紙の本
抑制の利いた趣向が味わいを深めている
2021/08/04 13:20
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:若杉一路 - この投稿者のレビュー一覧を見る
乙川さんの作品に大向こうを唸らせることを狙った作品はほぼない(読んだ限りでの感想)。その中では、趣向が立っているようにも感じるが、抑制が利いていて、乙川作品らしい静謐さが保たれている。その意味で乙川作品を堪能できる一冊となっている。
加えて言えば、縄田一男さんの解説もよい。この『生きる』が直木賞が取った際の選評を引用しながら、乙川作品のよさを、まさに”解説”している。
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なき藩主への忠誠を示す「追腹」を禁じられ、行き続ける主人公。しかし、追腹せずに生き続けることは藩主のたとえ遺言であったとしても当時の常識では恥に値した。藩主の遺言を恥辱にまみれながら生き続けることを通じて「生きる」ことの意味を考えさせられる。3つのストーリーのオムニバスだが、それぞれ違った視点から生きる意味を問いかけてくる時代小説。何のために生きるのか、なぜ生きるのか。これを読むと、もう無意識に生きることは出来ない。
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武士の潔さが良しとされた時代、無様にも生き延びることによって見えてくるさまざまなこと。真に生きるとは・・・と問いかける作品。
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自分には置きかえれないはずの内容なのに、なんだかすごく惹かれる…
いろいろなことを考えさせられる1冊だと思います。感動です
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全部で3篇の話が入っていますが表題の「生きる」が一番好きです。
生きていて欲しいと願う人達は死んでいき、死んで是とされるべき自分が生きている。周りからは白い目で見られて実の娘からは義絶される。そんな自分を支えていた誇りも掠れ、それでもどうしてそこまでして生きなければならないかは言えない。潔く美しく死ぬのと、誹謗中傷されて醜いと蔑まれながらそれでも生きるのってどっちがいいんだろうか。自分が望んだ時に死ねるのもまた幸せなのか。とかそんな事を思いました。
だけどやはり生きていてナンボなのかなぁとも思った。最後のシーンは3篇何れも感動しました。
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読みながら、辛さに眉根をひそめてしまった。読んでいて辛いが少々苦めのハッピーエンド。その苦さに現実感が漂っていていい。
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人間の弱さを描いた時代小説。
他の時代小説にはない人間の姿を淡々と書いている。
味わいのある作品。
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江戸時代には逝去した主人への忠誠を示す「追腹」という制度があった。死んだ主人の後を追って、切腹することだ。武士道からすれば、「忠」を示す究極の行動。しかし、一方では優れた人材を失うという社会的損失が大きい。藩にとっては廃止したい制度であるが、一度根付いた制度だけに追腹すべき人間が、それをしなければ周囲から恩知らずと蔑まれる。
そんな追腹を家老から禁じられ、周囲から冷たい視線を受ける主人公の武士。
露骨な嫌がらせや家族の死。それらを乗り越え、彼は生き、老いてゆく。「死」よりもつらい「生」を選んだ主人公は苦悩しながらも、自ら道を切り開く。失意から立ち上がろうとする人間の強さ、家族や隣人の絆に感動する。
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追い腹を禁じられ、苦渋に満ちた日々を生きる姿の描写は本当に痛々しく、読むほどに家老を恨んでしまいますね。
幸せとは何なのかなど学ばせてもらいました。
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友人に勧められて読んだ1冊。
歴史小説とは言っても有名な人が出てくるわけではない。
ページをめくる度にまだ終わらないで、もう少しこの世界観に
浸っていたいと思わせてくれます。
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直木賞受賞作品です。
乙川さんの最高傑作ではないでしょうか!
読んでいて、随所に思わず「うまいなあ」と唸らされる描写があります。
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「生きる」追腹を禁じられ、尊厳も家族も失いながらただ生き続けなければならなかった又右衛門
「安穏河原」生きるために売った娘を救うために生きる素平、堕ちても父の志操を貫いた双枝、心の拠り所をもたずに生きる織之助
「早梅記」しょうぶととも、二人の女に支えられて生きた喜蔵
表題作は鷗外の『阿部一族』に比肩する名作。簡潔で硬質な文体が、初老の男の酷薄な生を語るにふさわしい。作者自身が語ったように「死のうと覚悟した人が生きなければならなくなった状況」を書くには時代小説でしかあり得ない。小説の醍醐味を味わわせてもらった。
どの人物も誇りや信念をもって生きようとするが、過酷な現実はその完遂を許さず、家族が犠牲になり、ようやく辿り着いた場所は荒涼としている。しかし、最後の最後に淡々とした安らぎが訪れる。
女たちもまた芯があり魅力的な人物ばかりである。
又右衛門や喜蔵と同じ五十年を生きた作者だからこそ描けた人生の機微だと思うので、若い作家と比べてはいけないが、今までに読んだ小説が薄っぺらく思えてしまった。
それにしても、装丁だけ見ると闘病記のようだ。菖蒲の画が似合うと思うのだが。
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3話の作品集。最後の早梅記が一番好きだった。苦手な時代小説だけど、これはいけた。他作品も是非読みたい。
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藩主が死んだ。
自分が生きてこれたのも藩主のおかげだ!
追い腹を切ろう!
当然と思われた、元藩主のための切腹が
首席家老に止められる。
これからどうやって生きる?
感動作でした。
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生きていても何の良いこと無い。人生には救いはないのか・・・・。短編だけれど、とても読後の気持ちがよい作品でした。
他の作品も一貫して人を描いていて、現代に通じるものがあり楽しかったです。