紙の本
同工異曲、プラス筆力
2004/02/12 21:36
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投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
「博士の愛した数式」で小川洋子を知った。それが面白かったので遡ってこの作品を読んでみることにした。
最初に思ったことは、「博士の愛した数式」と同工異曲である、ということである。
タッチも設定も似通っている。「博士の…」では数学を愛する老数学者、「貴婦人A」では毛皮にAの飾り文字を刺繍する老婦人。そして両作ともに語り手の女性がいて、「博士の…」では語り手の息子(頭の形がルート)、「貴婦人A」では語り手の恋人(強迫性障害を持つ)という、ともに個性の強い共演者を配してある。ただ、「博士の…」の場合は非常に設定が巧みで、もうそれ以上何もすることがないように見えたのに対し、「貴婦人A」の場合は、この作品を終えるためにはもう一つ何か仕掛けが必要だなという気が(読んでいる途中で)した。つまり、「博士の…」のほうは、この奇妙かつ絶妙な設定さえあれば、作者の造形した人物が勝手に動き回ることによって物語は勝手に進行し、もうどうとでも終われるように思われたが、「貴婦人A」のほうは何かもう一つ「かぶせて」行かないと物語が終結するだけのエネルギーに欠けるような感じがあった。
ところが、貴婦人が皇女アナスタシアを自称し始めるあたりから物語はゆっくりと転がり始め、雑誌「剥製マニア」の記者オハラという敵役を得るに至って、少しずつ面白くなってくる。しかし、それでも私は「さて、このあともう一つ、何を仕掛けてきて話を締めくくるのかな?」という気持ちで読んでいた。どうしても少し弱いのである。「博士の…」ほど登場人物が「立ち上がって」いないような気がするのである。もちろん貴婦人Aは老女なので、彼女が死ねば物語りは終わるということは目に見えている(そして実際に彼女が死んで物語は終わる)。でも、それだけで終わる作家ではないだろうという期待感はあった。確か「博士の…」では博士が死ぬところを描かずに物語を閉じていたはずだ。
などなど思いながらどんどん読み進んで、最後の2章で完全に脱帽した。何の仕掛けもないまま、言わば「力ずく」で話を終結させたのである。紛れもない作者の筆力である。筆力とは描写の力+構成力である。作品の途中にあったいくつか謎の部分は解決しないままぶった切られている。でも、それが気にならない。これはかなりの力技である。ある意味で「博士の…」よりも遥かにパワフルな筆致である。
最初はもっとモダンで小洒落た作家かと思っていたのだが、2作を読んで意外に古風な作家であることが解った。彼女が描いているのは「どんな人間であってもそれぞれの人に尊厳がある」という非常に厳粛なテーマであった。
非常に巧く書けている。巧くなければ決して書けない作品である。
by yama-a 賢い言葉のWeb
紙の本
不気味な哀しさ
2002/03/25 09:17
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投稿者:23時のハリネズミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川洋子作品はこれまで何作か手にとって来たが、一度たりとも裏切られたことはない。この「貴婦人Aの蘇生」も、謎めいたタイトルからして引き込まれた。
入院しているロシア生まれのユーリ伯母さんは刺繍が趣味。病室のありとあらゆるもの——カーテン、スリッパ、ベッドカバー——に「A」と刺繍していた。帰宅してからも、夫の遺産でもある屋敷中の動物の剥製に刺繍をしていた、「A」と…。姪の“わたし”には一つ疑問があった。イニシャルだといって叔母さんが刺繍しているアルファベット「A」。しかし叔母さんの名前にAの文字は見あたらない。そんな時、「剥製マニア」という雑誌のインタビューにオハラという男がやってきた。剥製に施された「A」の文字に、オハラは顔をしかめる。
「動物たちの美しさが汚されていくのは我慢ならんのです。即刻おやめなさい。」
そして伯母さんが口を開いた。「アナスタシア。ロシア語で蘇生を意味する言葉。これほど相応しい名前はありませんでしょ? 主人にとっても、動物達にとっても。」
ロシア最後の皇帝ニコライ2世の4女アナスタシア、とは叔母さんのことなのか?
答えは本の中。
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とてつもなくロマンティックな作品。
このひとの小説がそばにあるだけで幸せな気持ちになります。
出てくる人物が皆、とても品が良く慎み深い。
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ありとあらゆるものに刺繍を施す老女。生きている世界は現実なのか夢なのか。確かなのは、自分にとってそれが真実だと言うこと。
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小説を読む楽しみって、自分ではゼッタイ踏み込まないような場所に行って、たぶん出会うことも無いような人達に会うことかもしれない、と改めて思ってしまった。
自分の伯母が、ロシア帝国ロマノフ家最後の生き残り、アナスタシア皇女かもしれない。
しかも、この老いた伯母と二人きりで、猛獣館(剥製マニアの伯父が、足の踏み場もないほど収集していた)に住まなければならない。
その上、恋人は強迫性障害を患っている。
最後まで謎めいていて魅力的だった伯母、繊細だけど頼もしい恋人。
この二人は、互いに良き理解者だったような気がする。
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2008.10.17.
