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紙の本
またまた空振り三振。『そして粛清の扉を』の面白さはどこに行ってしまったのだろう。なんといっても話の軸にあるアイデアが陳腐である
2005/01/30 17:02
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバーの後の折り返しの著者略歴を読むと『そして粛清の扉を』、『メロス・レヴェル』に続く三作目らしい。もっと書いている気がするのは他の似た名前の作家と勘違いしているせい、おそるべし我が鳥頭! しかしだ、ここに注意して欲しい。私がここで寄り道をしているには、わけがある。そうなんだよ、小林くん!
それはさておき、装画 影山徹、装幀 新潮社装幀室。影山の画には大きく2つのパターンがあって、一つはキリコばりのシュールな象徴的なもの、もう一つが彼が好む色を上手に使った風景を中心にしたデザイン的なもの。共通するのは独特の色使い、たとえば紫とか緑青色、橙といった日本的な色とはちょっと異なるものの上手な使い方だろう。
小説の構成について言えば、プロローグ、第1章「出立」、第2章「けじめ」、第3章「憎悪」、第4章「叫び」、第5章「帰還」、エピローグとあって、その各章のタイトルの付け方に関しては、まったく能がないというかそっけないものではある。しかしだ、これだけを見て、この小説が今流行のタイムマシンものだとは、お釈迦様でも気がつくまい。
第1章で登場するのは横尾友也、51歳、日々、自分が16歳の時に犯した罪に身を苛まれる殺人犯である。しかし、彼が現在刑を務めている2040年の日本には死刑制度は存在しない。かわりにあるのがタイムマシン、そう驚くのは読者である。え、なに、これってSF? でも未来らしき描写なんて何処にもないじゃん! しかしだ、読んでいるうちに影山徹描くカバーの意味、それが象徴するものが朧に分かってくる。
政府から友也が持ちかけられたのは、更生プログラムである。タイムマシンを使って過去に遡り、自身がが殺人を犯すのを阻止する。そのために戻るのは彼が35年前に最初の殺人を犯す一ヶ月前の2005年、そのとき友也16歳。同行するのは横尾に適切な指示を与える17号といわれる男。期限は三日。遅れれば体内に仕掛けられた装置が作動し、監視員とともに死ぬ。そして無事帰還しても、任務が果たせなければ、51歳の友也を死刑が待ち受ける。
ここまでにしておこう。ともかく、あれ?と思う展開をする。それが私の冒頭のちょっとした寄り道に繋がる。一応、断っておく。この話、ベストセラーになったといわれる『そして粛清の扉を』のような痛快な展開はしない。登場人物も一人として共感を覚えるような連中ではない。そういう意味で救いは全くない話である。
でだ、この本を含めて三冊を読んで思うのだけれど、黒武はよほど日本の官僚というか国家が好きなようだ。どの話にも、政府関係者がかなり重要な役で登場する。ただし繰り返すが、少しも魅力的ではない。彼らが考え出すアイデアの陳腐なこと、まさに戦後のSFである。
しかもだ、その古色蒼然とした政策を思いつく官僚の頭には、国民という字などは何処を探しても影も形も全くない。彼らは愚にもつかぬ思いつきで世の中を混乱させるばかりなのだ。ということは今の政治家・官僚と変わるところがない。?もしかして、黒武はそういう日本の権力を批判しているのでは、と思いたくなる。
それなら理解できないではない。SFであれば、その核になるアイデアは話全体を引っ張るだけの魅力的なものでなければならない。しかしだ、反権力が主旨ならば、貧弱なアイデアでもいい場合もある。それにしてもだ、『メロス・レヴェル』にしてもこの話にしても、それは呆れるほどにプアである。
読んでいてワクワクするどころか、なに、これ?ってなものなのだ。黒武さん、これで仕事辞めちゃっていいの?とは要らぬおせっかいではある。それにしても、戦後すぐの手塚漫画を見ているような話は、やはり時代錯誤の感が否めない。なぜ、『そして粛清の扉を』が楽しかったか、『メロス・レヴェル』が話題にもならなかったか、そこを良く考えたほうがいい。
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