紙の本
はじめの一歩
2006/04/13 02:02
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投稿者:さくら - この投稿者のレビュー一覧を見る
「わからない」ことを「わからない」とはっきり言うことは案外、難しいことだったりする。無意識のうちに「わかっている」ふりをすることってある。それが楽だから、いつもそうなってしまう。そして、抜け出せない。もう一度、「わからない」と言えたら、それがはじめの一歩になるのだ。がんばれ王子。がんばれ自分。
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最近の文藝賞は当たりだと思う。でだ、この小説を読み終わった後で、思わずハイタッチをしたくなるんだよね、完全にTQCの世界にようこそ
2004/09/03 21:05
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
イラスト風ではあるけれど、ザクッとしたタッチが魅力的で、若い世代に支持されそうな装画は宮尾和孝、装丁 斎藤深雪。で、私が気に入った各話の扉にあたる部分に載っている、いかにも手書きのタイトル、誰のものと注がないので、多分、著者の中村航か装丁の斎藤深雪(うーん、なんて女らしい名前なんでしょ)のものだろうそれ。
大学を中退して塾の講師に力を入れ始めた19歳の僕小林と、中学一年の途中から学校に行かなくなって一年になる生徒のヨシモク、そしてネットで募集したバンドメンバーとの付き合いの始まりを描く「ぐるぐるまわるすべり台」。派遣社員として工場に来ている哲郎の作業は、その正確さと速さで周囲を圧倒する。それでいて、彼はそれを誇らず、空いた時間を作業環境の改善に宛てて、周囲の人のやる気を出させていく、そんな男の「月に吠える」。
『リレキショ』『夏休み』に続く「始まりの」3部作、完結篇だそうである。中村航は1969年生まれ、巻末の著者案内にでている顔写真は、ちょっとぽっちゃり気味の二枚目で、甘いマスクと分類できるだろう。ご本人にとって嬉しいかどうかは別にして、私の大嫌いなジャイアンツの元木選手に似ていないこともない、それだけが気がかりというか…。
でだ、実は、後半の「月に吠える」を読みながら、著者中村航の経歴のことを突然に思ったのである。巻末の略歴には、1969年、岐阜県大垣市に生まれるとあるだけで、学校のことには触れていない。でだ、デビュー作『リレキショ』にしてみても、その文学的なセンスからてっきり文学部出身者と確信したのだが、ここで???となってしまったわけである。
その鍵が、冒頭に出てくるハインリッヒの法則、ヒヤリ・ハット、次工程はお客様、品質は5Sの鏡、タクトタイム、ミニラボ、PDCA、QCサークル、QC七つ道具、特性要因図、フィッシュ・ボーン・チャート、イシカワ・ダイヤグラム、魚の骨、パレート図、提案制度、ラインバランス、工数削減、ISO、といった言葉である。
これは経営工学というか、生産技術用語である。それの小説への取り入れ方が、実に自然なのだ。自然過ぎるといっていいほどである。しかも、厭味がない。無論、生産関連用語としては初歩的なものではある。ほとんどが品質管理TQCに絡むもので、とっつきやすいとは言える。作家なら、経験のないものでも上手く書いてあたりまえ、それも分かる。でも、中村の作風から、どうしても私小説的なものを感じる私には、どうしても中村=技術系こそが正解だと思えてならない。
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こんなにも優しくて乾いた毎日
2004/08/15 18:17
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投稿者:海の王子さま - この投稿者のレビュー一覧を見る
僕にとっては、初めての中村航でした。「ぐるぐるまわるすべり台」と「月に吠える」の2編が収められています。どちらも“中村航らしい”作品でした。これまで中村航を読んだことがないのに、「らしい」なんていう表現を使うのはおかしいかもしれないけれども。どちらも、同じような特徴を持った作品でした。まとめてしまえば、乾いた優しさと音楽に対する熱い思いというところでしょうか。
会社勤めをするようになって、僕はバンド活動からすっかり縁遠い毎日を送るようになってしまいました。3年くらい前、まだ僕が学生だった頃にも、音楽活動にどっぷりだったワケではないけれども、その頃にこの作品と出会っていたら、恐らく、もっとのめり込んで楽しめたでしょう。けれども、いまの僕はそれより少しだけ高いところから作品を楽しめた気がします。当時の僕だったら、きっと作品の乾いた感じや優しさには気がつかなかったんだろうなぁ。そんなことを思いました。
笑顔を「にゅいーん」ということばで表現する。そんなこと、きっと天才にしかできない!
