紙の本
演劇を中心とする芸術の公共的な支持と市民参加,それによる地方再生…
2011/01/30 18:34
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はその父がたてたこまばアゴラ劇場の億単位の借金を 23 歳のときに背負って出発したという, そういう著者は芸術と市場経済とのかかわりにもするどい感覚をもっているようだ, 著者は桜美林大学でおしえているが,「学内の演劇の公演は基本的にすべて有料で上演するように指導している」という. どうすればチケットが売れるかをかんがえるのが重要だからだ.
著者はまた,演劇をはじめとする芸術の公共性を論じている. アメリカでは荒廃した地方都市の再生・再開発に芸術がつかわれて成功した例があるというとこから,日本でも中心街がシャッター通りとなり画一的な「郊外」でかこまれた地方都市において芸術がやくわりをはたすのではないかとかんがえている. そこでは,公共的な支援とともに,市民の参加が重要になる.
この本が出版されてから 10 年ちかくになるが,そのあいだに日本各地でビエンナーレ,トリエンナーレなどというもよおしがひらかれるようになった. それらは演劇とのかかわりはうすいだろうが,著者がかんがえていた芸術による地方の振興や市民参加を実現しているといえるだろう. 著者がのこしたするどいメッセージを,このようなこころみのなかに,さらにいかしていけるようにおもえる.
紙の本
芸術文化と民主主義と公共性の三位一体
2001/10/19 12:12
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投稿者:小田中直樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
失礼な話だけど、平田オリザさんには、土曜の夜を彩る某テレビ番組で、どこか気乗りしない笑顔で箸にも棒にもかからんことをしゃべるコメンテーター、って印象しかなかった。だから、立派なタイトルだけど箸にも棒にもかからんことしか書いてないだろうから寝転がって読むのに丁度いいって思って、あまり気乗りせずにこの本を買った。でも、これが「うれしい誤算」だった。
この本で、平田さんは、最近流行ってるらしいアートマネジメント(「社会における芸術の位置づけ」、三ページ)を論じるふりをしながら、じつは現代日本の社会や国家や人権について思索し、そしてついには自らの「世界観」(二一四ページ)を展開する。日本の芸術文化行政が貧困な理由は何か。芸術文化に公共性はあるか。地域に芸術の拠点が必要な理由は何か。芸術が人間にとって必要な理由は何か。日本国民が芸術文化を享受する権利がある理由は何か。憲法第二五条(「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」)は、具体的には何を保障し、国民に何を求めるか。なぜ、まさに今この日本でこそ、芸術文化の必要性が増しつつあるのか。劇団を主宰し、各地にワークショップを出前し、大学で芸術論を教える平田さんの活動と思索を通じて、こういった様々な問題が紡ぎ出される。さらに、芸術の公共性、公共性一般のあり方と定義、民主主義と公共性と芸術文化の関係までが取り扱われる。
この本のメリットは次の三つだ。第一、上で述べた様々な、でもどれも大切な問題に対して、軽やかだけど断固とした答を出したこと。たとえば、日本の芸術文化行政が貧困だったのは、伝統的に日本では他人との対話がなくても「腹芸」ですんだからだ。地域に芸術文化が必要なのは、地域でこそ失われつつある住民の間のコミュニケーションを復活させる手段になれるからだ。いま芸術文化の必要性が高まってるのは、人々が、文化的な教養や素養が人生の幸福を左右するってことに気づいたからだ。説明のしかたも説得的だったし、僕はひたすら「うーむ」と唸りながら読んだ。
第二、バランス感覚がいいこと。一方では芸術文化には公共性があるっていいながら、でも国家が芸術文化を支配するのは危険だから市民が芸術文化に参加する権利を保証しなきゃいけないって断言する。芸術文化は人々の間にコミュニティを作るための強力な手段だけど、閉鎖的にならないように他のコミュニティと交流しようって釘を刺す。多分平田さんのバランス感覚の背景には、現状を維持するためだけでも行動が必要だっていう、ダイナミックな現状認識があるんだろう。
第三、どこをとっても、一本、論理的な筋が通ってること。僕の感想では、そのキーワードは「公共性」と「民主主義」だ。芸術文化は「ムダ」だけど、ムダがなくなれば社会は画一的で不安定になる。だから芸術文化は公共的なのだ。また、芸術文化は出会いの場所を提供する。そこでは、異なった価値観を持つ人々が集い、論じあい、説明しあい、理解しあい、共感しあう。この「対話」というプロセスこそ、民主主義の原点なのだ。
最後に疑問点を三つだけ挙げておこう。第一、公共性には、「なくてはならないもの」(一三六ページ)と、「公と私」の中間領域っていう、二つの意味がある。でも平田さんは両者を混同して使ってるせいか、論旨がわかりにくいところがある。第二、「これからは、何を売るかよりも、いかに売るかが問われる時代だ」(七三ページ)っていうのはよく聞く台詞だけど、これじゃ不十分で、両方とも必要だと僕は思う。第三、教育は公共性があるっていいながら、「当然国立大学は分割民営化すべきだ」(一五〇ページ)って根拠なしに断言するのは、矛盾してる。もう少し説明してほしかった。[小田中直樹]
