紙の本
アジア史の中に「傭兵」を位置づけてみたら?
2002/02/12 09:27
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投稿者:FAT - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代の我々が「傭兵」という響きから想起するのは、かなりロマンチックな世界、例えて言えば、新谷かおるの『エリア88』のような世界である。要は、外人部隊の格好良さということだ。志願制・徴兵制の如何を問わず、国民軍制度が当たり前になってしまった現代人にとって、傭兵=外人部隊になってしまう。
しかし、本書はそのようなロマンチックな外人部隊を描くのではなく、生きるために「血の輸出」をしなければならなかった、ヨーロッパ中世から近代初頭の傭兵の歴史的展開を描いている。中心的に描かれるのはスイス傭兵、ドイツ傭兵である。
一方の「主人公」であるスイス傭兵は、オーストリアとフランスの闘争の中で翻弄される中、連邦という「国家」組織がその住民を各勢力に対して傭兵として送り出していたという。血を売ることで中立を確保する歴史が続いていたといことだ。そのため、戦場で親族が対決するということもあったそうだ。ドイツ傭兵であるランツクネヒトも(最後の華は傭兵隊長のヴァレンシュタイン? 日本で言えばさしずめ真田幸村というところか)、南部ドイツの食い詰め者であり、その境遇も似たようなものであろう。いずれにせよ、ドイツ30年戦争の戦場で散っていったのは、これらの傭兵であった。そして、30年戦争の停戦条約であるウェストファリア条約が近代外交・近代国家制度の嚆矢であったように、この戦争以後、傭兵の意義が低下し、絶対王政下で常備軍制が定着し、そしてフランス革命による国民軍=民族国家軍の登場により、傭兵はその役割を終える。
本書の大まかな記述を追ってみると、このようになるのだが、本書を読了すると西洋傭兵史との対比で別の疑問、「アジアにおける傭兵の歴史がどうなっていたのだろう」という疑問が生まれてくる。
そもそも、中国史や日本では傭兵という概念には余りお目にかからない(本書の中では、平清盛が古代末期に現れた最大の傭兵隊長として言及されているが)。それより、軍閥という概念が用いられる。一方で、国家権力の制御から逃れた軍事力自体は、史上良く現れてくる。例えば、唐朝後半期の節度使などは、もしかしたら傭兵(隊長)という概念でくくれるのであろうか。また、中華民国期の軍閥はどうなるのであろうか。
著者は、本書の「はじめに」において、
「古来、戦争とは忠誠、祖国愛といった観念とは対極に位置していた傭兵たちによって担われていたのである。それがいつしかナショナリズムにより途方もない数の人々が祖国にために身を捨てる国民戦争に変質したのである。であるならば、これらの傭兵たちの歴史覗けばひょっとしたら近代のナショナリズムの仕組みが逆説的にほの見えてくるかもしれない。本書はこんな淡い期待のもとに書かれた。」
と述べている。とすれば、アジア史における「傭兵」の歩みを追跡することも、アジアにおけるナショナリズムの発展の解明の一助になるのではないだろうか。それにとどまらず、アジア大陸における、「特定の組織・個人の下に参集し、金銭報酬を得るために兵士となる集団」という意味での傭兵の歴史を解き明かすことで、新しい側面からアジアにおける国家制度の変遷の過程を分析できるのではないかと、思えてきた。本書は、そんな感想を抱かせる好著である。
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傭兵のことが通して解る本。イタリア人に邪悪な戦争とか呼ばれちゃうほどのスイス人傭兵の戦いっぷりってどれ程だったのかと……!
