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控えめで優しくて愛情に満ちた本。
住人たちのある一日が丹念に仔細に描かれる様子は、カメラのクローズアップの連続のようだし、音楽的でもある。個々のシーンは、かなり断片的だけど突き放される感じではなく、映像を伴って迫ってくる。スナップショットなのに、一人一人のこれまでの人生が浮かび上がってくる。
火傷を負った父親と娘の会話、お葬式で棺を下ろすエピソード、美術館のシーン、老夫婦のこれまでとこれから、「自分が今ここで死んでも誰にもそうとは判られず、ただ行方不明になるだけ」。
わたしたち全部の生活は美しくって重要なものだ(誰の生活であってもそうあってほしい)。そして、この世の中は、一人一人のそういう具体的な生活の集合体で、全員に名前があり、銘々が誰かと関係を持っている。
顔も存在もまだ知らない人とだって、もしかしたらどこかで繋がっているかもしれないし、小さな共通点があるかもしれない。自分の行動が知らずに誰かの何かの引き金になっているかもしれない。でもそのまま一生、それを知らずに終わってしまうかもしれない。
「めぐりあわせ」は、これは翻訳だからそういう言葉になっているけど、普段の日本語で言うなら「縁」かなと思う。
本の中に奇跡や天使などキリスト教的な要素が登場するけど、そういう点から、これはとても日本的な本じゃないかと思う。
最後のほうの事故のシーンは、電車の中で読んでて泣いてしまって慌てて読むのを止めた。
訳者あとがきも良かった。あとがきがなければこの本の凝った構成には気づかず終いだったな。
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ジョンマクレガー「奇跡も語る者がいなければ」http://tinyurl.com/3v3hoow 読んだ。ある通りの住人たちの8月最後の一日が丹念に仔細に描かれる。これが1つ目の話。2つ目の話は、昔その通りに住んでいた女性の今。その2つが「双子」によってつながれていく。(つづく
この本の世界観は、そっくりそのままわたしのと同じ。この世の中は一人一人の具体的な生活の集合体で、全員に名前があり、銘々が誰かと関係を持っている。顔も存在もまだ知らない人とだって、もしかしたらどこかで繋がっているかも。小さな共通点があるかも。一生会うことがなくても、そう思いたい。
最後)わたしたちの全部の生活は美しくって重要なものだ(そうあってほしい)。控えめで優しくて愛情に満ちた本。印象強いシーンがいくつもある。訳者あとがきも良かった。あとがきがなければこの本の凝った構成には気づかず終いだったな。
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ひとつの通りの人々の一日を、丹念に描写することによって、綺麗な小説にしてしまうとは!
スコットランドがぽろぽろでてきて嬉しかった。
でもなんかとても悲しい話だったんだけど!
