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紙の本
編集される都市・再編集される書物
2003/10/07 18:10
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投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
不思議な、そして魅力的な本である。批評家宮川淳氏が、文学研究者
清水徹氏のテクストをセレクトしつつ万華鏡のように並べかえる試み。
テクスト自体はもちろん清水氏の論考である。しかしながら関心ある
いは好みによって本書を再編集したのは、宮川氏である。
著者の表記は2人の連名となっている。これは、旧版でも、新版(本
書)でも変わりはない。
都市は匿名性で満たされている。そして書物も、著者の手を離れた
瞬間から、多数の匿名者の元に送り届けられる。そして無数の読み
が繰返されながら、無限の解釈が生成する。とすると本書の様な実験
的な試みは、書物がひとつの都市あるいは都市を書物のなかに内蔵
するという極めて刺激的なものといえる。
編集という作業もまさしくこれに類似していると思われる。様々な
加工ののちに生成される一冊の美しい書物。幾多の人々の知恵を
介して、創造された書物に対して、私は畏敬の念を感じる。
いかなる読解をされようとも、書物は、既に存在しているのである。
清水氏の広範なイメージを有したテクストは、宮川氏のブリコラージュ
によってますますその輝きを増しているように感じられる。
ナボコフから新古今和歌集へ、そしてブランショについて書かれた文章
のあとにロシアフォルマリズムが言及され、ロラン・バルトについての
やや長い文章のあとにビュトールが不意打ちする。幕間にも多くの興味
深い作家及び作品への言及が登場する。
これはまさしく都市を移動する際に生成する偶発性そのものである。
魅力的な事象を共同作業によって見い出す行為をコラボレーションと
称すれば、本書はその先駆的試みといえる。
この、どこにもないコラボレーションたる本書を、ぜひ、都市を歩く
感覚で読んで頂きたいと思う。
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