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みんなのレビュー10件

みんなの評価3.9

評価内訳

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8 件中 1 件~ 8 件を表示

紙の本

楽園でも悪夢でもない架空の女人国

2006/01/24 19:12

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:king - この投稿者のレビュー一覧を見る

自身でも“代表作”だという「水晶内制度」は、抵抗、反抗の側面が特に色濃く現れている作品だ。「レストレス・ドリーム」などのSF的設定を用いた闘争的な作品の系列といっていいだろう。今作では「ウラミズモ」という女だけの国が舞台として設定されていて、フェミニズムSFとも呼べるだろう。

「水晶内制度」では、男と女の役割の逆転が設定として導入されている。「ウラミズモ」という国では、男には人権が存在しない。そもそも男とは「人」ではないために、保護牧場と呼ばれる隔離施設でのみ存在を許されている。この女だけが「人」であるというテーゼは、よく知られた「human」という人類を意味する単語は畢竟「Man」である、というラディカルフェミニズム(と呼んで良いのかどうか)的主張を下敷きにしたものだろう。ウラミズモでは学者は学女だし、詩人は詩女である、というように言語レベルでも「ウラミズモ」的な日本語の翻訳が行われていて、似たような言語体系であっても日本語とウラミズモの言葉とでは意味体系が著しく異なるために、意思の疎通が困難になるほど両者に差がある。

これは単純な逆転にとどまらず、徹底的に女中心の、女による女のための国家になっている。この社会で男とは、基本的にペット以下の存在でしかない。男社会の抑圧、暴力を告発するため、現代における権力構造を過剰なまでに、拡張し、誇張し、激越な諷刺として成立させている。

で、この世界が女にとっての楽園なのかというと、そう簡単でもない。楽園(ユートピア)として設定されているとも、現実批判の悪夢(ディストピア)として設定されているとも決めがたいのが「ウラミズモ」だ。というか、この小説は、女人国「ウラミズモ」に来てしまった(冒頭、語り手たる「私」こと「火枝無性(ひえだなくせ)」は、なぜウラミズモにいるのかを知らない)語り手がその国で異者であるということをひとつの軸として展開されている。楽園に来てすべてが満たされるわけでも、悪夢のような世界に愕然とするわけでもない。女である「私」はその「ウラミズモ」という国を基本的には支持するわけだけれど、それが全面的なものにはなりきれず、どこかアンビヴァレントな違和感を抱え続ける。その違和感とウラミズモで語り手を世話してくれる女性との奇妙な交流が焦点のひとつだ。

SF的な女人国の設定、そこへ訪れた語り手の微妙な心理、そして、この小説のもうひとつの読みどころは神話の書き換え作業だ。語り手がウラミズモにやってきたのは、ウラミズモの国家を根拠づける神話を作ることを依頼されたからだった。記紀神話を丹念に読むことによって、そこには女性の存在が歪められているのではないか、と推測し、様々な視点から、男性中心的なゆがみをふるい落とした神話を再構築するという凄まじい力業である。記紀神話は私はほとんど知らないし、学問的にどれだけ正当性があるか(ということをそもそも問うことが野暮ではあるが)はわからないが、ここで行われているテクストの書き換え作業はとても面白い。論じられた対象を読んではいない者にも面白さがわかる優れた評論を読んでいる気分だった。


この小説は笙野頼子の作のなかでも特に強烈な代物だ。国家、神話、女、というでかいテーマを正面から扱っている。それでいて、序盤からとばしまくる妄想的文章のドライブ感は衰えない。過激な攻撃性とともに、「私」の救済という「S倉迷妄通信」にも通じるテーマがやはり焦点となり、諷刺・批判だけには留まらない奥深さがある。笙野頼子に興味があるなら是非とも読むべき傑作。

「壁の中」から

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紙の本

あらかじめ失われた楽園

2020/04/11 14:49

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る

フェミニズムの高まりによって、女性だけの国を作って日本から独立するのだという。空想的ではあるが、原理的にありえないのに無理矢理に作ったという点では、まったく空想的でない。日本からの移民で成立するのだし、それはたとえば、どんなに独創的な文学作品を書いても女流作家という枠でのみしか評価されない日本の文壇に絶望した作家もその一人なのだ。作家も美人であればなにかとチヤホヤされて気分がいいかもしれないが、そうでなければつらい。それがこの国に来た途端、大歓迎されるのだから、さすが三冠作家なのである。
とにかくそういう女たちの楽園であり、思うままに自分を解放できて、心身ともに満たされるのがこの国だ。成立のためには、無理を押し通すために卑怯で汚い手を使ったとあけすけに語られる。産業は原発であり、電気を日本に売って収入を得ているとか、もう国の未来なんて考慮になくて、今だけのための自ら認める暴走の果てなのだ。セクハラをののしり、ロリコンをののしり、男性差別を叫び、それで溜飲を下げるのが国家理念であり、主人公の三冠作家であり、だが国民みんながそうなのかは分からない。
追い詰められた挙句でこの国にたどり着いた作家の錯乱と回復がまず前半部で語られる。続いて作家に託されたミッションは、この国民のための神話を創作することであると明かされ、古事記、日本書紀の日本神話を解釈し直した物語を生み出していく過程が綴られる。この後半部分はイデオロギーと文学性、そして大衆性まで取り込んだ創造を行う強靭な知性に驚嘆させられる。一方で前半部の、日本とこの国の現実に挟まれて目が廻って弱り切っている姿は、アンナ・カヴァン「アサイラム・ピース」で予感していた人間を押しつぶす圧力が、あたかも現代で実体化したかのようだ。その二つの人格は、ずっと一人の中に同居している。弱いだけでなく、強いだけでもない、両者の間を常に揺れ動いている。総中産階級化したかのような現代社会では、女性に限らず誰でもが同じような戸惑いに共感を覚えるのではないか。
ところで神話というものにさして合理性を求めたりすることはないのでが、言われてみると我々の聞き覚えている神話は、女性、女系、女権といったものを権力体制から排除していった過程だというのは頷ける。だが新しい神話はそれを逆転しようとはしていない。奪われ、排除され、滅ぼされたが故に建国するという、見事な逆説の論理で組み立てている。これは渾身の一撃。そしてこの国の真実が明かされつつ、作家自身の真実もまた明かされていく。実はそっちの方、つまり作家が日本にいた頃のことが、興味シンシンだったりはするのだが、それはきっと笙野さんのリアルに繋がっているような気がするせいかもしれず、もうなんだかよくわからない怪しさと言うか、引っ張り方が卑怯です。
様々なパワーワードを投入しつつ、じわじわくるどんでん返しや、言葉にできない怖いことの連続で、軽快な文章とのギャップに作家自身も驚いてしまうという、新しいタイプの恐怖譚とも言えるだろう。

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2004/12/18 19:45

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2006/12/11 21:14

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2007/05/09 17:43

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2008/08/25 23:19

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2008/11/19 12:35

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2022/09/13 23:54

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