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マルドゥック・スクランブル The Third Exhaust−−排気 みんなのレビュー
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紙の本
純粋戦闘
2005/09/17 15:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは少女と敵と武器についての物語である。作者は後書きにそう書いている。(同時に読んだ『黄金の羅針盤』は11歳の「お転婆」な少女が登場するファンタジーで、考えてみるとこの作品もまた少女と敵と武器についての物語だった。)「別の世界」に住むライラにはパンタライモンというダイモン(精霊)と「真理計」が寄り添っていて、マルドゥック(天国への階段)の少女娼婦・ルーンにはウフコックという万能兵器(魂)が装着されている。そして、神学的意匠と科学技術で身を固めた見えない敵。少女・敵・武器の三つのアイテムがそろえば、そこに戦いが生まれる。作者はこの作品で、純粋戦闘ともいうべきものを描写した。文字通り肉体を賭けた戦闘と、カジノのギャンブル(ポーカー、ルーレット、ブラックジャック)を通じた抽象的な戦闘。「我々が生きていること自体が偶然なんだ。…偶然とは、神が人間に与えたものの中で最も本質的なものだ。そして我々は、その偶然の中から、自分の根拠を見つける変な生き物だ。必然というやつを」。冲方丁は、皮膚に直接はたらきかけてくる特異なイメージと硬質な文体を駆使して、未聞の世界を予感させる作品を書き上げた。そして、物語的予定調和(たとえば成熟)を破壊し尽くす、その一歩前で逡巡している。
紙の本
世界の過酷さと生存の物語
2003/08/19 06:17
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投稿者:青木レフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
失敗をこわがる人は科学者にはなれない。科学もやはり
頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であ
り、血の川のほとりに咲いた花園である。−寺田寅彦
科学と賭博の物語だ。
科学とは人類(プレイヤー)共通の利益が有り得る非ゼロ
和ゲーム。主人公の被保護者のドクターの戦場であり、
世界を規定する戦いだ。
賭博とは互いが喰い合うゼロ和ゲーム。主人公である
少女が生き抜き、生き残る闘い。
賭博のシーンが素晴らしい。作者が賭博の場面を書き
終えて「ようやく自分にSFが書けた」と自負しただ
けのことはある。沢木耕太郎の「深夜特急」1のマカオ
篇以来の面白さだった。
「ハードボイルドでサイバーパンク」なんて陽のあた
る大通りの様に陳腐だけど、この作者には可能性が
ある。
惜しむらくは賭博と戦闘のトドメのシーンがわかりにく
い。(読み手の責任か)
タマゴについての言葉遊びだが、ボイルドは茹で卵として
サニー・サイド・アップ→片面目玉焼き。
とすると焦げ付きは その焦げ付きとひっかけているのか。
紙の本
「私があなたに与えたものに、何か疑問が?」
2003/08/12 17:51
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投稿者:成瀬 洋一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
銃を使うばかりが戦いではなく、言葉を使った戦いもある。どちらも敗北すれば自分の存在が抹消されてしまうという点では同じなのだ。
周囲にあるすべての電子機器のデータを読み取り操作することができる美少女バロット。彼女のパートナーとなった、あらゆる携行兵器に変身できるネズミ型生体兵器ウフコック。このメインキャストの組み合わせを考えついたら、普通ならハリウッド映画のようにコンピュータ相手の諜報戦と派手な銃撃戦だけでストーリーを構築してしまうだろう。自分の存在意義を探し求める少女とネズミ、そして2人をつけ狙うウフコックの元パートナーにして最強の兵士ボイルドとの絡みに、事件の黒幕にして自分の記憶を次々に消していく賭博師シェルを相手にした駆け引きだけで面白いアクション・ストーリーは十分に構築できる。
けれども冲方丁はその核となる部分にカジノでの対決を持ってきた。この薄手の文庫3冊のシリーズにおいて、2巻目の中盤から3巻目の半ばまで、ほぼ丸1冊分がスロットマシンからブラックジャックまで駆使したバロットらとカジノとの大勝負に費やされているのだ。もちろんそれで物語の緊迫感やテンポが失われることはない。
電子の動きを自在に操るバロットと驚異的な演算能力と記憶力を持つウフコックのコンビを持ってしても、最新にして最高のセキュリティを備え、熟練のスタッフを要したカジノの攻略は容易なことではない。それにはドクター・イースターの言葉の力が必要だった。
カジノの戦いは、つまるところ言葉の戦い、人と人が何気なく交わし合う言葉の中に隠された、他人を己の意図によって動かそうとする意志の力の戦いだったのだ。
とりあえず少女の再生と成長を綴った3部作は完結。
魅惑的な設定を用意し、それを存分に使いこなしながらも、それに頼らない構成が魅力だ。