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紙の本
この十年で出版されたうちで、傑作と呼ぶに値する奇跡のような一冊。作者の成熟が物語の情熱と見事に結び付いた絢爛豪華な伝奇ミステリ。この文章の濃密度は半端じゃありません
2004/05/07 20:36
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
2000年から2003年まで『メフィスト』に連載、構想10年を経て完成されたという。作者は1953年生まれ、もっと若いかと思っていた。ま、私が彼女の作品を読んだのが10年近く前だから、その頃は確かに若かったし、正直、その時の作品は、耽美を狙ったことは分かるけれど、話の展開が追いついていないというのが正直な感想。その後、評判になった建築探偵ものは、あまりの量産ぶりに、たいしたことはあるまい、と見向きもしてこなかった。
でだ、やはり私は「構想10年」という言葉に弱い。それだけで、この本に興味を抱いたのである。そして、書いておく、十分に、いや十二分に堪能した。望んでいない作品を発表してきた、と自ら告白するこの十年は、彼女の中に、天上への希求にも似た熱流を湛え、それが今、奔流となって読者に迫る。
函図版はPALAZZO FARNESE/1663、扉写真 は篠田自身の撮影になるPALAZZO FARNESE、口絵は「春」ボティチェルリ:作/1477年、UFFIZI美術館:蔵、装丁は柳川貴代+Fragmentと、参考文献に続いて注意書きがあるのが、結構目新しいという。で、ともかく、最初の出版予告から無断で半年も遅れて出されただけあって(そういうわけではないのだろうけれど)立派な造本である。これなら布装、いや皮装の特装本が欲しいなあと思う。
舞台はイタリア。時代は1999年の暮。主人公は運命に導かれるようにフィレンツェ、ヴェネツィア、ミラノと移動していく。主人公はフィレンツェ大学の聴講生で美術史を専攻する24歳の藍川芹。大学で彼女を教えるのがファビア・スパディーニ。芹のルームメイトが、一人は語学学校生でアメリカ人のドナと大学生のクリスティーナ。
そして、もっとも重要なのは美術評論家で、アンジェローニ・デッラ・トッレ家の当主である美青年アベーレ・セラフィーノ、彼の秘書であるナスターシアことアナスタシア。アベーレの弟で15歳になるジェンティーレ、その乳母のウラニア。彼の亡き父ヴィットリーオの友人で、その名もゼフィロス、アグライア、ターリア、エフロジーネ。何だか巻頭の「お主な登場人物」を丸写しいているような(無論、アレンジしてまっせ、だんな)。
フィレンツェ大学に入学しようとして果たせないでいる芹が見たのが、美男で有名な評論家アベーレが老人と口論をする場面である。薔薇の花に打たれた老人は、芹に謎の言葉を残して死んでいく。そう、これは一人の日本人女性が巻き込まれた、絢爛豪華なお洒落な話として幕を開ける。しかし、舞台がミラノからロンバルディア州ベルガモ県ヴィラ・ダルマ村に移ったあたりから、重厚で絢爛たる伝奇ミステリと変化していく。
彼女がたどり着いたのは、アンジェローニ・デッラ・トッレ家のパラツォ「聖天使宮」。この場所の移動を、篠田は極めて要領よく、しかも重い筆致で描くので、読者はそれが単なる場所の移動ではなく、ちょうどサロメがベールを脱いでいくように、核心に迫っていくのを肌で感じていく。
この傑作は、読んでもらうのが一番。ということで、文中の言葉で私の心の琴線に触れたものを羅列しておく。ハプスブルグ面貌、天使の翼、ヤコブの梯子、驚異の部屋、錬金術、神秘の薔薇、賢者の石、鷲の城、聖牛の城、死の舞踏、神聖幾何学、ウフィツィ美術館、第三帝国、ナチス、アタナシウス・キルヒャー、ボティチェルリ、メディチ、皇帝マクシミリアン、スフォルツァ、ロレンツォ、コジモ、サヴォナローナ、メーヘーレン、フェルメール、ピエロ・デッラ・フランチェスカ(いやいや、もっとたくさんあります)。
