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紙の本
このひと、ほんとうに上手です。わたしなどは、小池真理子より上手いのではないか、少なくとも最近はそう思っています。一冊の日記が織り成す怪しい縁の糸
2005/08/14 17:08
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
津原の本を最初に読んだのは確か『少年トレチア』だった気がする。書評を書いたかどうか、あっても投稿したかどうかわ忘れた。悪い出来ではなくて、今でも団地の後景が目に浮かんで、イメージ喚起力がある人だな、とは思ったけれど次作のタイトルが『ペニス』では、いかに乱読が自慢の私でも手を伸ばしかねる。中学生と高校生の娘にその本なに?と聞かれても答えることが出来ないでは困るのだ。
さてこの本、まず、デザインが垢抜けている。ま、色でいえば、アカは抜けているんじゃあなくて、本全体が赤という印象。それに、カバーにうっすらと描かれた5本の直線は、もしかすると竪琴の弦であり、運命の赤い糸であるのかもしれない。そうそう、赤はやはり血でもあるのだろう。そんな装丁と装画は小林はる代。ちなみに製本は、石毛製本所、今度社名が変わるらしい。
全体は、第一章 音(ね)、第二章 詞(ことのは)、第三章 血、第四章 海(わたつみ)。うーん、ルビがあるならあるで、全部の文字数を同じにして欲しいし、せめて血にだって(ち)でいいから、振り仮名をつけて欲しかった。ね、わたつみの、いう、ことのは、おかしい?いや、本気である。
物語は、今年35歳になるグラフィックデザイナーの入江暁子で、彼女が祖母が持っていた寒川玄児という人の日記を、玄児の孫である古楽器製作者の寒川耿介の届けるところから幕をあける。といっても、暁子が耿介が来るであろうレストランに勝手に押しかけただけで、約束もなにもあったものではない。まして二人がそれまで知り合いだったわけでもなくて、初めて会うのだ。
暁子が偶然ネットで探し出したのが、寒川玄児の孫が時たま訪れるという欧州料理の店ラ・オクタヴで、そこで歌っていたのがゲイと自ら認める領家琢馬で、耿介を囲んで食事を摂ることになるのが、店のオーナーで50代だろうオクタヴと30代だろうチェレスタ夫妻である。チェレスタこと美音子は、暁子が耿介に興味を抱くことについて警告を耳打ちすることになる。そして、暁子のもと愛人で45歳になる百目鬼学がからむ。
ちなみに、その日記を書いたという寒川玄児は、船乗りであり、その傍らで詩作に励む詩人でもあった。戦後、詩集が纏まったこともあって一時期騒がれたけれど、今は知る人も少ない、そういう男である。日記の日付から、当時神戸の造船所にいた暁子の祖母で玄児より二歳年上の邦と関係があったのは昭和15年6月から16年9月頃ということになるけれど、勿論、玄児は殆ど船の上に居たので、いわゆる男と女の関係であったかどうかは分らない。
玄児に関して言えば彼は大正八年生まれで、17歳の時から水夫として船に乗り始め、傍らで詩作にはげむ。そして、昭和12年、詩壇裾野に姿を見せる。そして20歳を前にして、正式に訓練を受け水夫から船乗りとなる。昭和16年、22歳で17歳の梅子と結婚とあるから、邦とは本当に大した仲ではなかったかもしれない。そして翌年、陸軍の徴用船に乗っている時、連合軍機に空爆を受け23歳で死ぬ。
そう、これはそういう二つの血が、運命的な出逢いを遂げ、新たな歴史を生むという話である。うーむ、何だか鈴木光司『光射す海』か古川日出男『ベルカ、吠えないのか!』みたいではある。
上手いなあ、と思う。もしかして、小池真理子より上手いのではないか、そう思う。他の人についても似たようなことを書いたかもしれないけれど、中井英夫、塚本邦雄、赤江漠といった耽美的な作品を書いている作家のことを連想する。あるいは、近藤史恵の歌舞伎ものでもいい。文章に、なんともいえない粘りがあって、それが少し暗い雰囲気のなかで、燐光のように輝くとでもいったらいいのだろうか。『ルピナス探偵団』を絶賛し、あるいは『綺譚集』を誉めたけれど、これまた素晴らしく味のある話だ。
紙の本
不器用な恋物語
2017/07/28 18:11
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分自身の人生にそんなに期待しようとは思わなくなった二人がほんの少しずつ距離を詰めていく恋愛小説。疲れていても磨り減っていても恋は訪れるんですね。
紙の本
きれいな小説です。
2015/12/09 19:26
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
私がまだ恋に恋していられた頃に読んでいたら
長く影響されただろうなと。
ひとが作った物語かもしれませんが、
創作されたものが現実よりも劣ることはないと
改めて認識させられた作品でした。