いや確かに奇跡はおきたけど悲劇も語るものがいなければって感じだった・・・
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奇跡は語り継がれ、凶事も語り継がれる。
対するようでありながら、どちらも語り継がれるのは人が同じものを見たいという願望からだろう。
そういった意味では奇跡も凶事も、語り継がれる時点においては形の無い芸術であるのかもしれない。
そしてもし生きている事が奇跡だと思えたならば、人は同じものを見続けれるのだろう。
ただ凶事もそこに目を向けないわけにはいかない、凶事と奇跡それは分かつべきではないものではないのかもしれないのだから。
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イングランド北部の夜明けから夕刻までを、通りに住む人々の一日を克明に辿りながら、およそ人間に関する感情や状態をつぶさに描いた物語。
人生の無限の広がりと尊さを感じさせる名著です。
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1997年、夏の最後の日。
ある通りで名もなき人達の日常が始まる。
その独特の文体は流れるようで、そして歌っているようで、
20人を超える住民達の1日をこと細かに描きだしていきます。
「奇跡も語る者がいなければ、
どうしてそれを奇跡と呼ぶことが出来るだろう」
***
文章をこんなに美しいと思ったのは初めて。
文学っていう形でしか表現できない物語だと思います。
無名の人々の平凡な生活。確かにあるはずの奇跡は、この物語の中にあってさえ、ささやかで目立つことがありません。
文体が変わっているので好みはわかれると思いますが、おすすめできる一冊です◎
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新潮クレストはある程度そうですが、かなり難解なので(この時期のイギリス小説の傾向なのか、時系列を敢えて混ぜている感があります)、混乱します……。
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こかの住宅街の通りに住む人々の夏の最後の日が細かく描かれてる。同時にそこに住んでいたある女性の3年後も並行して描かれてる。 読みにくいけど。読み終わったら日常が大切に思えるというあおり文が、ついてた。から多分そんな感じ。
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本としての構成は、計算されている。
現在と3年前の話が交互に進んでいく。
原文で読めば、リズム感のある文の繰り返しで詩的なのかもしれないが、そのまま訳してあるようで、読みづらい。
最後に明らかになる「奇跡」も、私的には、「え、なんで?」であり、あまり納得していない。
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なによりも、そのタイトルが気に入って読んでみたものの、Remarkable Things は奇跡じゃないし、それが素晴しいものであることに変わりはないものの、本当のことを表してはいない。
処女作がブッカー賞候補にもなったという話題の作品で、邦訳も何かと趣味のよいシリーズから出版されていて、そのシリーズは新潮クレストなのだけれど、正直あんまり好きになれない。
こういう精密なデッサンのような小説は嫌いではなくて、その独自の文体は、原文からしてかなり特異で詩的なものらしいけれど、それが翻訳によってどの程度再現され、失われているかも判らなくて、でもそういう文体が今一つ響いてこない感触で、実際のところも実験小説の域を出ないのではないか、とわたしは思う。
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この本で起こる奇跡は、死んだ男が超自然的な力で生き返るとか、消えたはずの村が突如現れたとか、そういった派手なものではない。普通の日常の中にあるごくありふれた出来事が、語り手によって同じ場所に並べられて初めて「あれ、これって?」と気付くような奇跡だ。つまり
、語り手抜きでは成立しない奇跡。
もし、私の生きる毎日を、この語り手の目でもって見つめてみたとしたら。ものすごく近くで、ちょっとした奇跡が起こっているのかもしれない! そう思うとこの世の全てが素敵を隠しているみたいでワクワクしてくる。
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私が呼吸をすれば酸素が減る。私が歩けば足跡ができる。私がなすことはそうして世界に影響を与え、確実に世界を変える。そんなミクロな交流がマクロに世界を動かし、カオスを生み出している……と大上段に構えてしまったが、著者が訴えたいのはそうした世界が豊かなカオスである事実(そして、その事実こそが「奇跡」であること)なのではないだろうかと思った。イギリス映画を連想しながら読んだ。例えば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のような映画とこの本は似ていないだろうか。「いぶし銀のヒューマン・ドラマ」と片付けると安っぽくなるが
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ある通りの人々の一日を書き連ねているだけで、こんなに詩的になるのはこの著者の不思議な文体のためだろうか。帯に書いてあった天使のように書く、と言うのは素敵な表現だとおもう。似ているようで違う言葉で語り、見えているようで見えてないものを見せてくれる。そんな本だ。奇跡も語る者がいなければ奇跡とは呼べないし、事実も語る者がいなければまぼろしになる。そんな本だ。たくさん出てくる人たちの中でも、20番地の老夫婦が好き。怒鳴ることないわ、すぐ後ろにいるんだもの。
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文学ラジオ空飛び猫たち第99回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/nq7TRJV3hwb 詩的な小説が好きな人や、過去と現在が交差するような小説が好きな人には読んでもらいたい。 こんなに静かな小説なのに複雑な感情が巻き起こる小説はそう多くないはず。タイトルに負けない素敵な内容。