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直木賞受賞作『生きる』『安穏河原』『早梅記』3編
しばらく読んでいなかった乙川作品。歴史小説大賞「霧の橋」ではじめて読んで、「喜知次」「蔓の端々」山本周五郎賞「五年の梅」「武家用心集」などを読んでいたが、なぜか直木賞「生きる」が飛んでいた。
「ひたすら人間の弱い部分に取り組み続ける」と言われ、華やかな活躍や出世物はなく、ややもすると暗くなる感じが無きにしもあらずだが、抒情性豊かな表現、精密な心情描写はさすが。せつない中に小さな光が見える。
今読むとこちらの年齢もあるのだろう。心に浸みわたってくる。もう一度作品集を読み返すともっと深く読めるような気がする。
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感動するけれど、登場する女性がどなたも不幸。
それでも彼女たちは自分たちの世界で幸福に生きた、
という話なのだと思うけれど…
やはり私は女なので、「男は勝手だ」と思ってしまう。
3作それぞれに登場する男性は、
たしかにそれぞれの立場、環境のなかで悩み、苦しんでいるのだけれど、
文句を言わずに慕っている女性たちが
彼らの願望や意地に振り回され、結果幸福も得られない。
勝手すぎるでしょ。
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中編集だけど、どれも起承転結があって小説として巧い。 話のトーンは一貫して暗いんだけど、 ちょっとしたきっかけで光が射し込むというのが共通した仕掛け。 この「きっかけ」の作り方が何しろ巧い!
「安穏河原」は通勤電車で泣きそうになってしまった。 「おなかいっぱい」というセリフの破壊力は、 「ヴァン・ダインです」を彷彿とさせた!
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直木賞受賞作。亡き藩主への殉死に対しての論争に巻き込まれ、生き続ける事の苦悩を描いた作品。日本人の文化である滅びの美学に通ずる心揺すぶられる作品。
安穏河原・・・民を思い郡奉行の職を自ら捨て江戸に下ったものの思うように仕事に就けず、娘を身売りする事になった。誇りは捨てるなと父の言いつけを胸に、貧しくても『もう、お腹いっぱい』を貫き曇りない生涯を送った父娘。
早梅記・・・足軽の三女を雇い家政を任せるが、主人の為に分け隔てなく働くところから関係が結ばれる。やがて見合いが整い自ら身をひく女。底辺に住む人ならではの人との小さな繋がりを頼りに生きる。周五郎作品のよう。
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生きる・・・又右衛門、家老に追腹を止められ生き様を晒す。
五百次(息子)耐え切れず切腹
佐和(妻)病死(息子をなくして生きがいをなくす)
けん(娘)嫁ぎ先の夫が追腹。義絶
安穏河原・・・辞職して都落ち、落ちぶれるが最後は信念を貫く
素平、八十石の郡奉行の座を捨て浪人になるが娘を売る
約束を守るために命を投げ出す。
双枝(おたえ)、女郎に年季明け間じかに警動にあい行方不明
伊沢織之助(浪人)素平に頼まれ、おたえの様子を見に行く。
おたえは、父の教えで生き。
父は妻をなくしてから信念がゆらぐが娘を助けるた
めに最後に花を咲かす。
織之助は素平の最後を見届け生きがいを見つける。
早梅記・・・出世欲と運で成り上がるが老後、得たものと失ったものを量る。
高村喜蔵、女中(しょうぶ)が来てから充実した毎日だが、
出世したためにしょうぶを捨てて我が身を守る
とも(妻)、伊織(息子)、愛していないから愛されない。
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乙川氏は社会と個人の比較や、いままで会社の言うとおりに動いていたサラリーマンがふと自分の立場を客観的に見てしまい、「生きる」ことの悩みを描くことが得意である。使い古された言い方であるが、資本主義に精神的に殺される会社員がたくさんいるという事実なんでしょうね。
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人に伝える言葉って、思いの何%なんだろうか。
そのうちいったいどれくらいが、相手に伝わっているんだろう。
きっとほんの、絶望するほど僅かでしかない、と思っています。