「ぐるぐるまわるすべり台」は、「リレキショ」や「夏休み」と合わせて三部作になっているのだそうです。「リレキショ」や「夏休み」も、近いうちに読んでみようと思います。
そういえば、今月末の土曜は新宿でライブだよね。久しぶりじゃないですか。楽しんできましょうか。
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綿矢りさと金原ひとみが受賞した時の芥川賞の、候補作のひとつ。
ゆるく気だるくでも繊細で優しいひとたちが作るなんてことない日常の一コマを、丁寧に描いたすてきな作品だと思う。
「なんてことない日常」を描いた作品を、退屈だと言う人もいる。たしかにそういった作品は、ドラマティックでない、センセーショナルでない、目新しいことがない、あえて読む必要がないものだと、人々の目に映るかもしれない。(吉田修一の『パークライフ』が芥川賞を受賞したときにも、石原慎太郎がそのようなコメントを寄せていたように思う)
けれど、日常の些細で瑣末で見落としがちなできごとを丁寧に両手で掬って、それをきらきらとした大切なものであるように見せてくれる、その細やかさが好きだ。
私の生活の中にもそんなふうに隠れたきらきたしたものが潜んでいるような気がしてくるし、それを探すのはひどく幸せな気持ちになるから。
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表題の「ぐるぐるまわるすべり台」も面白いのだけれど、二編目に収録されている「月に吠える」が、とてもかっこいい。
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今回も本当に面白いかな。どこか不安になりながら頁を捲った。
最初の数ページは気に入った台詞に付箋なんてつけながら。
なのに、気がついたらその世界にのめり込んでいた。
「僕」の心境が痛いくらいに伝わってきて、最後の件では泣きそうになった。
「やられた!」と思った。
中村航さんの本を読むと、いつもそう思う。
最後に、やられる。
タイトルの「ぐるぐるまわるすべり台」の意味の深さが凄い。
メルマガでは「リレキショ」で姉さんと出会わなかった僕のもう一つの姿、と言っていたけれど、そんな感じでした。
居場所とか始めることとか、今の自分とか、目指したい先とか。
そんなことをいろいろと考えました。
自分のやりたいことが果たして相手に受け入れられるか分からない。相手は音楽だったり数学だったりいろいろ様々。人とは限らない。
両思いになれるまで、頑張って何度も始めていく。
すべり台でぐるぐるとまわりながら。
ビートルズの「ヘルター・スケルター」を聞いてみたくなりました。
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読みやすい文章で、重くない。バンドをつくるお話かなあ。音楽に携わる人は分かる!と言いそうな感じ。ヨシモクの髪を切る場面がすごく好きです。
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ふーんって感じ。『ヘルタースケルター』が聞きたくなる。ちなみに芥川賞候補。
批判することがない。それはいいことか悪いことか、と考えると正しくは「批判に値しない」と述べるべきで、たぶん悪い。
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『リレキショ』を文藝で読んで、個性的な世界を作り上げる作家さんだなぁと思い、好感を持ちました。この作品は、三部作完結編なんだそうです。塾のこととか、工場のこととか、この人絶対に理系出身だよと思わせるようなディテールがなんとも新鮮。今まで閉じられいた扉がぱぁっと開いていく感じが清々しく、心地よいです。[2005.06.06]
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大学を辞めて、
それを隠して塾の講師を続ける小林。
何かをするため、
でも、その何かが見いだせないまま、何かをはじめる。
青年のもやもやした実物大の物語
結局、小林くんは何がしたかったのか、
何ができたのか、
これから何をするのか、
さっぱり道が開けないまま終わってしまった感があります。
でも、小林君が何かをしようとしたことにより、
本人は何もできなかったけど
周りの人が何かできることになったんですよね。
てことは、彼の思いがくるくる回って
結果、ほかの人に託されたってことなのかしら?
そして自分は再びすべり台に登って滑り出す。
うーん、がんばれ、小林君!
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一気読みした。
こうきて、そうきたかッ、という終わり方。バンドもの、と言っていいのかな?
後味すっきりさわやかな青春小説。
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2割引で購入。
社割って最高。
大学を退学した小林。
塾講師をする傍ら、彼は携帯電話で教え子のヨシモクを騙ってバンドのメンバーを募集した。
指1本で始まった、彼の物語。
1冊の中に、たくさんの人の物語が詰まっている。
もちろん読む人によっては駄作に見えるかもしれないけれど、1つ1つがとても心に染み入ってくるのは何故だろう。
僕が体験したことではないのに。
小林の、他人の物語を引き出す能力と良く理解する能力が登場人物そのものの魅力を引き出している。
小林が始めるはずだった物語は途中で方向転換してしまうのだが、感動するような夕陽の中、ヨシモクの髪を切りながら自分の物かもしれなかった物語を語るシーンは、切なさと爽やかさが相まって胸の奥が熱くなった。
この部分の絵が頭の中にくっきり浮かんだのだが、ものすごく綺麗なのだ。
自分は1周周ったのだ、と思った彼の中に、これからの彼の物語の原点が見える気がする。
ビートルズの『ヘルター・スケルター』を聴いたことあったら、もっと楽しめたかもしれないな。
やはりこの人の文は柔らかく、けれど勢いやユーモアがあって最後まで飽きさせることがない。
まだ若いし、これからがとても楽しみな作家だ。
この本は、「自分には何が出来るか」「自分がやりたいことは何だろう」と悩んでいる人にお薦めしたい。
同時収録の『月に吠える』は、『ぐるぐる〜」の中であまり語られなかったてつろーとチバの物語。
こっちも、二人の色が良く出ていて気持ちのいい作品。
誰もが、自分のなかに物語を持っている。
僕にだって。
まだ22年間の物語、中身は薄いかもしれないけれど、これからどのようにでもページは増やせるはずだ。
今の時点で「自己紹介してください」と言われたら、何を語ろう。
「……そうですね、僕は自分のことを、目立ちたがりの臆病者だと思うんですよ……
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中村さんの「始まりの三部作」完結編。大学を辞めて狛犬というバンドを組む塾講師「僕」の行方――。
第26回野間文芸新人賞受賞作。
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主人公は、ある事情から大学を退学し、塾講師として働きながらバンドのメンバーを探しているボーカル。そこに、太めでちくわの好きなベース、派遣社員でも非常に優秀なギタリスト、QC活動をとおして出会うドラマー、数学に悩まされるボーカルがインターネット上の掲示板で知り合い、「狛犬」というバンドを組みます。バンドでの話だけでなく、塾講師として生徒との関わり方などが描かれています。
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これは中村航好きの俺としてはたまらなく良かった!!この雰囲気が作れるのは中村航だよね。最高だった。2006.11.07