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「ファミリー。」(本書所収)について思うこと。
2005/03/03 05:45
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Straight No Chaser - この投稿者のレビュー一覧を見る
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松田優作ファンとしては、なんだか腹が立ってこなくてはいけないところなのかもしれないと思いつつも、(そこはかとない?)すがすがしさが残ってしまうのだ。いったいなぜなのか。それは大阪芸人井上まーの尾崎豊ネタをはじめて見たときの尾崎豊ファンの心情に少し似ているようにも思う。しかし、ここで「愛」というような言葉を口にしたなら、宮沢章夫はしれーっとした目で遠くを見やるに違いない。井上まーには尾崎への愛があると言いうるように感じるが、宮沢章夫に松田優作への愛があるとは、これっぽっちも思えない。許せなくなってきそうだ…許せねえ! ゆうさくをばかにしやがって……と、そんなこだわりを受け流すようにいつのまにか話題は変わり、「サニーサイドアップ」という初老の男の発話行為が俎上に載せられる。場面設定は近所の喫茶店。
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宮沢流のおかしみが広がってくるのは、たとえばこんなところである。「目玉焼き」……たしかにすごいことになっている。ここでかんぜんに脱力している。もう怒りの種さえ見当たらない。と、そこまできておもむろに、松田優作の「ファミリー」は初老の男の「サニーサイドアップ」とは違って、つまり単なる「意味もなく英語で表現する違和感」の問題ではなくて、その「いかにも、『いかした感じ』が、『いかしてる』だけに、恥ずかしいのだ」と、松田優作をさらに叩きのめすのである。許せない、と思う。書いていて思うのだ、これを。しかし読んでいるときはそうではない。ここが宮沢章夫のすごさである。おまけに細やかな気配りを忘れない宮沢氏は、ここでNHKのアナウンサーの話に転じて、松田優作フリークの怒りを逸らしてみせる。スノーボードの世界で使われるらしい「クール」という言葉にまつわる話題(妄想)をひとしきり展開してみせるのだ。で、最後はやはり「ファミリー」である。なにせタイトルが「ファミリー。」なのだから仕方ないのだが、それにしてもこれは死者に鞭打っているのではないか、ゆうさくぅぅぅぅ、と涙が流れてくるではないか……。で、気づく。含羞。宮沢章夫の含羞。「恥ずかしい」という感覚、その自然な発露(?)これなのか、と。これが、あのおかしみの源泉なのか、と。そうに違いないのだ、と。これでもかこれでもか、と。
こんなふうなエッセイが並んだ一冊です。そして宮沢章夫の処女小説「サーチエンジン・システムクラッシュ」につながるような、コンピュータにまつわる文章も満載。お買い得な一冊だと思います。
世界は宮沢章夫的である
2004/06/20 15:45
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
なにしろタイトルがいいですね。カバー裏の「脱力感みなぎる71篇」という評言も秀抜です。力が抜けて脱臼し、関節がはずれる感じがうまく表現されています。脱臼とか関節はずしというと、かのジャック・デリダの脱構築が思い浮かびます。筒井康隆の「関節話法」(『宇宙衞生博覽會』)は、文字どおり関節を鳴らして異星人とのコミュニケーションを図るという趣向でしたが、宮沢章夫の関節話法は、世界の根源にある力がぎくしゃくと軋み、狂気すれすれの世界が現出するその様を、ほとんど狂気そのものの精神でもって描写し尽くします。(脱構築とはつながらなかったけれど、このつながらなさ、ズレた感じもまた宮沢章夫的である、と言えば言えます。)実際、宮沢章夫のエッセイは、読みすぎると狂いますよ。それだけの力があります。「読書する犬」に収められた書評や解説は、一見まっとうなことを書いているように見えるふしがありますが、騙されてはいけません。やはりそこはハマると抜け出せなくなる狂気の世界です。要注意。
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