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』中井英夫『虚無への供物』半村良『石の血脈』皆川博子『死の泉』山田正紀『ミステリオペラ』笠井潔『オイディプス症候群』古川日出男『サウンドトラック』。これらに勝るとも劣らない傑作である。
紙の本
著者の集大成。
2004/03/12 07:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アルテミス - この投稿者のレビュー一覧を見る
堪能した。
箱入り、2段組、本文の厚さ3cm、しかも活字が小さい。
これは手ごわそうだと思ったが、読み始めたら麻薬のごとくにやめられなくなり、とうとうまる一日かけて読破してしまった。
帯にもあるが、本書はまさしく篠田真由美氏の集大成であり、渾身の力作であろう。
篠田氏のこれまでの著作で書かれてきたありとあらゆるモチーフがこれでもかと注ぎ込まれ、その目眩を誘うような絢爛たる世界の濃密さに、まるで水を呼吸してでもいるかのような息苦しささえ覚える。
独立独歩を誇った中世都市国家時代から、他国に翻弄され蹂躙され忍従させられる近代までのイタリアの歴史。それによって生み出されたルネサンスからマニエリスムを経てバロックに至る美術と建築。
薬であり毒でもある植物を集めた、閉じた庭園。地獄への道にも似た螺旋状の路を持つ、深く暗い井戸。
貴族という華やかな響きの裏に絡みつく、血の桎梏。掛け違う愛情。
推理小説であるからには許されぬはずの、超自然の存在である天使までもが、登場人物の名前に、店の名に、館の名に繰り返し現れ、ついには作品の主題のひとつにまでなっている。
あらすじは、読んだばかりの興奮状態で書くと、うっかりネタ晴らしをしてしまいそうなので止めておく。
が、私だけ惑わされるのは癪なので、イタリア語の知識のない向きには、館の当主であり貴族である兄弟の「兄」アベーレの名が、旧約聖書で「兄」カインに殺された「弟」アベルの、イタリア語読みである、という余計な情報を披露しておこう。
篠田真由美氏の代表作としてよく挙げられるのは、建築探偵桜井京介シリーズである。篠田氏のシリーズとしてはもっとも多い12冊(2004年3月時点。含番外編)が刊行されていて、また、もっとも売れているようでもあるから、まあ、あながち誤りではない。
しかし、以前から私は、篠田氏の著作としては建築探偵は本流から外れており、これを代表作とするのは違うのではないかと思っていた(作品として劣っているという意味ではない、念為。私は建築探偵も好きである)。
篠田氏の著作を並べて、そこから建築探偵を抜いてみれば、一目瞭然である。
『琥珀の城の殺人』『ルチフェロ』『天使の血脈』『ドラキュラ公』『彼方より』ほか多数。
ジュニア向けに書かれたいくつかを除けば、推理小説の形をとるものであっても、そのほとんどはヨーロッパの歴史に題を採り、その脈々たる流れに想像力を刺激されて書かれた、欧州歴史幻想小説ばかり。
こちらこそが篠田氏の本領であろう。
はたして、本書のあとがきで、建築探偵は作家として立ち行くための苦肉の策であったことが明かされている。
建築探偵のファンは怒るかもしれない。が、苦肉の策であろうと無理やりひねり出した口を糊する手段であろうと、12冊も書いており今後も続く予定があるからには、書くに必要なだけの愛情は持っていよう。
でなくば、著者がその持てるもののすべてを注ぎ込んで書いた作品の語り手に、建築探偵の登場人物の姪を持ってきたりはしないと思う。
(売らんかなの手段であるとのみ見るのは下衆のかんぐり。そうすることによってもっと売れるようにしようという計算が全くないとは言わないが、全力を投入した作品に、商売っ気のみで愛情をもてない作品を持ち込める作家がいるとは、私は思いたくない。)
その著作の嫡流と傍流とが合流した本書は、やはり篠田真由美氏の集大成なのである。
紙の本
壮麗さの極致が破滅の運命を予感させる、この幕開けは緊張感をいやがうえにも高める。『ダ・ヴィンチ・コード』を読まれた方に是非とお薦めします