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大学に入ってから日本の劇場経営のヤバさや、外国の芸術支援制度が如何に潤っているか、ということを知った矢先に読んだ本。いい本です。っていうか、このとおりになれよ。と思う。平田オリザめ…!!がんばれよこのやろう
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私の進路を決定づけた1冊。
この本に出会った結果、大学院への進学を決意しました。
日本人は、伝統文化を守る、ということにかけては優れた能力を発揮しますが、
「攻め」の姿勢・意識というのは、極めて希薄に感じます。
もっとも、経済状況と反比例に考えられがちな存在である芸術が、
実は日常において重要な役割を担っている事を根底から理解しないかぎり、
日本におけるその地位はあくまで「高尚な存在」程度の疎遠な関係でしかないのでしょうが。
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タイトルはなかなか気宇壮大だが、中身は基本的に、いたって地に足の着いた現実的なものである。演劇という著者の専門分野にひきつけて具体的に現状の芸術行政・文化行政の問題点を整理しているが、その射程は演劇以外の芸術全般に及ぶ幅広さをもつ。
http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20070313#p1
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初めて私のやってる学問と、その学問はとても広いのだけれど、その中で私がやりたいと思ってる分野
でためになる!な本を読んだ気がした!!
突拍子のない部分はあるけれど、たしかに芸術を自分の生活のなかにとりいれるって、大事。
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芸術に対して理解のない日本において、芸術の重要性を声高に叫んでいる本です。
私も感じてはいましたが、実際最前線で活動している方の意見がききたくて読んでみました。
「芸術」だから美術や音楽を想像していたんですが、「演劇」からのアプローチで、新鮮でした。
ただ、アートマネジメントを理解してたらもっと面白かったんだろうなとは思います。
あと、あとがきにも書いてらっしゃいますがあくまで平田さんの個人的意見です。
だからこそ正直ベースで語れていてそれが入ってきやすかったです。
普段から芸術はもっと公共性を持つべきだと思っていらっしゃる方にはおススメです。
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-読前-
「芸術文化環境論」という講義で先生が参考テキストに挙げていた。
「このくらいは読んどかないと」なくらいのレベルらしい。
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[ 内容 ]
日本再生のカギは芸術文化立国をめざすところにある!
著者は人気劇作家・演出家として日本各地をまわり、また芸術文化行政について活発に発言する論客として知られる。
精神の健康、経済再生、教育等の面から、日本人に今、いかに芸術が必要か、文化予算はどう使われるべきかを、体験とデータをもとに緻密に論証する。
真に実効性ある芸術文化政策を提言する画期的なヴィジョンの書。
これは芸術の観点から考えた構造改革だ。
[ 目次 ]
序章 芸術の公共性とは何か
第1章 地域における芸術文化行政
第2章 経済的側面から見た芸術文化行政
第3章 教育と芸術文化行政
第4章 文化権の確立
第5章 文化行政の未来
終章 芸術の未来
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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演劇好きにとっては、本当にこれが実現されたら、どんなにいい社会なんだ、とニヤニヤしながら読める本。
あまりに夢のようで、でも、平田オリザが言うと、実現できるかも、とその気になってしまう。一演出家の妄想なのにね。
芸術保険は、チケット代の高さに泣いたことのある私にはものすごく魅力的。でも、個体保存の欲求(最下層最低限の欲求)が満たされた状態でないと芸術を楽しむ心の余裕なんてないだろうから、まずは芸術を楽しめる心を持てるように、経済回復すればなぁ。
今みたいに一部の人だけの芸術じゃなく、芸術が地域や社会に自然に根付いたら素敵だとは思うけど、道のりは遠そう。
駒場アゴラ劇場が平田オリザの実家だとは。。。これにはほんとにびっくり。1億円以上の借金を背負って23歳でスタートした彼の演劇人生って小説よりおもしろそう!
