紙の本
文庫版サイズの思考の宝石箱
2005/05/16 17:21
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「イチゴにイチゴの味があるように、人生には幸福の味がある」。そんな風に人生を讃え、しかし厳しく見つめていたアラン。そのアランが紙のカードに一項目ずつ書きとめていたという思考の定義集です。264枚の記入されたカードとともに、タイトルのみで空白のカードも残っていたそうですが、一つ一つ、アラン流の簡潔、明晰な言葉でまとめられています。生半可に読むと、こちらの思考がうわすべりしてしまいそうなぐらい透明に硬く結晶した一つ一つの定義。アランがカードを収めていたという木箱が、宝石箱のように思えてきます。
アランの「定義集」は森有正さんの訳がかなり前に出ていますが、残念ながら全訳ではありませんでした。岩波文庫版は全部を納め、嬉しいことに未定義だったタイトルの一覧表、和文見出しの索引が付いています。落胆ABATTEMENT、絶対的ABSOLU、赦免ABSOLUTION・・・と、本文はアルファベット順に掲載されているので、日本語の単語からひく事が出来るのは日本人にはありがたいことです。未定義だった単語を眺めると、アランが何を定義しようと考えていたのか、そしてアランならどんな定義をしてくれたのだろうかと、想像をかきたててくれます。また、アランの書きとめていたカードは縦15cm、横11cm、ほぼ文庫本のサイズでしょうか。実際のカードを想像するのには文庫版は最適かもしれません。
巻頭に掲載されているカードの一枚に見るアランの筆跡には、アランが訂正をせずに一気に書きとめたのであろう姿が想像できる気がします。フランス国立図書館に納められているという、このカードを収めた木箱は、私のぜひ見てみたいものの一つです。
紙の本
『幸福論』より面白い。
2015/04/20 00:39
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投稿者:水那月 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同文庫の『幸福論』も購入しているが、あちらはやや観念的かつ処世術めいた匂いを嗅いで(著者はいわゆるアタラクシアをモットーとしているのだろうか)反感を持つ部分もあった。しかし、こちらは文句なしに面白い。
“定義”という形式は、いわゆる箴言集などよりも押しつけがましくなく、その点でまさしく辞書の“定義”に似て、受け入れやすい。‘辞書の“定義”’と言えば、『悪魔の辞典』や『紋切り型辞典』を連想させるが、前者はアクの強い皮肉、後者は日常性のあるユーモアだったが、こちらは著者の生真面目な哲学的考察を正攻法で書き記したものである。
また、生真面目な哲学的考察を正攻法で書き記した、と言っても誤解しないで欲しいのは、著者の哲学的考察は、かっちりと論理的で無駄なく流麗な文章で綴られており、専門用語も少ないので、『幸福論』もそうなのだが、全く肩肘の張らないものである。
『定義集』においては、『幸福論』にはなく、『幸福論』を上回る清新な“定義”という二つ目の特徴を備えたことで、著者の哲学的考察が一服の清涼剤のように染み渡ってくる。
読了後も、時々拾い上げては数項を読み返したくなる清澄な“定義”たちである。
電子書籍
勉強になる
2016/10/19 06:48
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投稿者:mistta - この投稿者のレビュー一覧を見る
様々な一つ1つの言葉をアラン流に定義し紹介。
なるほどと思うもの多し。
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人間嫌い、純朴、弁証法、奇蹟、魔法、品位が落ちること…など様々な言葉の定義を述べた哲学書。特に「勇気」の項目が新鮮であった。「勇気とは慎重さと手を組んで怒り無しに見事にやっていく」。慎重さを亡くした勇気は怒気でしかない。
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神:これは最高の価値である。ある人は名誉こそ神であるといい、ある人はお金こそ神であるという。
希望:よりよき未来に対する信仰のようなものであって、そこから正義と善意が生まれるのだろう。
神学:これは理性が神話を受け入れられるようにするための神話への批判である。