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「古来、戦争とは忠誠、祖国愛といった観念とは対極に位置していた傭兵たちによって担われていたのである。それがいつしかナショナリズムにより途方もない数の人びとが祖国のために身を捨てる国民戦争に変質したのである。であるならば、これら傭兵たちの歴史を覗けばひょっとしたら近代ナショナリズムの仕組みが逆説的にほの見えてくるかもしれない。本書はこんな淡い期待のもとに書かれた」。というテーマをなんとなく踏まえながらも、『傭兵の二千年史』というタイトルに忠実な、西ヨーロッパの傭兵制度について古代ギリシャからナチスの突撃隊までを概観している本だった。いろいろ知らないことも多かったし、面白かった。
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「え〜傭兵?マジ?」
「傭兵が許されるのはフランス革命までだよね〜」
「キャハハ、ハハ、キャフタ!」
二千年史といいながら、メインは近世ヨーロッパ。
悪名高き傭兵部隊、ランツクネヒトやスイス人傭兵の
活躍を中心に、ヴァレンシュタインをはじめ戦場のプロデューサである
傭兵隊長の生き様が描かれる。
ナショナリズムの誕生を傭兵を道具に逆説的に説いた一冊。
描き方がかっこよすぎて、むしろガリガリ読めなかった。
「戦争」のスタイルを別の視点で知ることが出来た。
兵站ってのは重要だなあ。太平洋戦争よろしく、ああいうことになって困るのは現地民ということか。
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国民軍という概念が未だないフランス革命以前、戦争の主役を担っていたのは王侯でも諸侯でも貴族でもなく、「傭兵」という戦闘の、いや、「戦争商売」のプロ達であった。
彼等にとって戦争とは、生きる為の商売であり、また存在理由でもあった。だからこそ彼等は戦争に柔軟に対応をした。彼等が活躍した時代の戦闘に歯切れの悪さが多いのはそのためである。
時代は少しずつ、動き、傭兵が生きる為のための戦争ではなく、王侯等の覇権のための戦争となる。
傭兵達はどうなっていくのか。各時代の名将達を挙げながら、彼等、傭兵達の路を本書は辿っていく。
(2009/5/5読了)
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世界史は必修で軽くやった程度なので少し面白みが減りました残念です。
傭兵は世界で二番目に古い職業。
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血の輸出――スイス傭兵部隊とは国家管理の傭兵であった。しかも州政庁による強制徴募など必要なかった。働き口のない屈強な若者たちが先を争って傭兵募兵に応じたのである。17世紀、フランスの太陽王ルイ14世のある高官が、スイスの司令官に「スイスの傭兵に支払う賃金は金の延べ板にしてパリからバーゼルまでの道を覆い尽くしてしまう」とスイス人の金の亡者ぶりに不平を言い募った。するとその将軍はすかさず、「フランスのためにスイス人の流した血潮はパリからバーゼルに至るありとあらゆる河川に満ち溢れている」と切り返した。たしかに「金のないところスイス兵なし」と言われるほど貪欲に金と略奪品を求めてヨーロッパ諸勢力の傭兵となったスイス傭兵部隊だが、なんといっても最大のお得意様はフランスであった。フランスのために300年間で50万以上のスイス兵が命を落としたと言われている。そのためか、フランス最古参の連隊「ヒカルディ」の連隊旗はスイス傭兵に敬意を表して白地に赤十字となっている
2003年4月6日読了
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傭兵ピエールを読む前に傭兵について勉強しておこうと思って
読んでみたわけなんですけど、傭兵ってけっこう深かったです。
ナショナリズムって比較的近代の概念なんだなー、みたいな。
2010/3/6読了
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本書のテーマは、古代ヘレニズムから近代に至るまでのヨーロッパ世界における「戦争の担い手」の姿を描き出すことにある。現代において一般的な徴兵や志願兵による国民軍は、必ずしも世界史においてはスタンダードな軍隊ではない。むしろ、中世から近世のヨーロッパにかけて、常に戦争の中心にいたのは、タイトルにもある「傭兵」であった。中でも、スイス人傭兵やランツクネヒトは至る所に出没し、戦争の趨勢を左右している。スペインハプスブルク家の栄光と没落にもこの傭兵戦力が関わっている。マウリッツ・オラニエやグスタフ・アドルフは、徹底した軍制改革よってランツクネヒトを時代遅れなモノとし、それぞれオランダとスウェーデンを歴史の表舞台に引き上げた。時代とともに移り変わる傭兵像を追いかければ、ヨーロッパ史が一層楽しくなる。高校時代にこういう本を読んでいたら、きっと世界史に苦手意識なんて持たなかったんだろうなぁ。
