- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
戦争における「人殺し」の心理学 みんなのレビュー
- デーヴ・グロスマン (著), 安原 和見 (訳)
- 税込価格:1,650円(15pt)
- 出版社:筑摩書房
- 発行年月:2004.5
- 発送可能日:購入できません
文庫
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
戦争における人殺しを歴史学・心理学から探ることで人間の精神に迫る労作
2008/02/19 23:42
13人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
チャップリンはヒトラーを痛烈に皮肉った『殺人狂時代』において、「一人殺せば人殺しだが1000人殺せば英雄だ」と嘯いたものである。残念なことに、20世紀は多くの”英雄”を生み出した時代でもあった。
一将功為りて万骨枯る、という言葉があるように多くの人々が犠牲になっていった。しかも、ナポレオン戦争やアメリカの南北戦争あたりから、戦争は戦場での短期決戦で済むものではなく、国家の総力を挙げて行うものとなっていったため、とてつもない数の死傷者が出てしまった。
悲惨な歴史に目を遣る時、我々の関心はどこに向かうだろうか。その一つは英雄達であるのは間違いなかろう。ハンニバルやカエサル、曹操や織田信長らの活躍には多くの人々が興味を持ってきたし、それは今後も変わらないだろう。そしてもう一つは、英雄の活躍の背後で無残に屍を晒してきた人々への哀悼ではなかろうか。
しかし、戦争には英雄と犠牲者だけが居たわけではない。歴史上、何十万、何百万という無名の兵士達が存在した。彼らには彼らなりの理由があって、戦争に関与することになったわけだ。これらの人々に十分光が当てられてきたとはとても思えない。
本書は永きに渡って省みられることのなかった兵士達の実像を戦場考古学や聞き取りによって明らかにしている。
その成果から現われてきたのは、意外なことに、兵士達は自分の命が危機に晒されているその中であっても敵を殺すことを躊躇する、というものだ。
たとえば、南北戦争では戦場跡から何発もの弾が篭められたマスケット銃が見つかるという。推測されるのは、ひたすら弾を篭め続けることで戦闘をサボタージュしているわけではないように演技しつつ、相手を殺すという決定的な行為を避けたのだ。また、古代の戦争を再現してみると、演習と実際の死者の間にはとてつもない開きが生じるのは間違いないらしい。
兵士が人を殺したがらないという事実が決定的に為るのは、二次大戦後の聞き取りで、なんと15~20%程度の兵士しか発砲していなかったことが明らかになった。
これは著者が指摘するように、人類への光明と誇りに繋がるものだ。
だがしかし、様々な手法によって、ベトナム戦争では兵士の八方率は95%にまで跳ね上がった。一体、二次大戦からベトナム戦争の間に何があったのか。その謎は、心理学から解き明かすことが出来る。ベトナム戦争後に発生した多数のPTSD患者発生の謎も含め。
20世紀に明らかにされた心理学の結果と、実際の訓練における効率的な訓練。その両者を詳細に知るのに、軍に奉職して長き時を過ごしてから心理学へ進んだ著者以上の適任者はそうはいない。人は人を殺したがらないという一般的な傾向、その傾向から外れる人々、更には人を殺したがらない人々を有能な兵士に変える手段。慄然とさせられることもあるが、多くの人にとっては他人を殺すことが最大の抵抗になる、という事実には一抹の救いがあるように思えてならなかった。
また、殺人を許容できるようになるまでの、様々な点が解説されていることも興味深い。つまり、人を殺さないようにするには本書で指摘されていることの反対を行えば良いのだから。
歴史、心理学、そして何より痛ましい事実の数々から、殺人への抵抗感と、殺人を強制された結果が兵士に何をもたらすかといったことまで、殺人に関わる状況が網羅されている。きっと、本書を読めば人間という存在をより理解できるようなるのだろうと思う。
評者のブログへ
紙の本
「殺人と抵抗感の存在−セックスを学ぶ童貞の世界」読みたくなる章題でしょ
2004/11/10 23:29
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:PALE FIRE - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類の財産ともいうべき書物。
読書が強烈な「経験」に変貌する至福の一冊。
自分の経験を通してしか物を考えることができなければ、窮屈で偏狭な結果にしかたどりつかない。だから人は本を読むのだろう。書物を通して、多様な他人の生涯を、たどりつかない宇宙の果てを、極小の昆虫の巣穴をわれわれは経験する。
この本の著者は「戦場での殺人」という現在の日本では大部分の人が無縁におわる体験を、収集、分類、考察する。そのさまは丹念、フェアで、生理学・心理学を背景に論理性も揺るぎがなく、サイエンス、学問の形を確固としている。のみならず、すぐれた戦記だけがもっている鋭く心を穿つヴィヴィドなケースタディと、戦争詩人たちの美しい一節を添えたエピグラフが読み物として奥行きを与えている。
この本を読んだ後では、もはや以前と同じように「殺人」を見ることはできない。
戦争のイメージの源泉である古代から未来にわたる戦争映画を、悪人を斬殺して町民を救う時代劇を、占星術の予言を成就するために女性を切り刻むミステリーを、もはや薄っぺらな戯言としてしか見ることはできない。
一方、今までのように「市街戦で双方に少人数の死亡を確認」という小さな新聞の記事に痛ましさを感じることなく読みすごすことはできないし、三面記事とされる傷害や殺人という隣人の事件のもつ圧倒的なリアリティに心を震わせることになるだろう。
そして、ついには「暴力」という歴史の駆動力にまつわるすべての言説を懐疑するという知の誘いに抗うことはできなくなる。
発掘して文庫化されたちくま学芸文庫の編集者の慧眼に賛嘆と感謝の言葉をささげたい。この一冊でもって同文庫のファンになった。翻訳もすばらしい。
紙の本
人間が人間を殺すという際の心理はどのようなものなのか?心理学者であり、歴史学者である著者が人間の心理の暗部を解き明かしてくれます!
2020/04/11 13:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、私たち人間が他の人間を殺すとはどういう心理なのか、ということを戦争という状況の中で、その特異な心理状況を解説した戦慄の一冊です。本来、私たちは同類である他の人間を殺すということに対して、強い抵抗感を感じると著者は言います。しかし、戦争という状況の中では、人間は兵士としてそういうことをしなければなりません。その際、どういう訓練が必要なのでしょうか?どういう心理で行うのでしょうか?著者は著名な心理学者であり、また歴史学者であり、その専門的観点から、戦争という特異な状況における人間のもつ心理の真相、暗部を解明していきます。同書の構成は、「殺人と抵抗感の存在」、「殺人と戦闘の心的外傷」、「殺人と物理的距離」、「殺人の解剖学」、「殺人と残虐行為」、「殺人の反応段階」、「ベトナムでの殺人」、「アメリカでの殺人」となっており、読者に大きな衝撃を与えてくれます!