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紙の本
孤独に、耐え、残る
2004/07/10 23:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
彫刻家による石の造形ならば、長い風雪に耐え、残る。では、小説家の残す言葉はどうか。人の記憶はあてにはならず、書物も脆いものである。それは早早と塵になるだろう。救う手だては唯ひとつ。残されるべき言葉を拾い選び出し、新しい書物に誌し伝えることである。
「入ってきて人生と叫び、出ていって死と叫ぶ」
本書の冒頭に誌された、これが開高の叫びである。ここには、開高によってノンフィクションやエッセイに残された言葉が並ぶ。青春出版社の編集人は「まえがき」「あとがき」「跋」の類一切を省いた。開高の叫びに始まり、そして終る。すなわち、口を開き言葉を継ぐのは開高のみという、粋な計らいである。
・・・
「死は人に節(ふし)を作り、きわめて急速にその人を成熟させる。成熟のさきに何があるかという問いに答えることをしばらくおいて眺めれば、人の死を眺めることがどれだけ人に内熟と寡黙をあたえることか」
「書物は孤独に読まれるが映画も孤独に見られる。孤独を忘れるための孤独ということでは感触がよく似ている」
「殺スナカレは人類の最初の立法といっしょにあらわれたが、それはその集団にとって各人が生きていることが有用だからである。集団の利益の衝突する戦場では今日あらゆる宗教も殺すことを許しているのだ」
「古本屋歩きは釣りに似たところがある。ヤマメを釣ろうか、フナを釣ろうかと目的をたてることなく歩いていても、たいてい、一歩店のなかへ入っただけで、なんとなくピンとくるものがある。魚のいる、いないが、なんとなくわかるのである」
「マスコミに刺激されて少年が非行をはたらくのだというマスコミ自身の恥知らずな御宣託にほとんど私は賛成しない。それは彼らの行動の暗示や触媒となったかも知れないけれど、その本質ではない。ただ彼らは経験や知力や財力や忍耐に欠け、非行成人たちのようにずるくたちまわったり、かくしたりすることができなかったまでではないのか」
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開高の表現における生命線は『輝ける闇』に極まる比喩にあったことはよく指摘されてきた。そして、その表現は小説に留まろうとはしなかった。
その言葉は、主人のいない孤独に耐え、残る。
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