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紙の本
幼い子ども二人を道連れに一家で自決した親泊朝省陸軍大佐。琉球王府尚家の血を引く大佐は、料理研究家・岸朝子の叔父だという。
2001/12/28 19:51
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投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
人に聞いていた通り、重い1冊であった。極楽とんぼのような自分の生活にくさびを打ち込むように、私はときどき意識的に第二次世界大戦について書かれた本を読む。そのどれもが「書かねば」という強い衝動に駆られて形になったものであるから、その重さにおいて比較するのもおかしいのであるが、それでもかなりずしりときたことは確かだ。
読書を通して、家事、仕事、趣味などあらゆることに前向きにエネルギッシュに取り組む、年上の素敵な女性と知り合いになることができた。常にベストを心がけて手を抜くことなく行動するその人の瞳はきらきら波光のように輝いていて、こういう風でありたいと憧れの人生の先輩として私の意識の中に棲み始めた。その人が「今読んでいる本」として教えてくれた1冊なのだ。しかし、9月の初めにその話を聞いたというのに、読むまでに3ヶ月近くの間があいてしまった。いつもならダボハゼのように良い情報に飛びつくのだが、この本の場合、著者の執筆の動機を教えられ、それがとても重いものだったゆえ、気構えができてからという気がしていたのだ。
ノンフィクション作家として骨組みのがっしりした仕事を続けてきた澤地さんが、琉球大学の一学徒となったことはTV番組で見て知っていた。「戦争」を大きなテーマの一つとして仕事をしてきた作家が、沖縄に行ったことの意味は深い。『琉球布紀行』という別テーマの本の後に出てきたのが、この1冊なのである。
『ひめゆりの塔』などで知られているように、本土決戦に先立って沖縄は集団自決による玉砕の犠牲者を多く出した土地である。 その沖縄の出身で、しかも首里士族という名家の出である陸軍大佐一家の自決に、澤地さんは30年間のこだわりを持っていたという。小学4年生の女の子と小学2年生の男の子に毒入りの飲み物を摂らせ、妻を銃で手にかけたというむごい死。
それは単にこの一家に起きた出来事して作家の中にあったのではない。澤地さんには、朝鮮半島でやはり一家自決に至った叔父がいて、遺骨も残さず最期の様子もわからないという痛みを抱えていたのである。親泊大佐一家と叔父一家の死がシンクロするまでに、長い時を要したということである。
本文は、前線での指揮官としての任務が長く、兵士たちに信頼されいくつもの軍功を挙げていた大佐が、軍人としてどのように訓練を受けキャリアを積んだか、のちに陸軍の広報担当となった彼が国民生活にどのように影響を及ぼしたか、鍛え上げられた軍人の精神が敗戦によってどのように追い詰められていったかといったことに多くを割いている。
特攻隊員の散華とは違う、「おかあさん、みず…」と言って餓死していった南の島々での兵士たちの無惨な死、戦犯として裁かれはしなかったけれど、自ら決めた人生から下りないために責任を取って選ばれた死——今まで知らなかった戦死のありように、はらわたをえぐられるような衝撃が走った。
当時生きていた人にとっては各々に異なる戦争がある。それが発掘され続ける限り、私たちは果てのない戦争の物語を読むことができるのだと思う。生きるべきであった多くの人びとの屍を越えたところに私の生があることの認識が、とても重いのだ。
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