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ひかりのあめ みんなのレビュー
- フランチェスカ・リア・ブロック (著), 金原 瑞人 (訳), 田中 亜希子 (訳)
- 税込価格:1,430円(13pt)
- 出版社:主婦の友社
- 発行年月:2004.10
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紙の本
こんな恋愛小説は、ちょっと他にない。
2005/09/26 21:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yu-I - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんな恋愛小説は、ちょっと他にない。
同性愛もパンクも近親相姦も、リリカルでファンタジックな優しさにつつまれて、やわらかな物語として流れてゆく。
そのくせへたに攻撃的な文章よりもずっと、激しく感情を揺さぶってくる。
狂おしいほどの純情が、心地よい痛みを呼ぶ傑作。
現在、ブロック作品の中で私的ベスト。
紙の本
いわゆる始まりはしばしば終わりであり終わる事は始める事である(T・S・エリオット『四つの四重奏』)
2004/10/13 23:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルが『ひかりのあめ』だというのに、この物語には光が見えない。冒頭の一行目から、こうだ。
「茶色いスモッグの穴の中で、おれたちは燃えつづけている。」
燃えるといっても、「目標に向かって情熱を燃やす」或いは「異性への情熱が燃えあがる」といった、外に向かってゆく炎ではなく、むしろ、出口のない空間で、いつまでも燃え続ける炎が浮かぶ。その後も、「強制収容所みたいな髪を剃った女の子」「黒い蛾のドレス」と、暗く不吉な印象を与える言葉が続き、最後にこんな言葉でしめくくられる。
「傷の奥に手を突っこんで、あの秘密を暴いてくれないか。」
こう願った(実際に手紙に書いたのか、単に心の声なのかは不明)のはLAのヴァレー地区に住んでいるレックスだ。そして彼の突然の死によって、妹のマリーナは絶望の淵に追いやられる。
本作は、
自分を「おれ」、妹を「おまえ」と呼ぶレックスの語り、
自分を「あたし」、兄を「あなた」と呼ぶマリーナの語り、
そして三人称の語り、と三種類の語りで構成されている。
まず目につくのは、兄妹の仲の良さだ。
「一体この関係のどこに、傷があり、その奥に隠された秘密があるのだ? 何かの間違いではないか。」と思いたくなるほどに、二人はいつも一緒で、お互いを深く愛している。
ところが読み進むうち、「おや」と思う描写につきあたる。
「できるだけ遠くの海に行くの。でも、あなたをほかの海に置いていきはしない。」(p13)
「おまえのことを考えるのはやめなくては。」(p126)
二人は、本当に単にきょうだいとして仲がいいだけなのか?
この疑問を胸に再度「おまえ」「あなた」と呼びかけた文章を読むと、そこには最初読み取れなかった感情が浮き出てくる。そしてレックスの死についても、ある推測が試みられる。真相を確かめようとするマリーナ、レックスの心情吐露、第三者の目で二人を見ていたウェスト、それぞれの知る側面から、やがて事実が浮かび上がる。
本作は、その原題(Wasteland)と同じタイトルのT・S・エリオットの詩『荒地』と多くの共通点を持っている。救済と再生というテーマ。詩の第一部の
タイトル「死者の埋葬」と、レックスの葬式の場面。詩に登場する長生きを願ったが、不老を願わなかった「クーマエの巫女」と、本書でレックスの前に登場する女占い師とレックスの独白。語りの時制を入れ替えて、過去と現実を一つの空間として並列化している事(「時間の空間化」)、等々。細かい単語を挙げるときりがないので、不毛の荒地を彷徨う現代の若者達を詩的文章で綴った本作を読まれた後で、興味を持った方は、エリオットの詩『荒地』の一読をお薦めする。