2006.09.27. 心が静かになる、小川さん特有の世界観はすごく素敵。夫の残した大量の(世間的には貴重な)剥製と共に暮らし、それらにAの文字を刺繍していくおばあさん。その孫と恋人(これまた魅力的な人物)を軸に、剥製のことで大騒ぎが起こったりするんだけれど、動じない貴婦人。もしかして、もしかすると…?という心地よい謎を残して物語は幕を下ろす。
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この小説の登場人物は皆何かが欠落しているのだけれど、負の部分を背負うことが劣等なわけではなく、それぞれのルールで営まれてきた生活がある。伯母さんがアナスタシアであるか否かということは、この物語を読みすすめる上でさほど重要ではない。ただ、失われたものの中で生きる彼らの世界を、私は水溜りに張った氷のように薄い薄いレンズを通じて眺めているだけ。それだけで充分贅沢な小説だと思う。
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ロシア王朝の末裔の「アナスタシア」だというユーリ伯母さんと、女子大生の「私」、死んだ伯父さんの、はく製でいっぱいの館で暮らし始める。「私」の彼の、強迫性障害のニコがおばさんと仲良くなり、しょっちゅう遊びに来る。はく製ブローカーのオハラと名乗る男が現れ、ユーリがアナスタシアかどうかを確かめにかかるが・・・。
オハラに対する「私」の心境の変化はこの小説のテーマのひとつかもしれない。ユーリが普通とちょっと違うのは、いつもの小川洋子さんの小説らしいと思う。
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「猛獣館」に暮らす伯母とわたしと彼のお話。
館の空気、人々の振る舞い、すべてにぎこちなさが漂っている。
1つ1つのピースはぎこちなくてもまとまると穏やかな光景に見える、不思議なお話。
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北極グマの剥製に顔をつっこんで絶命した伯父。法律書の生き埋めになって冷たくなっていた父。そして、死んだ動物たちに夜ごと刺繍をほどこす伯母。そして主人公と恋人のニコ……
奇妙な人間と、その関係と、淡々とした中の深い感情。
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猛獣館の貴婦人は本物のアナスタシアか・・。北極グマの頭の剥製に頭を突っ込んで死んだ伯父さん。伯父さんの趣味で集めた剥製の館で暮らすユーリ伯母さんと共に暮らすことになる。恋人のニコは強迫性障害の持ち主で、今は扉をくぐるのに「儀式」が必要なのだ。その暮らしに突然現れたのはフリーライターの小原だった・・。最初はちょっと描写がキツイところがあって戸惑ったが、少しおくとすらすら読めた。小原はインチキ男だと思っていたのだが、最後の展開に少々驚きです。
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小川洋子特有のノワール度、が薄めで、でもひそかにドラマチックで、「博士の愛した数式」寄りの作品。楽しんで読めました。
穏やかな読後感が心地よい一冊です。
剥製集めが趣味で変わり者の叔父が亡くなり、亡命ロシア人でもあるユーリ叔母さんが残された。
大学生の私は剥製だらけの館で叔母と暮らし始める。
ユーリ叔母さんは身の周りの物すべてに「A」の飾り文字を刺繍するという趣味をもつ。
それは彼女の本当の名前、「アナスタシア」のイニシャルだった。
そう、彼女はロマノフ王朝の最後の生き残り、アナスタシア皇女なのだと言う。
はたしてそれは本当なのか――というお話。
強迫性障害のボーイフレンド、ニコの優しさ。
ユーリ叔母さんの青い瞳。
館の中にひしめく剥製の動物たち。
印象的(小川洋子的)なモチーフが配され、時々ぐっとひきつけるシーンを散りばめながら淡々と進んでいく物語。
叔母さんは本当にあのアナスタシアなのか!?というテーマはあくまで仮のテーマであって、そんなことはどうでもいいじゃないか、というところが真のテーマなのでありました。
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《古縞》
剥製集めが趣味の伯父が死に、その妻であるロシア人の伯母さんが大量の剥製とともに残された。主人公は大学の学費を援助してもらう代わりに伯母さんの世話をしながら、剥製だらけの館に住むことになる。みたいなストーリー。
思ってもみなかったストーリーに発展していきます。おもしろい。はっきりいわないタイプの文学すき。ただちょっとはっきり言わなすぎなのかなあ。
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剥製集めが趣味の伯父が死に、その妻であるロシア人の伯母さんが大量の剥製とともに残された。主人公は大学の学費を援助してもらう代わりに伯母さんの世話をしながら、剥製だらけの館に住むことになる。みたいなストーリー。
思ってもみなかったストーリーに発展していきます。おもしろい。はっきりいわないタイプの文学すき。ただちょっとはっきり言わなすぎなのかなあ。
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私と70歳のユーリ伯母さんそして心の病である脅迫神経症の二コの3人は伯父さんが残した動物の毛皮や剥製などで埋め尽くされている屋敷で生活していたその生活が剥製コレクターのオハラ氏が現れたことでユーリ伯母さんがロシア帝国ロマノフ朝最後の皇女、アナスタシアではないかと言われ始め
いろんな騒動が巻き起こる。おとぎ話のような浮世離れした話だが、ほのぼのとしたホンワカとした読後感があった。