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紙の本
沢木耕太郎の「一瞬の夏」とか,山際淳司の「逃げろ,ボクサー」みたいなルポを想像するのはあなたの勝手だが現実はそう格好よくはないのだ。
2005/10/03 11:35
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの「素晴らしきラジオ体操」,「からくり民主主義」の著者の,どうやらこれがデビュー作らしい。巻末に「本書は『ゴングまであと30秒』(1994年4月草思社刊)を改題したものです」とある。そんな題名でこんな面白い本が出ているとはちーっとも知らなかったぞ。
1992年から93年,著者は川崎の新開ボクシング・ジムにトレーナーとして勤務する。なかば失業状態,なまった肉体に気合を入れなおそうと通い始めたジムである日会長に「もう練習はやらんでいい,明日からお前はトレーナーや」と言われたのだ。ワセリンの臭いにまみれて練習生達のパンチを受けるうち,これを記録に残そうと書き始めたのがこの作品なのだ。
……と,ここまでの概括で沢木耕太郎の「一瞬の夏」とか,山際淳司の「逃げろ,ボクサー」みたいなルポを想像するのはあなたの勝手だが現実はそう格好よくはない。そりゃ「一瞬の夏」のカシアス内藤だって格好よくはないが,それでも「格好悪くモガく格好よさ」みたいのがあるぢゃないか(読んでないヒトには分かんないと思うがそれでいいのだ。分かりたかったら「一瞬の夏」を読め)。ここにはそういう一回転ひねりの格好よさもない。一切ない。出てくる練習生はどいつもこいつも耳年増で格好つけたがりで根性がなくそのうえ気弱でおよそボクサーというイメージからかけ離れて情けない。唯一これは,と思わせる中国残留孤児二世の若者(少林寺拳法の経験があり初日に完璧なジャブを打ってみせる)は,ある日突然中国へ帰ってしまう……。
「処女作にはその作家の全てがある」つうのを聞いたことがある。その当否はともかく,この高橋秀実というヒトの持つ「身も蓋もない」雰囲気(我ながらイマイチの表現である。本書解説で斉藤美奈子さんが使っている「カラスがカー」には対抗すべくもないな)は,確かにこのデビュー作で既に全開である。「努力に勝る天才なし」という標語を壁に貼って練習生にゲキを飛ばす会長が「パンチだけはどうしようもないで,あれは生まれつきや,定めみたいなもんやな」と言うシーンがあるが,日々の会話からスパっとこういう台詞を切り取れる才能ってのも落語家の「ふら」というのに似て「生まれつき」なんだろうな(笑)。
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