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紙の本
ふろむ・ざ・だーく・さいど
2002/03/28 21:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:KASHIBA - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本推理作家協会賞受賞第1作。広済堂・カッパの異形シリーズ他の書き下ろしアンソロジーに収録されたホラーを中心に編まれた「闇」の作品集。「永遠の森」が軌道上の美の楽・園を舞台にした柔らかなSunny Sideの作品集であったのに対し、こちらは飽くまでも、Dark Sideの勅撰呪歌集。そこが、街角であれ、住いであれ、水辺であれ、座敷であれ、オフィスであれ、舞台であれ、吹雪の中であれ、湯煙の向こうであれ、人の在るところ、夜の帳は密かに降り、その奥へ迷える魂を包み込む。果して、古来、太陽であった筈の「おんな」たちは、「誰が悪いのでもない」という自省と諦観の底から呻きと溜め息をもらす。その居場所を「陰」という。その時間を「夜」という。肉温の扉の向こうから作者のB面が騙る九つの夜の詩。そのほの昏さは、読者を選び、癒しを笑う。以下、ミニコメ。
「夜陰譚」無機質に憧れちりちりと刻む夢。変化の果てに分相応の報い。滅びすら許されない紛い物の心。美の残酷、無垢なる嗜虐。夜の果てに明るい地獄。飛べない女を覆う、救いようのないダークファンタジー。痛たたた。
「つぐない」ふとした同情心に歯車の狂った親切が襲いかかる。虐げられ歪められたココロが取材というの名の卑しい好奇心を呑み込み暴走する。女ストーカーの闇を活写した日常系ホラー。これはスガヒロエの「黒い家」。結構、楽しんで書いてそうなのが怖い。
「蟷螂の月」魚臭いバイストンウエルの上に、漆黒は鎌形に切り取られる。嗤う月、蟷螂の血族が嵌まる水辺の狂気。女陰に巣食う自我は、弁護側の証人。体温を纏った水の魔の、これも救われないモノローグ。
「贈り物」恋人からの贈り物は人魚の鱗。そして夜毎訪れる品定めの囁き。選ばれる悦びに浸った女は、封印を逆転する。ラスト1頁の予想を裏切る展開が凄い。貪欲さでオンナに勝る生き物はいない。たとえ想像の中でさえ。
「和服継承」艶。和装佳人の一人語りは、色狂いの伯母の記憶を再生する。着物に秘められた色欲の引き金。抑圧が解放に転じる一瞬、心と肉襞は飛翔する。和服を愛する作者ならではのエロチズム。抑えた筆で、匂い立つエロスを余すところなく描いた文句なしの傑作。ごちそうさまでした。よろしおあがりやす。
「白い手」仕事で育まれた女同士の友情。創作の楽神をかき立てた手は、堕天使の翼へと変容する。働く女性の応援歌が、ウエディングベルの下で一転、白い闇に包まれる。堂々たる小説。語りはこうありたい。
「桜湯道成寺」若い頃から囲われ者だった主人公が、一瞬の春に狂い咲く。嫉妬の焔、舞台の桜。鐘に恨みは数々ござる、花のほかにはまつばかり。放たれた思いは母の囁きに消えにける。桜色の騙し絵。お見事でございます。
「雪音」ネットの自然食販売で実績を上げる孤独な女経営者が都会の雪を重たげに見つめる時、髪の長い女は現われる。しんとした雪音に封じ込められた心の軋み。浄化の刻は静謐に溶ける。ややステロタイプながらも純粋故に心を歪ませ、視野狭窄の中であがく主人公の描写が巧み。クライマックスは無音の音を聞かせる魔術師スガヒロエの面目躍如たるものがある。
「美人の湯」どこにでもある「美人の湯」で、どこにでもいる「美人」が笑う。ほらほら、そこに作者が立っている。底意地の悪いボーナストラック。独白の明るさが、全編を覆う闇を落す心地の良い上がり湯、といった風情の小品。
紙の本
著者コメント
2001/11/10 14:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:bk1 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『夜陰譚』刊行に寄せて——bk1読者の皆様へ
菅浩江
泉鏡花と山尾悠子が好きな私は、ずっと〈幻想文学〉という言葉に憧れていました。
ホームグラウンドのSFジャンルは、SFを冠している以上どんなに幻想的であってもなんらかの理論が欲しいと思う私なりのこだわりがあって、憧れのスタイルを持ち込むことはできませんでした。
井上雅彦さん編纂の〈異形コレクション〉をきっかけに、そうかホラージャンルの力を借りれば〈幻想文学〉というものにもっと近付けるんだ、と気づきました。
『夜陰譚』に収録した作品のいくつかは、文章に気を使うことで私のイメージする〈幻想文学〉に一歩迫れたように思えたものもあります。けれど、発表媒体のカラーによっては、なるべくホラーと呼んでもらえるように努力したものもあります。
共通するのは〈闇の美学〉と〈女の狂気〉。
みなさんが、この〈自称・幻想文学短篇集〉をお読みになって、私の肩のあたりに常にたゆたう闇の香りにかどわかされてくだされば、と願っています。
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