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この本を読んでじゃないが、今一度メディアなど世の中で適当に使われている言葉を再定義したいと思う今日この頃。
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普段何気なく使う語句(性格、絶対、勇気etc.)にアラン(本名エミール=シャルティエ)が一語一語考察したもの。
何気なく使う言葉の意味を一歩立ち止まって考えさせてくれる本、
さらに、自分がいつもいかに言葉の意味を考えずに喋っているか気付かされ、落胆できる本です。
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原書を読めばフランス語の勉強にもなるんじゃないかと思って探していたのですが、なかなか見つからないので岩波文庫版を購入しました。本当にどうしようもなく手持ち無沙汰な時、例えばあと一分でご飯が炊きあがるのをワクワクしながら待っている時や冷凍したご飯をレンジで解凍している時なんかに手に取り、パラパラと適当なページをめくってそこにある文章を読んだりしているんですが、なかなか良い暇つぶしになります。
同じアランでもアラン・ソーカルが学術的厳密性の要求される科学用語の人文社会学系評論における濫用を指弾したのに対し、こちらのアランは日常用語を循環論法に陥った辞書的な意味から逸脱させ言葉の本質を表出させようと試みていると同時に、よりシソーラス的な単語体系の構築をも目指しているように思われます。そこにソーカルの求めるような厳密性は存在しませんが、言葉の定義を疎かにしている人文社会学に対してもある意味では同等かそれ以上に厳しい反駁を加えているようにも見えます。
然しながらそれが正しいという保証もどこにもないわけで、やっぱり腹ペコの状態でカップ麺に熱湯を注いで三分経過するのを待つ、その三分間の暇を紛らわすのに読むくらいがちょうどいいのかもなーって思います。この本がそれに適している最大の理由は、食事についての記述がほとんどと言っていいほど出てこないからです。食欲をかきたてる美味しそうな料理の記述など一つもなかったように思われます。日常用語の再編纂を目論んでいるのに三大欲求の一つである食欲の記述がこれほどまでに少ないとは、やはり残念ながら何らかの欠陥を疑わざるを得ません。
とはいえ多少は食べ物に関しての記述も含まれているわけで、例えば「PLAISIR(楽しみ)」の欄には「ぼくはガレットやりんごやイチゴ、夏にアイスクリームを食べるのが楽しみである」と書かれています。まあそれなら許してやるかって感じですね。「正義」とか「幸福」の欄にも同じようなこと書けばいいのにって思うんですが。ご飯がおいしいのは絶対的な正義ですよね。かつおふりかけと納豆かけて食べると最高。
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子供が通っている公文の先生にお借りした本。
アランって誰だろうと思いながら読み進めていく。
定義集という名の通り、AとはBである。という型なのだが、そのBが難しい。意味がわからない。
意味がわからないなりに頑張って頑張って噛み砕けるところまでは噛み砕いて、全然腑に落ちてないけどとりあえず飲み込む、という作業を頑張りました。
たまに意味が分かるのがあるとほっとする。笑
個人的には
○〜質の人シリーズが好き。
なんじゃそりゃとか思いながら読んでたけど、昔の医学での定義だったのね。
○楽しみは外的要因にあるけれど、幸福は内的要因に依存しているという下りが好き。
○眠りも好き。眠りの定義って、科学的に説明する以外で考えたらなんだ?!って感じだけれど、十分な眠りは思考の条件である。というのはとても納得!
心配ごとをあとまわしにして眠ることは、魂の偉大さの見事なわざであると。これはよくわからなくてちょっと笑っちゃったけど、眠りはとても重要だということかな。
○天使は議論しない、もおもしろかった。
○条件付きの友情などうれしいわけがない。なんてそりゃそうだと思えるものもあったり。
あまりに難しいんだけど、その中でちらりとわかるものもあると本当楽しかった。
お勧めされなかったら絶対に一生ご縁がなかったかもしれない本。読めて良かった!
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吝嗇、赦免、節制の項が優れている。節制のアリストテレスのことばが参考になった。
ただし、これらの定義集を理解するのは難解だ。
"なぜなら"と理由をつけるが、その理由自体が考えないと入って来ない。