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[ 内容 ]
古代ギリシアの民主制の崩壊に始まり、中世を経て、ナポレオンの時代に至るまで、歴史の転換点で活躍したのは多くの傭兵たちだった。
[ 目次 ]
クセノフォンの遁走劇
パックス・ロマーナの終焉
騎士の時代
イタリア・ルネッサンスの華、傭兵隊長
血の輸出
ランツクネヒトの登場
果てしなく続く邪悪な戦争
ランツクネヒト崩壊の足音
国家権力の走狗となる傭兵
太陽王の傭兵たち
傭兵哀史
生き残る傭兵
[ POP ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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20101222
やる夫のマリアテレジア?で紹介されてて読んだ本
スイス傭兵とかドイツ傭兵(ランツクネヒト)とかが良く分かる。
関連するので戦術の進化も少しふれられている
(それは別途調べた方がいいが。ファランクスでアララララーイ!とか)
ドイツ農民戦争も触れられていて、中身を初めて知った
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グスタフ・アドルフによる軍制改革の完成、これを読みたくて手に取った本ですが、全体的にも非常に面白かったです。特にスイス傭兵やランツクネヒトがヨーロッパを席巻していたというのは興味深かったですね。
そして傭兵に代わって常備軍が、まず商業が発達していたオランダで導入され、マウリッツが近代的な軍制改革を行う。その流れを受け継ぎ、完成させたのがグスタフ・アドルフです。彼が作り上げたスウェーデン軍の強さは三十年戦争で実証されます。
傭兵という視点から見る中世~近代のヨーロッパ史もまた、味わい深いものがありますね。
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傭兵は人類最古の職業だとか。近代〜現代に至る常備軍制度が成立する前の戦争の担い手は、期間労働者である傭兵でした。つまり彼らが歴史を動かしてきたのです。本書はこの傭兵の歴史を簡潔にまとめた良書です。
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『傭兵ピエール』を読むついでに参考になるかと思いつつ読んでみた一冊。ヨーロッパにおける「傭兵」の歴史上の影響について論じる。
傭兵は娼婦に続いて世界で2番目に古い職業。ローマ帝国滅亡の要因の1つに、ゲルマン人傭兵の増加があったことは有名である。また、中世の宗教勢力と王侯勢力の対立、ルネサンスと宗教改革の時代、近代国民国家の成立といった歴史の転換期には必ずと言っていいほど傭兵が絡んでいたこと。
興味深かったのは「ランツクネヒト」という主に貧農の次男以降から構成される傭兵部隊について。兵士集会と呼ばれる現在の労働組合に似た民主主義的な傭兵の組織があること、現在のベンチャー起業家のような感覚でランツクネヒトを立ち上げる者が多かったこと、酒保商人という食糧だけでなく、武具や雑貨、女に至るまで提供する御用達商人が存在したというのは知らなかったので驚きである。
他にも興味深い記述はある。また、三十年戦争による中間層(領主、諸侯層)の没落で王権の絶対化が進んだ頃にも傭兵は深く時代に関わりを持っていた。
有名なボヘミアの傭兵隊長・ヴァレンシュタインが神聖ローマ帝国皇帝から徴税権を獲得し、略奪の合法化と効率化を進めた上に、ユダヤ人金融資本家から融資を受けて15万人の傭兵隊を組織する。また、ヴァレンシュタインと戦ったスウェーデン王であるグスタフ・アドルフも自国の人口100万人の内、13万人を徴兵しようしたところ、欠員が出たためにそれを外国人傭兵で補った。三十年戦争は傭兵同士の戦争でもあったのだ。
近代になると国家の一体化という観点から徴兵制を導入する国が増加する。一方で傭兵の出番が減り、20世紀以降、組織や兵器の専門化が進むと志願兵制の国が増えて、活躍する傭兵が再び出てくるなど、軍隊を取り巻く環境も目まぐるしく変化する。今後どうなるやら…
著者は日本史と対比させて語るのが好きなようで、わかりやすく解説してくれている。なかなか勉強になった一冊。
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高校時代が日本史専攻だから人名をすぐ忘れんなー。
現代の世界の動きを判断するのに歴史勉強は必須なのでー。
あとは個人の備忘録。
スイス誓約同盟
クオリフォン
フリードリッヒ一世 バロバロッサ 赤髭王
マクシミリアン一世
ランツクネヒト
ゲオルク・フォン・フルンツベルク
カルヴァン主義(改革長老教会)
ナントの勅令
ユグノー戦争
マウリッツ・オライエ
グスタフ・アドルフ
ヴァレンシュタイン
フリードリッヒ大王
マリア・テレジア