紙の本
公共事業の本質とは何か
2004/02/01 18:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書の著者は、慶応大学で教鞭をとる政治学者で、クラシック音楽の愛好家でもある。本書は、パイプオルガンにスポットライトを当てて公共事業を論じた良書である。
本書では、どのようなところにパイプオルガンが作られ、そしてどのように使われているか、ということを、各地の取材や調査を通じて、詳細に論じている。たとえば、公営ホールにあるパイプオルガンは西に少なく東に多い。また、演奏のプロによる市民講座が行われている自治体がある一方で、その存在すら形骸化しているものも少なくない。極めて「政治的」な理由で設置されたパイプオルガンすらある。
パイプオルガンは、高度経済成長期からバブル期にかけて多く設置された。だが、バブル崩壊とともに、ほかの公共事業と同様に、多数の問題点も浮き彫りになった。また、多くのオルガンの設置にもかかわらず、(評者も含めて)日本人にオルガンの文化が定着したとも言いがたい。財政的な面から見ても、文化的な面から見ても、失敗としかいえないケースが多い。
本書が問うのは、公共事業の本質である。なぜオルガンを多数設置しても、コンサートの観客は減り、人気も上がらないのか、ということを、政治学者とクラシック音楽の愛好家の双方の視点から論じているのが興味深い。税金によって設置されたものをいかに有効活用するか、というのは政治の責任である。
かつて雇用保険などによって作られた建物でも、今では税込み1050円や10500円で売られてたものも存在するという(2003年6月30日付毎日新聞社説)。小泉政権が発足してから「公共事業」に関する議論が盛んだが、本書に勝る公共事業論は少ないのではないか。公共事業にかかわる人、特に文化行政にかかわる人は必読の内容である。
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【パイプオルガンから見た日本政治】
ハード偏重の日本の文化政策を再確認すると同時に、文化政策も道路建設やダム建設のような公共事業がもつ病理と無縁ではないことに気づかされた。しかし、現在文化施設建設費はかなりの程度圧縮されている。様々な利益団体が関わる予算がどうして激減したのか不思議である。
パイプオルガンの偏在や日本オルガニスト協会を支配する東京芸大OBの存在ということも興味深かった。
また、芸術家が政策決定に関わる場合、美意識に関わる彼らの意見を客観的に評価するのは難しいということもわかった。
以下あらすじ
大型で高価なパイプオルガンの公共ホールへの設置は90年代に激増した。
地方の首長は自らの業績をアピールする手段として見栄えのするオルガンの設置をトップダウンで決定することが多かった。しかし、首長にはオルガンの専門知識がないため、必然的に専門家に頼ることになる。そのため、政策決定過程には日本オルガニスト協会、商社、オルガンビルダーといった団体が参加し、大きな影響力を行使した。同時に彼らには既得権益が生まれることになった。
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[ 内容 ]
バブル期、多くの地方自治体がパイプオルガンを導入した。
いま、その多くは「宝の持ち腐れ」である。
特権的な一部の演奏家しか利用できなかったり、故障だらけで法外なメンテナンス費用が毎年かかったり、税金で買ったことを十分に認識していないとしか思えないケースがたくさんある。
そして、オルガンの機種選定や音楽ホールの運営委託に於いても、国立大学教員などによる不明朗な動きが数々見られる。
クラシック音楽の世界も腐敗と無縁ではないのだ。
[ 目次 ]
第1章 なぜパイプオルガンなのか
第2章 どこにオルガンはあるのか
第3章 パイプオルガンという楽器
第4章 こうしてオルガンは導入された
第5章 市民はオルガンに触れるか
第6章 オルガンは誰のものか
第7章 誰がオルガンを選ぶのか
第8章 なぜガルニエが選ばれるのか
終章 オルガンから政治が見えたか
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よくまとまっている。
ただ、どうも多視的ではないし、若干上から目線、しかも最後の方は目の敵みたいな繰り返しが多いため、読んでいて気分は良くない。最初の方が割とスカッとした書き口なのでそのまま最後まで行って欲しかった。まぁネタ切れたんだろうな、という印象。
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バブル期に隆盛を極めた自治体によるコンサートホール建設と、それに伴うパイプオルガン。
クラシック音楽文化が根付く難しさと、自治体の『予算』の使い方の問題に迫っている。