アートマネージメントに興味がでてしまった。
そっち方面の本も読んでみたい。
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文科省と文化省 イベント 伏線の確率とバランス 桜美林の学生寮、及びその周辺 大学での有料公演 芸術創造推進事業 演劇図書館 サービスの需給 演出家それぞれの政策 芸術保険制度
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オリザの妄想は演劇経験のある自分にもピンとこない。芸術の必要性については言及しないほうがいい。必要ならいらないから
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文化行政について学びたいと思い、読んだ。著書の平田オリザは演出家だが、大学でも教鞭をとっている。
一言で言うと、大変勉強になったし、衝撃を受けた。
これからの文化の位置づけ、文化の公共性、文化行政のありかたなどについて書かれているが、本質的な目線で多くの問題提起と、斬新なアイデアが盛り込まれている。
日本は経済大国を目指して、奇跡のような高度経済成長を成し遂げた。しかし、その過程で忘れ去られていったのは、「文化」という目線ではなかったか。ヨーロッパに行くと、自国の文化をとても大切にしているのがわかる。特に世界遺産の8割を所有するイタリアは、文化行政が進んでいるし、自国の文化に対して強気だ。例えば、ピサの斜塔の修復費を近隣国に出させたりしている。
ネットワークの時代、日本は今後どのように舵を切っていけば良いのか。言語の壁を越え、アジアとネットワークを築くには、文化がカギを握っている。
グローバル経済の時代、日本はどのように世界と戦っていけば良いのか。自国の文化を大切にし、自国文化の誇りを持って戦っていくしかない。自国の文化をないがしろにするような国は、世界が相手にしないだろう。
http://www.youtube.com/watch?v=36NCa31nUlM
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2001年に発行された書籍。
本書で指摘している点で、現在改善されているものも多いかもしれない。
芸術が市場原理に任されると、経済生活に有用で機能的な芸術しか、
地方都市には残らなくなる。
芸術を享受する際の地域格差や所得格差による不公正の是正に対して、
医療や経済生活と同様に、芸術保険制度をもうけることを提案している。
観る側からすると、とても魅力的な制度だ。実現してほしい。
直接的に若手劇団に助成できるシステムとして、
劇場に助成を行い、劇場の芸術監督がその助成金の使い道に
責任を持つことが適切な方法ではないかと述べられている。
2001年の時点でこのようなやり方がどれほどあったかは知らないが、
現在では劇場主体で活気ある若手劇団の公演を行う劇場も多い。
ラインナップから想像すると、東京芸術劇場は
こういった形での運営を行なっているのではないだろうか?
その他にも、若い世代の魅力的な公演に力を入れている劇場も、
いくつか思い当たる。
「芸術文化はなくても死なない」という言葉に対して、
三万を超える自殺者に対して、「心の教育」を叫びながら、
具体的な施策がなかったことを挙げている。
昔から、人間の精神の問題は、芸術と宗教が担ってきたと述べる。
芸術の創造と鑑賞に、時間とお金をかけて取り組むことは、
人の精神的な支えになると私も思う。
ただ、そのことは、かなり時間を要することであると思うし、
効果を測定するのも難しそうだと思う。
自分の言葉に落としこんで、多くの人に伝えたいと思った。
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平田オリザの政策提言。
かなり大風呂敷を広げているのだが、荒唐無稽に思えないところがこの人のすごいところ。
論理展開がわかりやすく、かつ劇場を取り巻く現状や政策にかんして熟知している著者ならではなのだろう。
芸術の効用として、社会の他妖精の書くほや対話能力の育成が重要なのである。