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キッドナップ・ツアー みんなのレビュー
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紙の本
父親が自分の娘を誘拐します。
2008/05/22 08:28
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
キッドナップ・ツアー 角田光代 新潮文庫
キッドナップ=誘拐。家に寄り付かない父親が娘を誘拐する設定の物語となっています。冒頭、小学5年生女の子ハルの言葉がおじさんくさいのですが、文章からは片親同然のこどものさみしさがただよってきます。
父親はなぜ娘を誘拐したのだろうか。そのことについては最後まで語られません。ふたりは、父と娘の関係ではなくて、恋人同士のようです。誘拐の目的は不明という秘密をかかえながら「思い出」とか「親族関係」をからめて物語は進行していきます。
108ページの父親の言葉には同感です。父いわく、近頃の若い者は、自分の世話はいつでもどこでもだれかがしてくれると勘違いしている。私はそこに「ただで」という単語を付け加えたい。他人は親御さんのように、勉強さえしていれば、ちやほや至れり尽くせりなどしてくれない。私はこれを「長男さん、長女さん」現象と呼んでいます。この部分は、194ページにある父親の言葉にもつながっていきます。
中盤にある父親の行動は模範です。親はこどもにかっこ悪い姿を見せたほうが子どもへの教育になります。
人間は「ひとり」だということを確認させてくれる作品です。175ページにある、自分で母親とかきょうだいを選ぶことができたとして、どうやって選ぶのだろう。186ページ、終わりが近い。どうやってオチをつけるのだろう。
ラストで私は、私の亡祖父や亡父の別れのときの姿を思い出しました。
紙の本
奇妙な誘拐が、親子の距離を近づける
2006/09/09 22:27
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よし - この投稿者のレビュー一覧を見る
「夏休みの第1日目、私はユウカイされた」。ハルは父に誘拐された。どこへ行くのか、何のためか、そして母と何の取引をするのか。全く不明のまま父と娘の誘拐行。父を敬遠していたハルは次第に父に惹かれてゆく。
一言でいえば、「親と子の絆」の再確認の物語であることは間違いないと思います。ただ本書はそれだけではなく、もっと言えば人と人との関係を角田さんは書きたかったのではないでしょうか。
だらしない父親に誘拐され、一緒に過ごす夏休み。海に行き、夜の海に一緒に浮かぶ。そして、バーベキューをするために山に行き穴の開いたテントで過ごす夜。(この二つのシーンが涙なのです)
こうしたことを重ねていくうち、親と子の距離はどんどん近くなっていきま
す。ぎこちない会話や選ぶ料理のメニューなどにそれが出てきます。最後にはハル自身も、私がいなければこの父はだめだと思えてくる。だから離れたくない気持ちになってくるのです。
母と取引をし続ける父。この取引が意味するものとは何なのでしょうか。そして、結末は?きっと、最後まで読んであなたなりの意味をみつけることでしょう。
決して切ないだけではなく、面白く、愉快な誘拐劇。そして、ラストは清清しさも。今後の父親との関係も示唆しています。きっとハルの中でこの誘拐が今後大きい支えとなっていくでしょう。
本当にいいです。児童書だけにとどまらせておく小説ではないと思います
もう一ついいのはこの文庫版のカバー。作者は唐仁原教久さん。どうでもこの作家さんは後ろ向きの作家さんといわれるらしい。確かに正面から描いたものは少ないようですし、後ろ姿は表紙のように味があります。
ぜひ子どもから大人まで読んでみてください。それぞれが何かを感じるはずです。
いいですねー、角田作品。
紙の本
人を「好き」な気持ちと夏を思い出すカワイイお話
2005/05/20 00:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:homamiya - この投稿者のレビュー一覧を見る
旅で、日常と異なる場所で、誰かとすごく楽しい思いを共有する事があると、その景色や空気や楽しかった気持ちが鮮やかに残る。この本を読んだあと、それを思い出した。
あらすじは、小学5年生のハルが、長く会っていなかった自分の父親に「ユウカイ」されていろんな場所を放浪する、というもの。どうってことはないありがちな話だ。この話がすごいのは、そのありがちな話の中にちりばめられた、ハルの「気持ち」の描写だ。直木賞受賞作の「対岸の彼女」同様、実にカンタンな言葉で誰もが身に覚えのある気持ちを書くので、読者は思わず自分の体験を思い出してハルの「気持ち」を文で書かれている以上に味わってしまう。ハルはユウカイ中に、おとうさんの事を好きになる。(父親として好きになる、というより人として好きになるような「好き」なのだが)
ハルが体験したユウカイは、ハルにとっては後からも鮮やかによみがえる思い出になるのだろう。人を好きになるって、その人と一緒に楽しく過ごすって、こういう気持ちだよな、と思い出す事ができる、とてもカワイイ1冊だ。
また、この話の季節は夏である。強い陽の光、浮かぶ雲、木の濃い緑・・などなど、とてもわかりやすい夏の描写がたくさん出てくる。ありふれた言葉なのに、陳腐ではなくたしかに夏をあらわし、夏を思い起こさせる。痛いくらいまぶしい昼間や、ぬるくてしっとりした夜。私は何度もたのしかった自分の夏の思い出を思い出しながらこの本を読んだ。
紙の本
出口なし
2003/07/28 23:39
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:壱子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
角田光代の描く物語の素晴らしい点は、分かりやすい解決などないところにあると思う。「出口のないこと」が良いのではなく、物語として成立していながらも、その中にはリアルが詰まっていることが素晴らしいのだ。
「リアルって何?」そう訊く者の立っている場所こそが現実なのだ。現実に予定調和はない。
「キッドナップ・ツアー」は主人公であるハルが実の父親(訳あって一緒には暮らしていない)にキッドナップ(誘拐)される話である。誘拐、とはいえそこには犯罪の絡む深刻さはない。物語は久しぶりにあう父親に対して、遠慮したり、あきれたり、戸惑ったりしながら接するハルの視点から逸脱することなく進む。
何故、ハルの父親は娘を誘拐するにいたったか。物語の主題はそこにあるのではなく、父親にふりまわされながらも、親を「自らを庇護する存在」としてではなく、いろいろ事情のある一人の人間として認識するようになる、その過程にあるのではないだろうか。
情けないけれど、時には憎らしくもあるけれど、それでも父親を好ましく思う。そのある意味で醒めた視線は女の子ならではかもしれない。
サローヤンの「パパ・ユーア クレイジー」を思い出してみると、主人公である少年は素直に「父さんと暮らすの大好き」と声を大にして言うことができる。少女ハルが語り手である「キッドナップ・ツアー」では、そのような台詞はでてこない。その様子はぎこちなく、もどかしさすら感じるが、だからこそ大切な「言わなかったこと」を浮き彫りにしている。
リアルってそういうものだよな、と私は思う。伝えたいと思っても、言えなかったことは残るのだ。そして時に、それはちゃんと伝わっていたりする。
紙の本
ハルと父親、一生の思い出
2016/03/12 16:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
すごく瑣末なことだけど、取引内容がきになっちゃう。そこを詳らかにしないから余韻がいいんだろうけれど。なんだったんだろー。ハル、小学五年生、思春期の入り口ぎりぎりのところ。だからもう、これからこんな無謀で計画性がなく、でもわくわくするような冒険はできないんだ。まして、父親とふたりでなんて。父親、段取り悪くてもたついているけれど、いい時期を選んだね。そこだけは優秀だ。ふたりがこれからどんな関係性を築いていくかはわからないけれど、最後、お互いに大切な存在なんだって実感できているのがよかった。ハル、おつかれさま。