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「小兵衛さんは、ついに、そこまで到達なすったか……」
2012/01/30 08:38
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投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
第十五巻第一話は『おたま』という短編で、その後は、長編『二十番斬り』である。
「おたま」とは小兵衛の飼い猫のなまえだ。前に、第十二巻第一話『白い猫』で語られた、小兵衛と彼の妻にして大治郎の母のお貞とが飼っていた猫の名も、カタカナで「タマ」だった。『白い猫』のラストでは、おはるが、捨て猫を飼いたいと言うのに、小兵衛が強く反対し、他の猫好きの夫婦のところへ持って行くと言っていた。ところが、この第十二巻第一話『白い猫』では、「おたま」は「一昨年の、ちょうど今ごろ」、迷い込んで来て、住みついた、という。
この「今ごろ」というのが、小兵衛隠宅の庭の白梅が散り、綾瀬川の堤の桜の蕾が綻びる頃である。第十四巻の終わりからそのまま順に続いている話だとすると、これは天明四年の春である。第十二巻第一話『白い猫』は、天明二年秋の話である。だから、一昨年は一昨年だけど、春と秋とで違うし、だいたい、『白い猫』では、「タマ」が死んだ後、生きものを飼うのをやめた、と述べられていた。
それなのに、この第十五巻第一話では「おたま」という猫を飼っていたことになっていて、しかも、おはるが猫嫌いになっている。どうしたことだ。ま、いい。おはるにいじめられたせいか、どこかへ行ってしまっていたおたまが、ふらっと帰って来て、小兵衛をさる場所に連れて行き、そして、事件の解決に導く。その話もおもしろいが、おはるが小兵衛のところに来たばかりのときに見たという、「おくろ」という猫の話がおもしろい。
>居間に寝そべっていた秋山小兵衛が銀煙管を手にして、半身を起し、少し離れたところに置いてある煙草盆へ左手を伸ばしかけた(中略)黒い牝猫のおくろが、むっくりと起きあがった。(中略)煙草盆へ近寄り、これへ自分の尻をあてがい、小兵衛の目の前まで押して行った(後略)
猫に小兵衛の意図を悟らせた銀煙管、次の長編『二十番斬り』の劈頭で、武器になる。
ところで、第十四巻『暗殺者』は、天明四年二月の事件で終っていた。天明四年は陰暦では閏一月があり、天明四年三月は1784年5月にあたる。そして、長編『二十番斬り』は陰暦三月十五日に始まり、三月二十四日の、殿中での田沼意知襲撃事件の翌日にクライマックスを迎えるのである。
銀煙管で撃退した曲者が助太刀を連れて舞い戻って来たときも、二十番斬りのときも、小兵衛は超人的な働きをした。しかし、そもそも、三月十五日の朝、目眩を起して倒れてしまい、おはるが心配して小川宗哲を呼びに行ったほどなのである。宗哲は小兵衛を診察して、老人のからだになった、と言った。
宗哲から一日静かにしていれば大丈夫と言われたが、それから半日もたたないうちに、曲者に追われて深手を負った男が幼い男の子を抱いて飛び込んできた途端、銀煙管を投げて大暴れ、小兵衛の目眩はどこかへ吹っ飛んでしまう。その男は、かつての門人の井関助太郎だった。男の子はおまえの息子か?ときくと、
>「何をもってそのような」
という返事。四つか五つだが、その年齢よりもおとなびて見え、人品いやしからず、たいへん無口で、名は、「とよまつ」、すなわち、豊松という。
大治郎と三冬の息子にして小兵衛の初孫小太郎が、豊松の遊び相手になる。秋山一家をあげて、井関助太郎と豊松を守るのだ。さらに、小川宗哲医師、横山正元医師、四谷の弥七に傘屋の徳次郎、手裏剣お秀まで動員する。そのほか、茶店とか駕籠屋とか、身近な人々も手を貸してくれる。日頃からそういう人脈を作っておくのも剣術の極意なのか? と、思うほどだ。
口の堅い井関助太郎とその父の秘密が、最後に明かされる。田沼意知殿中襲撃事件に衝撃を受けた小兵衛は、もはや、武士の世に見切りをつけ、それが、豊松の運命の決定に影響を与える。豊松もそのほうが幸福なようだった。
