紙の本
1,000円以下で買える英文法史
2004/12/11 00:54
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BCKT - この投稿者のレビュー一覧を見る
要旨は著者が「まえがき」で書いている(しかもゴチックで)。すなわち,英文法とは,「イギリス人の英語に対する劣等感という土壌に胚胎し,アカデミーフランセーズの刺激によって促進され,十八世紀半ば頃に『規範』の観念が確立し,十八世紀末にアングロ・サクソン法的な発想にしたがい,『慣習』と『理性』の妥協によってほぼ完成し,国家や政府の権力によらず商業ベースで世界的規模となり,二十世紀後半から新言語学の批判を受けながらも,立派な文章を『読み書き』できるようにしてくれる唯一の王道である」(3頁)。
1,000円以下で買える英文法史。しかも,著者は権威があるから,素人の僕でもお買い得だと思った。意外なことに,渡部が研究しだす頃は英文法史ってあんまり人気がない研究分野だったらしい。文学部の連中ってこんなん好きなはずなんだけどな…。
僕は専門家ではないので(経済学部卒),文法における二分法の効用と限界やら八品詞やらと言われても,あんまりピンとはこない。だから何?という感じ。ただ,興味深かったのは,けっこう「理性」が「慣習」に競っていたというくだり。イギリスって,やっぱ慣習の国って偏見が僕にはあるから。理性的なのは邪道って感じではなかったのは,やはり「イギリス人の英語に対する劣等感」のゆえだろうか?
興味深かった二番目の点は,『言語本能』(_Language Instinct_)を著したピンカー批判。要するに,ピンカー(とチョムスキー)は,規範文法(有体に言えば学校文法)を非難した上で,一般的な言語そのものを文法分析してみせて,僕の例で言えば「超気持ちいい〜」「食べれない」(ら抜き表現)の文法的正当性(この場合は「正統性」という表現は当たらない)を述べ立てるという代物らしい。渡部はむしろ言語表現の文法的な「正統性」を「理性」的規範として評価する文法を擁護している。そりゃそうだろう。「文法」(言語の法)なんだから,そうでなくっちゃね。
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英文法の歴史みたいなもの。ちょっと退屈。あたしは英文法が苦手なんだけど(暗記で乗り切ってた)、印象に残ったのは、英文法を理解すれば、他の言語が理解しやすいというところ。…英文法頑張ろうかな。
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この本の紹介(「立派な英文を「読み書き」するための唯一の王道」)はややミスリーディングな感じがする。例えば始めの「立派な英文を〜王道」の部分は、あたかもこの本を読めばその王道が何なのか、英語の勉強法が分かるんじゃないかと勘違いする人も多いのではないかと思うし、後半の「いまや国際語〜全軌跡!」の部分は、なんか英語史の本じゃないかと思わせるような書きっぷりだが、以上のいずれとも趣旨は違って、これは特に品詞論や統語論などの文法分野に絞った英語学史の本である。その趣旨を理解しないで買うとAmazonの本書のレビューみたいにうんざり、とか新書にする意味がない、とか最初と最後だけ読めばいい、とかいう意見が出てきてしまう。
この本では英語学史の中で聞いたことのあるクーパーとかラウスとかジョンソンとかの業績や生い立ち、社会的な背景などが書いてあり、面白く読める。こういう本は新書としては他にあまりないので、英語学をやっている人で、英語学史をあまり知らないおれのような人にはおすすめ。
おれは9章の『英文法の父』と呼ばれたマリーのエピソードが面白かった。マリーが自分を「著者」ではなくて「編集者」と呼んだというその謙虚な人柄や、理性と慣習を折衷させようとするところに英文法を見出そうとするところなど、共感を覚えた。あとはスウィートとかイェスペルセン、あるいは日本英学の細江逸記とか今回漏れてしまった学者についてまとめた新書を書いて欲しいと思ったりしたが、とりあえず現時点では専門書をあたらないと駄目らしい。
一部の人がこの本に期待していたらしい英語の勉強法や著者の文法観みたいなものは最後の章にちょこっと書いてあるだけなので、やはり期待外れだった人がいても無理はないが、それは目次を見て内容を察しなかったその人が悪い。著者の英語教育に対する見解の述べられた箇所があるが、この点については、オーラル・メソッドの目指すものと文法授業の目指すものはやっぱり異なっているわけで、両者が言い争っても次元の違うところで水かけ論で終わってしまうのがオチである。双方の価値を認めて、実用的な会話の練習を繰り返す授業とガチガチの伝統文法の授業、両方の授業を行うことが(つまり教師は両方の授業が出来なければならない、と思う。)良いのではないかとおれは考える。あとは両者の授業のバランスのとり方が問題になると思う。(おれは文法の方にウェイトを置いた方がいいと思う)
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[ 内容 ]
それはイギリス人の英語に対する劣等感という土壌の中に胚胎し、アカデミー・フランセーズの刺戟によって促進され、十八世紀の半ば頃に「規範」の観念が確立し、十八世紀の末にアングロ・サクソン法的な発想にしたがい「慣習」と「理性」の妥協によってほぼ完成し、国家や政府の権力によらず商業ベースで世界的規準となり、二十世紀後半から新言語学の批判を受けながらも、立派な文章を「読み書き」できるようにしてくれる唯一の王道である。
[ 目次 ]
英文法とは
文法は魔法であった
宗教改革と言語平等思想
英語に対する劣等感の発生
最初の英語文典―ブロカーの『簡約文法』
初期英文典の背後の二大問題
英文典の第二号はラムス派
十七世紀の稔らざる努力
十八世紀の「規範」への衝動
マリーによる規範文典の大成
十九世紀と規範英文典
二十世紀後半の規範文典批判
変形生成文法のプラスと偽善
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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保守派の論客として知られる著者が、専門である英文法の歴史についてわかりやすく解説している本です。
著者自身が若い頃に英文法に関心を抱くようになった経緯や、ドイツに留学したときに気づいたこと、さらに規範文法の重要性についての持論が展開されており、新書らしく読み物として優れた内容になっているように思います。
おなじ著者の『英文法を撫でる』や『講談・英語の歴史』(ともにPHP新書)より、もう少し英語学史の細かい知識に立ち入った内容になっています。正直なところ、わたくし自身は英語学史そのものへの興味を欠いていることもあり、字面を追うだけになってしまいましたが、そんなわたくしにも読みやすい語り口で書かれていることについては、やはり評価しなければならないでしょう。