2004/10/11 13:01
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
輻輳するいくつかのモチーフがそれぞれ重厚で濃密に描かれさらに長編小説として全体調和が完成している。横軸には人間の歪んだ欲望、病的な嫉妬、異常な愛憎、時の流れを超えた怨念が組み込まれ、しかも謎また謎を追うエンターテインメントであるから、この作品、ただものではない。
時は1999年、世紀末。北イタリア、ミラノから遠い山中深くの巌上にそびえる大宮殿・「聖天使宮」。イタリア美術史を学ぶ日本人留学生・藍川芹はこの城館の主で若き美術エッセイスト・セラフィーノの招待を受ける。中欧を中心として広大な地域に君臨した家門、神聖ローマ帝国皇帝の出自であるハプスブルク家。富豪の事業家でもあるセラフィーノはその名門の血を承継する第一級の貴族である。そこには車椅子の少年、天使をおもわせる美しい彼の弟・ジェンティーレが幾人もの使用人にかしずかれて住まいしている。
芹は「聖天使宮」の建築美、広大な庭園の意匠、豪奢な邸宅、その内装や装飾品、調度品、さらにそこに秘匿されている絵画、彫刻、工芸品などの至宝とも言える美術品の数々に圧倒される。美術にはあまり縁のない私にとっても西欧文化史、芸術論、建築学の薀蓄を交えたこの詳述にいささかも飽きることはなかった。むしろ自ら貴族の出身であるルキノ・ヴィスコンティ監督の絢爛華麗な映像を髣髴させる語り口にひきつけられた。壮麗さの極致が、続く破滅の運命を予感させる。この幕開けは読者の緊張感をいやがうえにも高めるに違いない。
天上の光には地獄の闇がつきもの。壮麗な城館の深くには岩盤をえぐった大地下室がある。使用人の居住地区あり、隠し部屋に迷路あり、密室あり、大仕掛けの機械装置まで備える。さらに奇怪な………。この殿堂で繰り広げられる異様な連続殺人事件となればこれはまさしく正統派のゴシック・ロマンだ。あえて「正統派」と述べるには理由がある。最近の怪奇趣味ミステリーには「魔宮」やら「魔城」やらと、パズル型謎解きのために都合よくこしらえたリアリティのない建造物、まるで遊園地のお化け屋敷といった程度のまがいのゴシック風が幅をきかせているからである。もちろんこの作品の舞台設定も存在しようがない著者の虚構とわかっていても、建築、美術、イタリア文化に対する著者の並々ならぬ造詣の深さが子供だましのお化け屋敷とは異なる存在感を与えてくれる。
また芸術論に加え、これも正統派といえるオカルティズムの系譜がたどられる。これら衒学的趣向は作者のこの作品に対する力の入れ方を示すものであって、重厚感をくわえるものの勿体をつけた嫌味はない。錬金術、不老不死の霊薬、聖杯伝説、マグダラのマリアやキリストの末裔、ボティチェルリの「春」そっくりの絵画に隠された謎、異端の象徴「薔薇」などなどの本格オカルトノベルにはなくてはならないガジェットが燦然とちりばめられている。そう、ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』の薀蓄を面白く読まれた方ならおそらく本書もどこかに共通の楽しさを見出すはずです。
さらに陰惨な純血主義というナチズムの狂気がどす黒く貫かれている。ここは皆川博子『死の泉』と同様のモチーフがある。世界制覇のために歴史に隠された霊力の根源を探索する滑稽なナチスでもあってこれは「インディ・ジョーンズ」でもあり奥泉光『鳥類学者のファンタジア』の世界に通ずる。
決して付け焼刃で集めたパロディのごった煮というたぐいではない。読み手次第でさまざまな楽しみ方を見つけられる作品だ。かなり欲張った意匠をほどこした意欲的な作品だと思う。ただ、終結がはなはだグロテスクである。いささかやりすぎではないか。グロテスクではすまされない後味の悪さを免れない。同じような読後感をもたれる方は多いのではないだろうか。とにかくもっと話題になっておかしくない問題作である。
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