田沼家を襲う悲劇はこれで終らない。まだ、意次の失脚は、これからである。私は、三冬や、大治郎や、飯田粂太郎の運命が心配で仕方がない。だが、この巻では、まだ彼ら自身に悲劇や不運は襲って来ていない。
それより、小兵衛の二十番斬りである。いやそもそも三月十五日の晩に、曲者が再び多人数で襲ってきたそのときに目眩が起こって、その後、何がどうなったのか覚えていないという小兵衛の、スーパー老人ぶりである。
>「小兵衛さんは、ついに、そこまで到達なすったか……」
この小川宗哲医師のせりふに、私は、中島敦の『名人伝』を思い出してしまった。もっとも、『名人伝』の主人公は、最後、弓の名もその使い方も忘れてしまう。小兵衛はそこまで行っていないが……、九十余歳まで生きるということだから、その頃には、もしかしたら、そうなっているのかも?
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中学校時代から何度も読み続けている池波正太郎もの。
たぶん一番最初に読んだのがこのシリーズ。
食べ物に対する興味も、江戸時代の言葉、作法も全てこれで覚えた。
読まないと人生損だぜ。
同じ時期から池波正太郎が好きだった人を人だけ知っている。
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おたま
二十番斬り(特別長編)
目眩の日
皆川石見守屋敷
誘拐
その前夜
流星
卯の花腐し
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お家騒動に絡む長編。小兵衛が年相応の(?)目眩を感じた所から物語が始まる。そろそろ剣客商売シリーズも終盤を迎えた。10.12.23
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20120714 シリーズも終わりに近い。小兵衛の老いが実感される。人と共にあるシリーズだからこそなのだろう。さすがに小兵衛の歳を越すことはないだろうがまだ繰り返し読みたい。
20141015 又、読み直してみて前回気にしなかった少しづつが気になって来た。やはり作者と主人公の関係は重なるようだ。
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剣客商売シリーズ15作目
得体の知れぬ眩暈に襲われたその日、小兵衛は、恩師・辻平右衛門ゆかりの侍、井関助太郎を匿うことになる。
井関は手負いで、しかも曰くありげな小さな男の子を連れていた。
小兵衛にすら多くを語らぬ井関に、忍び寄る刺客の群れ。小兵衛は久しぶりに全身に力の漲るのを感じるのだった。
一方、江戸城内では、三冬の父、田沼意次が窮地に。
前作から1ヶ月後くらいのお話です。
小兵衛は66歳。口では弱気な事を言っていても小兵衛に限って…と思っていたら、今までにない眩暈でこの物語は始まる。
宗哲先生によると、「ようやく老人の躰になった」とのこと。
ほっとされられたのも束の間、大きな事件が小兵衛に降りかかる。
でも、その事で小兵衛の眼が輝きを取り戻したのも事実で、なんだか複雑な心持ち。
今までも大きな力と相対してきた小兵衛だけれど、今回は九千石の旗本。そのお家騒動に巻き込まれた形である。
詳しい事も知り得ぬままに、小兵衛の頼みなら、と何も聞かずに働いてくれる人たちがいる。それと同時に「侍」と呼べる人たちがどんどんいなくなっているのもこの時代。
小兵衛をして、「もはや武家の世は終わりじゃ」と言わしめるほど、武士の世界は腐りきってしまった。
幕府解体までまだ80年余りあるのに…。
残すところあと一冊になってしまった剣客商売シリーズ。
一冊読み終わるごとに寂しい気持ちになります。
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ますます老いを感じる小兵衛。
しかし、剣はますます鋭さを増しているようにも見える。
もうちょっと殺陣のシーンが長くてもいいのになとも思いますが、
このホドホド感がいいのでしょうか?
