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解説の澁澤龍彦の言うとおり、猥雑ではあるが下品ではない。
カキやの如く、この小説で抜こうと考えるのは大間違いであって、そのような人は団鬼六先生のお世話になるべきだろう。
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もう、どうしようもない人で、きたないし、なんだかげすいし、そのようすはステキ、とはいいようがない。だけれども、一寸の虫にも、というほどわたしがどうこうっていうわけでもないんだけど、人生はみんなに等しく平等のように感じる。楽しいことも、わくわくすることも、ひやひやするスリルも。日常はキラキラしてる。女の子はスリルにみをよせる。
どのひともの心の中にいるエロスは、日常で、それが過剰になる人もいるし、普通になる人もいるし、だめになる人もいるし、それはでも等しく平等で、あたたかくてやさしい。キレイで汚い。ここにいるところはぎりぎりのところ、みんながブレーキのふみどころを考えている。
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確か町田康のエッセイに出てきたのがきっかけで読みました。町田康がかなり影響を受けてるのが分かる。そして私もかなりお気に入りです。
女性学をやってたので、この時代の女性の描き方は若干違和感を覚えましたが、文体やストーリーがそれを奥ゆかしさに変え、私の心に届いてきました。他の作品も色々読んでみたいです。
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お上の目をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供する、これすなわち「エロ事師」の生業なり――享楽と猥雑の真っ只中で、したたかに棲息する主人公・スブやん。他人を勃たせるのはお手のものだが、彼を取り巻く男たちの性は、どこかいびつで滑稽で苛烈で、そして切ない……正常なる男女の美しきまぐわいやオーガズムなんぞどこ吹く風、ニッポン文学に永遠に屹立する傑作。
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【粗筋・概要】
東京オリンピックを控えた昭和30年代後半の大阪。内縁の妻の連れ子によこしまな想いを抱くスブやん(35歳)が主人公。彼の表向きの職業はセールスマンであったが、本業はエロ写真、盗聴テープ、ブルーフィルムなどの販売、売春婦の斡旋を生業とするエロ事師であった。スブやんは、エロ写真を撮影しているときにしか勃起しない伴的、ゴキブリを愛でるゴキ、不感症の母への供養としてエロ小説を書き続けるテキヤら仲間たちとともに、ブルーフィルムを自主制作に取りかかる。エロ事師たちのあっけらかんとした性と死を描く小説。
【感想】
この小説は、会話文も地の文もすべてが大阪弁で書かれており、かつ、形式的には三人称であるが実質的には一人称で書かれているので、非常に読みにくい。読み進めていくうちに慣れはするものの、最後まで読みにくかった。ただ、この文体がこの小説の猥雑な雰囲気を生み出していると思う。
水子を海苔の缶に入れて水葬する場面や、通夜の席で仲間の棺の上で供養として麻雀をする場面など、印象的な場面がこの小説には多くある。極めつけは、小説の最後に、お春の死後インポになったスブやんが勃起しながら死に、恵子が顔ではなくその上に白い布を被せ、ケラケラ笑っている場面は、秀逸である。このようにスブやんたちは非常識でハチャメチャだけど、彼らがあっけらかんとしているから嫌悪感はなく、むしろおかしい。
2008年3月9日読了
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僕にとって野坂昭如という作家は、「火垂るの墓」を書いた人という認識しかなく、それだけにテレビのコメンテーターとしての破天荒さと、作品が釣り合っていなかった。作家の人格と作品とは別と考えるべきであるにしてもである。今回この作品を読むことにより、野坂昭如の良心的なだけではない、やさぐれた面を感じれた。戦後間もない頃、表現の自由が許されない時代、性的な興奮を煽る事、物が許されない時代、登場人物たちは、ブルーフィルムの製作、発売、乱交パーティーの斡旋などをお上の目を盗みながら行う。社会、家族に対して後ろめたい気持ちを感じつつ、自分たちの仕事は必要とされている事だと誇りを持ちつつ、やがてエロ哲学の違いから、商売組織は分裂していく様は、ユーモラスで人間くさい。野坂氏も処女作ということで、筆任せに書いている感があるが、それがかえって、作品の勢いを与えているし、言葉の反射神経が見事である。
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解説で澁澤龍彦が書いているように、
「猥雑きわまりない現実を、同じく猥雑きわまりない措辞と語法によって描き出しつつ、しかもその表現のたった一行とても、下品であったり野卑であったりすることのない」
作品だった。
よくあるベットシーンすらひとつもない。いわんや自然主義的な風景描写をや。
大阪弁による会話と地の文(明確に分けられはしない)によって成立するこの作品は、読んで直ぐにわかる独特なリズムを持っている。
エロを扱うが、下品や野卑ではなく、むしろ明るく、爽快ですらある。
これは語りのリズムに負うところが大きいと思うが、扱われている性愛のありかたが、一般に流通している性愛のイメージと異なるものを扱っていることにもよるだろう。
