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紙の本
こんなに読書を楽しんでいる作家っていうのは珍しい。それに読んでいる本が、ごくフツーってえのもいいですねえ
2006/02/19 18:53
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
まえがき、のあとに夥しい数の文章、短いもので1頁、長くても5頁くらいのものがあって、あとがき、著作リストという構成です。で、ちょっとダークな雰囲気の、いかにも恩田作品に相応しい装画は丹地陽子、装幀は新潮社装幀室。造本は好きですが、正直、カバー表の1/3を占めるオレンジ色(ちょっとイタリアカラー入っている気がしますけど)が正解だったか、というと私には疑問です。
で、内容ですが、基本的に小説を書くことが大切と考えてきた恩田が、そうはいえ短い文章の依頼があって、それをこなしているうちにかなりの量になった、それを今回まとめることになって、それがほぼ10年分。それらを、ほぼ発表年代順に並べた、とあります。最初の文章「春は恐怖の季節。」が1994年、最後の「本屋大賞「受賞のことば」」が2005年ですから、ほぼ10年です。
で、この本によれば恩田はデビュー当時は生命保険会社に勤めていて、1998年の「二重生活」に「会社勤めをして十年、小説を書き始めて六年ほどになる」とあります。このときは再就職をしたばかり。『六番目の小夜子』が1992年の出版ですから、数字はあっていて、だから彼女が就職した当時、日本は恩田によれば「バブル狂乱の入口」にいたわけです。
ただし、その中で彼女はといえば仕事に追われ、疲労し、大好きな読書もままならなくなっている、そのなかで書きたい!という思いが作品と化したのが『六番目の小夜子』で、二週間で書き上げた、とありますから立派です。しかも、読めないとはいえ、年100冊近くは読んでいるわけですから、その意味でもリッパです。
で、この本、小説以外とありますが、基本的に語られるのは小説のことです。彼女が読んできた本のメモなどを中心に、ベスト作品や愛着のある小説、衝撃を与えた同時代作家などについて語るエッセイ集で、比率としては90%以上がそのてのものでしょう。ただし、書評集というのではなくて、作品を軸に自分を語る、みたいなものではあります。
ここで紹介されるのはあくまで、恩田の読書の一部ですから、これだけで判断するのは危険、というより無謀なんですが、一ついえるのは彼女の読むものは少しも奇を衒っていないなあ、ということですね。普通の読書人が読むものを楽しむ。だからベストセラーもありますし、あるジャンルの話題作なども多い。
豊崎由美などは、いかにもベストセラーに面白いものなし、といいますが、それはメガ・ヒット作品の話で、いわゆるジャンル別ベスト作品というのは、ランキングこそ異論はあっても、確実に面白いものなんですね。それを恩田は丹念に拾っています。書評屋ではなくて、読書家が喜ぶものはきちんと抑える。それがよく伝わって来ます。
で、私としては自分の誤りを素直に認めるんですが、彼女の傑作といわれる『夜のピクニック』、ま、私はあの話自体を面白いとは思っていないんですが、その小説の核となる一昼夜をかけて競われる高校生の長距離歩、実在するんですね。私はウソだろ、と酷評したんですが、実際にそういうものはあって、多くの人が共感を寄せているらしい。ま、私のようにそれを信じない人間がいる、っていうのは恩田の筆不足だと思うのではあるんですが、自身の間違いは認めなければなりません。
あと、彼女の作品にはネタとなるものが多い。これは実際の本にあとがきがついていれば、必ず触れていますし、献辞などにも書かれるので秘密でも何でもないんですが、彼女の映画好きなところも合わせて読めば、そうかそうか、と肯きます。エキセントリックにならない読書案内としては、ある意味格好な一冊ではないでしょうか、はい。