食べ物で例えれば、「おいしいもりそば」のようなエッセイ。するするっと頭に入ってくるのに、印象に残って味わい深い。
2004/12/07 23:56
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投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家川上弘美氏のエッセイ集。日常的な、些細なことを書いているようでいて、ものすごく面白い。
例えば、「突然スパゲッティーナポリタンが食べたくなって、困った」(p.52)という一文から始まる「ナポリタンよいずこ」(pp.52-54)とか、生牡蠣を一度に十個も二十個も食べておなかをこわし、それでも七十個も食べてなんともなかった友人の話を聞いて悔しくて、また食べてしまう「生牡蠣とキノコ」(pp.61-63)とか。文章から感じられるユーモアが、なんとも楽しい。
それから、作家として名を成すだけの人には、やっぱり特殊な感性と、それを文章にする才能があるんだなあと思った。
例えば川上氏は、子どもの頃ハンカチでものを包むのが好きだった、という。
「一つのものを包み終えて、しばらくは、手の中でもてあそんだり撫でてみたりする。しかるのちに、息を潜めて、結び目を解く。
その瞬間が、いちばん好きだった。結び目を解く、その瞬間」(p.188)
この、ちょっと読むとなんでもないような文章が、どうして読む者の心に引っかかるように書けるのだろう、この人は。
「しょうがパン」のような忘れがたい味わい
2005/05/20 15:59
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美さんは短い期間、明石に住んでいたことがある。「明石」と「明石ふたたび」という2000年の3月(朝日新聞)と7月(「本」)に発表された二つの短い文章を読むと、川上さんが明石に住んでいたのは「神様」でデビューする数年前、昭和が平成に変わったほんの少し後だったことがわかる。「海に近い土地である。空気が、明るい。人も、明るい。」「いくばくかの時間その土地に住めば、人は知らず知らずと土地の空気に染まる。その土地が明るい空気を持っていたなら、人は自然に明るいほうへと寄っていくのではないか。」私はもうかれこれ二十年近く隣町の垂水というところに住んでいるから、川上さんと同じ「明るい」空気をすっていたことになる。「明石に住んだ短い期間、私の血は澄んでいたように思う。胸はいつも新しい空気に満たされていたように思う。」この一文だけで『ゆっくりさよならをとなえる』は私にとって特別な本になった。どこから読み始めても、どこで読み終えても、「しょうがパン」のような忘れがたい味わいが残る(「しょうがパンのこと」)。「生きる歓び」がしんじつ実感できる(「爪切りも蠅も」)。でも「しょうがパン」て、いったいどんな味なんだろう。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美さんの、本音が聞こえてきました。しかしまぁ……小説家の感性はすごいな。同じことを繰り返したり、他人は決してやらないことをしてみたり。好奇心も強いし。こういうことを、なんの抵抗も無くやるような人だからこそあの作品が生まれる…
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ゆっくりなのはさよならをとなえるだけじゃなくて、もう、川上さんをとりまく時間すべてがゆっくり流れてゆくのです。そのゆっくりさに身をまかせるのはとても心地よいことで、私はすっかり川上色に染められてしまった気がします。[2004.12.20]
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川上弘美先生の小説に流れる独特のゆるゆるとした空気感が個人的には大好きなのですが今回のこの作品はエッセイ集です。エッセイを読んでみるとあの雰囲気は川上先生御本人が持っているものなのだなぁーと感じられて、いつもの小説でのどこか一風変わった文体は本人の中から滲み出てくるものなのでゆるいのに地に足がついた感じがあるのだなーと変に納得出来てしまいました。(笑)
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これもハードカバーを手に取ってみてほしい。
エッセイ集でふとしたときに読みやすくてついつい読んでしまう本。
ふふとしたり、にやりとしたり、はっとしたり、へぇとしたり…。
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川上さん、初めての本。いや〜ん文章いいかんじ。最初にエッセイからいってしまいました。マチダコーさんの本をよんで踊ったのがいい(笑)
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わたしにとって川上弘美さんの文章は「自分が、今どれくらい元気なのか」を確かめるバロメータとなっています。どういうことか言いますと、たとえば、彼女のゆったりとした文章に心地よく浸るときがある。それは「やや弱ってますよ」という信号。心が癒しを求めているわけです。こういうときは、元気がない。
一方、川上文体に苛立つ日もある。なぜだか時々、この文体にものすごく苛々してしまうのです。そういうときは怒りっぽくなっている、言い方を変えるなら、元気という証拠。と、まあこういう具合にして、川上文体は私のバロメータとなってくれるのです。
ところが、今日はならなかった。このエッセイ集『ゆっくりさよならをとなえる』を読んだ今、一体どちらなのかよく分からない。文章は実にゆったりとしています。でも、それが気持ちのいいだけではなかった。わたしは、悲しかった。川上さんの日常にあったことを読みながら、なんとなしに、悲しかった。
それで考えたのです。どうしてわたしは時によって、川上文体に苛々してしまうのだろうか、と。思うに、わたしはあの、ゆったりとした文章の「満足感」がいやだったのでしょう。ぐちゃぐちゃとした感情をまるで無かったかのように、あるいは押し潰すかのようにした、あまりに穏やかな文章に苛立ちを覚えたのだと思います。けれどこの『ゆっくりさよなら』はちがう。ゆったりの陰に、隠しきれなかったぐちゃぐちゃが、悲しみが、潜んでいたのです。
すんなりと読める文章の裏に、なにか気になるものがひっそり残った。まとわりつくかすかな不安。わたしはこれを読んで、癒されもしなければ、苛立ちもしない。ただ悲しみながら、じっと読みふける。こういうことがあるから、わたしは川上弘美さんの文章をいつまでも読み続けるのです。(けー)
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心のどこかが癒されます。タイトルにもなっている最後の文章は、自分でも実行してみたり。ちょっとほんわりした気持ちになれました。
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実は私、川上弘美の本はこのエッセイが入り口だった。「あ、クウネルに小説書いてた人だ!」と思って手に取った。手に取って正解。
すごく、私の肌にしっくり来る本だった。小さな古本屋に行きたくなったし、一人でお酒を呑みに行きたくなった。そしてこの不思議な人の、小説を読んでみたくなった。
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冬が近づくと必ず、読む。
何回も何回も読んだのにまた読む。
出てくる食べ物がおいしそうで、まねて作ったりもする。
レビュー集のかわりに使ったりもする。便利で楽しい1冊。
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川上弘美とはどんな人物なのかが垣間見える。へぇ〜、タバコ吸うんだ、とか。化粧直しはしないけど、化粧品は持ち歩くんだ、とか。わたし何だかそういう情報が結構気になってしまう(笑)。それはわたしが川上作品に惚れ込んでいるからでしょう。ええ、そうでしょう。
これはエッセイながら川上作品らしいゆらゆらした感じが心地よかった。
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日記形式のエッセイ。
川上さんは飲むのが好きらしい。選ぶつまみも渋いものばかり。小説だけでなく私生活も渋いんだなぁ。。川上さんとお友達になりたいです。
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こんな人だったんだ〜という驚き。小説を読んで想像していた感じとちょっと違ってました。本屋さんと図書館の違いとかは、なるほど〜と思った。
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この淡々とした文体。じっくり体に染みてくる。
川上さんの作品の裏には、こういう日常が潜んでいるのだ、と覗き見してしまったような、少しこそばゆい感じ。