最後の剣客との戦いも読者の想像にお任せするような書き方。
田沼意次の権勢にも陰りが見え始め物語が収束していく感じを残念に思いながら読み進めました。
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時代小説。「剣客商売」シリーズ第15弾。短編1作と長編。
「おたま」 かしこい猫がいたものだ。
この剣客シリーズで何作か猫の話があるのだが、小兵衛やおはるが猫好きなのかどうか食い違うような気もする。
「二十番斬り」
昔の弟子、井関助太郎が小兵衛宅へ逃げ込んでくる。連れていたのは豊松という小さな男の子。二人を追ってくる者たちからかくまうが、助太郎は仔細を言わない。
一方、三冬の父、意次は時代の流れにて窮地に立たされる・・。
冒頭で「やっと老人の体になったしるし」の眩暈に襲われた小兵衛。
シリーズはこの巻で終わりのよう。
この後の小兵衛や大治郎たちはどう生きたのだろう。分からないけれど想像するのは楽しい。しかし寂しい。
(かと思ったら、16もありました。得した気分です)
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秋山小兵衛 66歳 おはる 26歳。
立ちくらみがする年頃となった。
井関助太郎が 豊松という子供を携え
小兵衛の家にやってきた。
井関助太郎の父 井関平左衛門は 同じ門下生だった。
その因縁から 助太郎を助けようと 獅子奮迅の努力をする小兵衛。
小兵衛が 老人になったと感じ
先妻のお貞が 夢で出迎えにくるようにまでなった。
66歳。そのチカラを 発揮する。
剣客商売も終わりに近づく。
作者と小兵衛の年齢が近づくことで、
老いることへに抗う姿が見える。
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シリーズ第15弾。
頭に「おたま」という短編を登場させ、「二十番斬り」は読みごたえのある長編です。秋山小兵衛も年齢を重ね、読み進むうちに読者に不安も・・・。でも、小兵衛はさすがスゴイ剣客です。
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田沼意次が活躍したころの江戸時代中期に、剣術ひとすじに生きた剣客父子の活躍を描いた池波正太郎の代表作の一つ。
主人公が若かった頃に関わった人物が登場する事件を解決していくが、その一方で老中の田沼が窮地に追い込まれていく時代背景も描いている。シリーズの中で読み残していた15巻をようやく読み終えた。
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本書に収録された最初の一編「おたま」のほのぼのとした話から一転、特別長編「二十番斬り」はハラハラの連続だ。まず、小兵衛の身体的な不安(目眩)。次にかつての門弟と連れの幼児、大身旗本の家老、側用人の暗躍、三冬の父でもある田沼意次絡みの騒動と、まさに次々と起きる出来事に小兵衛の焦りが読者にも感染する。終盤で旗本抱え屋敷で十九人を斬って倒した様は、テレビ時代劇の殺陣を見ているようだった。解説も全て読んで読了としているが、常盤氏に影響されて小兵衛の目眩が著者・池波氏の体調不良ではと思ったのは書いておかねばなるまい
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ミステリー要素もあり面白く、1日で読み切った。ただし、すべての謎が明らかになるわけでないため、読み終わった後にもやもやした感じが残る。
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おたま 猫かわいい
二十番斬り 長編。最終回っぽい雰囲気。以下二十番斬り
目眩の日
皆川石見守屋敷
誘拐
その前夜
流星
卯の花腐し
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剣客商売15作目。
小兵衛さんが、身体的にもメンタル的にも老いてきた感じがして、とても寂しくなるスタート。
次の作品が最終話だと分かっているので、もしや。。。と、心配をしながら読んでいたが、途中から、いつもの小兵衛さんになったので、安心した。
と言っても、1桁台の作とは違うけど。。
作を重ねる毎に、侍の時代の終焉が顕著になってくる。
それに伴い、小兵衛さんの憂いも深まる。
さあ、次作は最終巻。