人格を結びつける発想が残っていたりするなんていうアンケートも興味深かった。
書に対する日中の意識の違い(「書道」と「書法」)の話は興味深かった。
が、読み方が浅いのか、すっきり理解できた気がしない。
日本人は書に関しては昔から字に人格を見てしまう発想が強いということか?
中国があくまでも「書法」の習得に重きを置いているのが科挙の伝統の影響だとしているのだが…。
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さまざま示唆を与えられる良書。明朝活字が毛筆を元にしているという当たり前の事を忘れていた。また北朝の筆跡の厳しさと南朝のおおらかさの比較、ひいては関東関西の比較はすこぶる面白い。マークシート試験の導入による筆記機会の変化という指摘も大切だ。科挙に支えられた楷書の威厳が我が国では1000年前には忌避され行書中心に変わり、そこに筆脈の妙に重きを置く流儀が盛衰する。中国の格を意識した書法といわば個性重視の書道との対比。さらには、現代書家と称する者に対する「書表現が自己の内面を打ち出すものではなく、自己から離れて仮想する場になっている」指摘は適切である。また、楷書はその本質として遅く書くことが要請されるものであり、それを早く書けというのは「時代錯誤の模範性」であり、良く書きこなれている筆跡とは筆脈、気脈があり、筆者独特のバランスがあるものだという指摘も大変参考になった。新書としてはかなり進んだ記述で、書に関する総合的入門書としてすばらしいできばえ。
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いわゆる筆跡鑑定の話は少なく、筆記文字の歴史を振返り現代に活かそうというもの。歴史言語学の色味が強い。
題の「序論」に、筆者の一種の配慮を感じる。学会はおろか筆跡学そのものが学問として確立されていないためだと思う。
文字の成立ちを知るヒントがたくさんあり、満足の一冊でした。