でも、だからこそ人の思いを掬いあげようとすることが、とても、とても大事なんだとも思います。自分の気持ちを伝えるのは、まだ苦手ですが。
そうして思いを伝え、受け止めようとすることが「生きる」ことなんでしょうね。
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直木賞受賞作、主人公を含めた周囲の人々の呻吟及び人間の強さを格調高く描く、山本周五郎、藤沢周平に次ぐ時代小説作家。
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直木賞ということで読んでみましたが、うーん。
設定は面白いですが、もうちょっと畳み掛けれたんちゃうかなぁ。
君主が死ぬと追腹をする時代に、追腹を禁止されたときの物語。
自分が追腹すると、禁に触れ家族にも害が及ぶ。
追腹しなければ、君主に従っていないとなり、世間から害が及ぶ。
その中で死に行く人。子ども。友人。
「生きる」とは。
深いテーマで、設定も面白いが、個人的には物足りなかった。
ただこの描写は少し感動した。↓
作中名言
「とりとめのない物思いから覚めると、庭の日差しの中を素早く横切るものが見えて、じきに今度ははっきりと2羽の燕が泉水を涼めるのがみえた。
燕はゆっくりと飛ぶことが出来ないらしく、空中で鮮やかに翻っては泉水に向かって矢の様に飛ぶということを繰り返している。」
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題名にある通り、どう生きるのかということを
テーマにした3作の中編集。
どう生きるべきかというテーマに向き合った作品で
心に響くものが多い作品だった。
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直木賞受賞作。うん、直木賞!
タイトルからなんか得られるものがあるのではないかと読み始めた本
…だったんだけど、昔のお話でした
追腹。昔は難しいですね
それをしなければいけない雰囲気の中生きようとがんばる人のお話でした
ちょっと天地明察がよぎりましたが、時代がにていたのかもしれませんね
自分が思う人を幸せにする決断はプライドからできなかったのかな
この主人公は好きになれない人種です
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真面目で不器用に生きる男たちの生き様を描いた本。
父(団塊の世代)の勧めで読んだのですが、正にその世代の方々には
ぐっとくるのではないでしょうか。
登場する武士たちを自分に重ねあわせて見ていたのかもしれません。
私がこの感覚に到達するには、もう少し年を取らねばならならない気がします。
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127回 2002年(平成14)上直木賞受賞作。時代小説。主君の死に際して殉職を禁じられ世間の目との間で葛藤する五十男を描く。所謂「究極の選択」を迫られた男の苦悩する様子が見事。おすすめ。3編(生きる/ 安穏河原/ 早梅記)収録。
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乙川優三郎「生きる」読了。
藩衰亡を防ぐため、家老から追腹を禁ぜられた又右衛門。跡取りの切腹、娘からの絶縁、妻の病死と、重なる不幸の中生きる意味も見いだせない。せめて死ぬ前にと、恨み状をしたためた時、自分の不幸の何と薄っぺらいことかを悟る。他人を恨んできたが、自分で防ぐことができたことではないのか・・と。
辛いとき、報われぬ時は言葉にまとめることで真実が見えてくるのでは、と感じた一冊。
直木賞受賞。
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藩主の死に殉じる追腹を、内密に禁じられた主人公が、周囲に蔑まれ娘に絶縁され、それまで築き上げてきたものが次々に崩れていく表題作。
その中で、ぐずぐずと思い悩む姿がとても人間らしい。
言われたことや決められたことはやるが、何かの拍子で悪い方へ転がってしまった時、自分自身の足でしっかりと立ち止まり自分の目で見極め、自分で考えて行動するのは実は難しいことかもしれない。
終盤から最後への部分で救われる思いがした。
他二作も、派手さは無いが、心にしみじみと来るものがある時代小説。
長編が好きなので、辛めに★4に近い3。