紙の本
胡蝶の夢か、そのまた夢か
2005/05/29 11:25
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここまで来ると著者ライフワークと言わざるを得ないと思う桂子さんシリーズも、入江さんの孫の慧君が主人公となる作品。桂子さんが女子大生だった時代から始まったシリーズだけど、もうそんなに時間が経ってしまったのですか、そうですね。桂子さんも入江さんも背景の方にちょろちょろと登場して、相変わらず妖しい存在感を出してはいるが、独立した作品として読めます。
ネット上でカリスマ的存在であるという慧君は、当然ながらモテモテであり、オンライン、オフラインで多くの「交遊」を持つらしいのだが、今は入江財団の首魁でもある祖父からクラブを譲ると言われ、1人で利用したり、女の子を連れて行ったりするようになる。クラブには、これまた妖しいバーテンダーの九鬼さんがいて、慧君やそのガールフレンドを、その度に妖し気なカクテルで歓待してくれる、という趣向の連作短篇集。
カクテルは慧君を酔わすだけでなく、不思議な夢の世界へいざなってくれる。そこを訪れるのは一人ではなく、同行者も同じ記憶を持ち帰っているし、時にはお土産まである。次第に現実に侵食してくる夢なのだ。
慧君の好みはコケティッシュなタイプのようで、今の時代にあって漢文の素養があったり、雪女や骸骨それに植物まで、それぞれたいへんに個性的なのだ。慧君は毎度彼女たちの魅力にとことんのめり込んでしまうのだが、しかし悲恋こそが一番美しいということだろうか。
慧君の恋が成就しないのには、きっと何か仕掛けがあるのだ。
彼を自分のものにしたくても決してかなわない、そんな禁断の何者かが黒幕として、すべてを操っているのではないか。それはたとえ情景の端っこに影を落とすだけであっても、きっと作者の分身なのだぞ。なんと狂おしい恋だろう。その媚惑的な妄想のおかげで、僕は溶けちゃいそうになりました。
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…すごい世界だったな。慧君が九鬼さんのバーに戻ってきたとき感じたのと同じように、私も本を読み終えたときに思う。平安時代があって唐や古代ギリシアの文化があって、彼らの考えた「死」があって。それらと、他人よりもずっと濃密につながった世界に慧君たちは住んでいる。覗き見しちゃった気分。あと、きれいにえろい。
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単行本の時の表紙がよかったなぁ。
http://booklog.jp/item/1/4062110873
たむらしげるさんだったとは。水晶山脈大好き。
そのうち欲しいと思ってた「完本 酔郷譚」はこれと酔郷譚の合本の文庫化だったのね。
酔郷譚単体の文庫で出してくれたら良かったのに。
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古い煉瓦造りの建物の中にある、とあるクラブのバー。バーテンダーが差し出す魔法のカクテルに口を付けると、異界へと誘われる。其処は鬼女や雪女、髑髏の美女が姿を現す幻想の世界。此岸と彼岸とを自由に往来して、甘い陶酔と、めくるめく妄想を愉しむ。麗しき言の葉の渦に酔いしれて、いざ異界の旅へ!
平安時代風あり、桃源郷あり、古代ギリシア風ありと異界とこの世ならぬ美女の描写がなかなかにスゴイ。タイトルに「往還」と謳っている通り、無事帰還出来るので安心である。私も、背徳の味の魔酒に酩酊して酔卿に遊びたい♪一杯一杯復一杯♪
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性描写とカニバリズム的な描写がカクテルのように混ざり合っている。妖しげな雰囲気に酔わされそうになり、結局読み終わった後は酩酊状態に。
私に和歌や漢詩の教養があればもっと楽しめたのにと思うと、悔しいやら情けないやら。
登場人物が皆飄々としていますが、若くしてあんなに節操のない慧君が心配である。植物、亡き者、鬼、どんなものにも欲情する彼に憐憫の情を禁じえなかったりもする。よけいなお世話でしょうが。
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主人公の慧君が、正体不明のバーテンダー、九鬼さんの作る妖しいカクテルを飲んで、夢とも現ともつかない世界で不思議な体験をしてくるというお話。
不思議な体験は、すべてエロティックな体験なのだが、生々しさはなく、ほぼ必ず設定されている別れや、セックスの最中に慧君が感じたことがどこか冷たく覚めていて、なぜか頭の中で「…祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…」とか「色即是空 空即是色」とか、仏教的フレーズが流れるのだった。
死んでも生き返っている九鬼さんや、髑髏の小野小町が出てくるのも、倉橋由美子ワールド健在という感じ。