それはアブノーマルということではなく、渋沢氏が指摘している「欠如体としてのエロティシズム」という表現がよく適している。
タイトルには「エロ」と入っているけれど、いわゆる「エロ」とよばれるようなエロさは、全くない。
世の中にはそう銘打っていないけれど、この作品よりよっぽどエロなものは沢山ある。
しかし、たいてい、そうした作品のエロは、陰気なエロだ。
この作品は純粋に面白い。特に、最後の芭蕉のパロディは傑作。
ここ最近で出合った小説の中で、最も、手放しで「面白い!」といえる作品です。
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「ほたるの墓」で有名な野坂昭如のデビュー作。法の網をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供するのが「エロ事師」の生業。大阪弁による会話とある種の語りともいうべき地の文章によって物語は成り立つ。猥雑で破廉恥な内容を赤裸々に書き綴ってあるのですが、氏の独特の文体から受ける印象はまったく下品であったり野卑であったりはしません。どこかいびつで滑稽で同時に哀れささえ漂うエロ事師たちの性を描く見事な筆致には、氏の才能が如何なく発揮されているように思えます。
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もう主題が「エロのプロ」とすでに破天荒でありながら、しょーもない小説にはない真実がそこにはあって、嘘などひとつも書かれていない。だから引き込まれるし面白い。不必要なエロ描写が一切ないのも素晴らしい。オチにいたっては中2レベルの下ネタ。しかし感動の大巨編。
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又吉の第2図書係補佐から
関西弁?の文章は読み辛かったが、ダークではない感じの、エロ話で、見方によっては、ほのぼのとという感じ。
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これは面白い.良い本だと思う.
面白いと書いたけど,実際は切ない.なんていうのかな,「限りなく透明に近いブルー」を読んだあとのような,「さーっと風が抜けるような爽やかさと,切なさが同時に来る」感じがした.
エロ事師たちと限りなく透明に近いブルーの内容には「エロ描写がある」事以外,共通点はないが.
ともかく,切ない感じをうけた.
場面設定は古い昭和で,「エロ事」がかなり厳しく取り締まられていた時代の話.主人公はエロ写真を売りさばいたりAVを作ったり(8mm撮影なのでAVの先駆けである)する職業を生業としている.このエロ家業を中心とした人間模様の描写がとても切ない.
エロい話が売りの小説ではなくて,渇きつつ温かい人間関係を描写した小説である.
この小説のテーマを「悲しい人間の性」とくくってしまうのは簡単なのだけれど,どうもそれだけではなく,温かさが伝わってくる.
そういう意味でいい小説だと思った.
大島渚と殴り合っている野坂昭如を思い出し,ニヤリと笑ってしまう.
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エロにまつわることならなんでも商売にしてしまうスブやん。
ブルーフィルム、女の斡旋(今で言うデリヘル?)、乱交パーティ主催などあらゆる分野に切り込んでいくが、当の本人は仕事にのめりこむにつれて不能になっていく。
終わりがおもしろおかしくてよかった。
背徳感0ですがすがしい。
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野坂昭如氏 訃報を受けて、一年の積読を了。 卑猥だが、猥雑ではない。 下品だが、いやらしさはない。 この題材でユーモアと悲哀に昇華させる筆はさすが。 関西弁のリズムが掴めれば、もっと早く読み終えて居たとは思う。
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本当の意味でのエロとは、なんだろう。男性にしか分からない世界ではない。女性にもエロという概念は当然ある。エロは欲求であり人間本来の姿なのだろう。それを追求するということは人間とは何かという哲学的な問いに近いような気がする。
それをエロ事師と言われる男たちが追い求め、最後に本当の意味でのエロという答えにたどり着くことが出来たのではないかと思う。
本当のエロとは…
野坂昭如のデビュー作として有名な作品ですが、内容に少し驚く。それでもエロを取り上げた内容にも関わらず、所謂「エロ」を感じないのは事師たちのエロに向き合う姿のせいなのだろうか。女性からすると中々手に取りづらい題ではあるが、社会見学のつもりで、こんな世界があるのかと言う視点で見てみるのも面白いかもしれない。
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(1972.05.05読了)(1971.12.18購入)
内容紹介
お上の目をかいくぐり、世の男どもにあらゆる享楽の手管を提供する、これすなわち「エロ事師」の生業なり――享楽と猥雑の真っ只中で、したたかに棲息する主人公・スブやん。他人を勃たせるのはお手のものだが、彼を取り巻く男たちの性は、どこかいびつで滑稽で苛烈で、そして切ない……正常なる男女の美しきまぐわいやオーガズムなんぞどこ吹く風、ニッポン文学に永遠に屹立する傑作。
☆関連図書(既読)
「卑怯者の思想」野坂昭如著、中央公論社、1969.12.18
「真夜中のマリア」野坂昭如著、新潮文庫、1971.06.10
「アメリカひじき・火垂るの墓」野坂昭如著、新潮文庫、1972.01.30