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倉橋由美子のよもつひらさか往還を読みました。倉橋由美子らしい幽玄と夢幻の世界の物語でした。エロティックな味付けもあり、能・狂言や短歌の世界からのイメージの引用あり、というきらびやかな物語でした。倉橋由美子も結構な年齢になっているはずですが、このような小説が発表できるのはすごいなあ、と思ってしまいます。
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「よもつひらさか」=「黄泉比良坂」
=現世と黄泉の国との境にあるとされた坂。
桂子さんの愛人である政治家の入江氏
――の孫・慧くんが、
バーテンダー九鬼さんのカクテルによって
夢現に戯れる。
従妹である『ポポイ』のヒロイン、舞も登場。
「落陽原に登る」を読んで、「孫の手」が元は
「麻姑(中国の伝説上の仙女)の手」だったと知りました。
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2012/04/04:主人公がカクテルを介して異界に紛れ込む話。淡々と進むせいなのか三人称で世界にいまいちのめり込めないからなのか、さらりと読み終わった後に何も残らない感じ。
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ほんのりと暗く、なんとも言えない色気のある本。
たしかにお酒が欲しくなります。
本書にでてくるのは、お酒というより・
・・なのですが。
ほとんど死んだ人やあの世の人との交流・交歓をこれほどにあやしく、エロティックにかけるのは倉橋さんしかいないでしょう。
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プレイボーイな主人公が、正体不明のバーテンダー九鬼さんの出すお酒を媒介に、あの世とこの世を行ったり来たりしながら、妖しく美しい女性達と交流する様子を描く連作短編。
一つ一つの話が短く、倉橋由美子にしてはすごくさらさら読める。
色々ぶっ飛んだ話も出て来るがそれすら覆ってしまうエロチックな空気はやはりすごい。
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桂子さんシリーズの一冊。
桂子さんの愛人の孫、彗君が主人公の連作短編集。
怪しげなバーテンダー九鬼さんが異形の世界へ彗くんを案内する。
エロティックだけど、生々しくなく、それこそ酔いが回って夢の世界(十分エロティックか・・・)という感じ。
深夜でドラマにならないかな~笑
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全部で15篇からなる連作掌編集。タイトルからは、古代神話のおどろおどろしく暗い世界を想像していたが、実際は「黄昏でも夜明けでもない明るさを保った」世界といったところか。全編に漢詩、中国古典、和歌(主に新古今あたりのもの)、謡曲、時にはギリシャ神話が散りばめられている。風合いは、中国神仙譚の持つ飄飄とした感じが最も近いだろうか。また、そうした衒学趣味とともに、文体も物語構築の方法も澁澤龍彦を想わせる。篇中、あえて1篇を選ぶなら、「臨湖亭綺譚」か。なお、表紙のイラストは文庫版よりも単行本の方が好ましい。
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2017年、37冊目は主に隙間読書用にしていた、倉橋由美子の掌編集、全15編(今回は各タイトルは割愛させていただきます)。
古い煉瓦造りのクラブ。そこのバーには、一風変わったバーテンダー、九鬼さんがいた。慧(けい)君は祖父、入江さんからこのクラブを譲渡されることとなった。
九鬼さん、そして彼が作るオリジナルカクテルを介して、慧君が体験した15のエピソード。どれもが、そこはかとなくエロチックであり、ホラー的でもあり、ダークファンタジー的要素もある。そして、それらは、古今東西、ギリシャ神話、漢詩、和歌、絵画にカクテル等々の様々な知識に裏打ちされ、長くとも20p程の掌編に独特の世界観を築いている。
自分のような浅薄な見識の、残酷童話もの、怪奇掌編好きには、ハマりきれなかったかな。再読は(する機会があればだが)隙間読書でなく、通しで読んでみたい。まぁ、それまでに、多少の知識のストックを作っておくべきかもしれないが……。
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2005年。再読。サントリー系に連載していた模様。
慧くんは入江さん所有のバーに通っている。バーテンダーは九鬼さん。九鬼さんが作るカクテルとともに、いろんな世界へ、の短編集。
慧くんのお父さん俊さんは、スキャンダルの末離婚し、みや子さんと結婚。慧くんが生まれ。みや子さんは、慧くn5歳の時他界し、俊さんは、えりこさんと再婚。えは旧字なんだが、変換できず。複雑だったんだな。
入江さんと桂子さんへ健在。