- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
紙の本
小川洋子のベストセラーをきっかけに、藤原正彦という優れた文筆家をぜひ知ってほしい
2005/07/04 07:33
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤原正彦氏は名エッセイストとして知られる数学者。私は高校三年生のときに「若き数学者のアメリカ」(新潮文庫)を読んで心打たれて以来、氏の著作をすべて手にしてきました。ですから小川洋子氏の「博士が愛した数式」(新潮社)を読んだとき、「博士」の数学の美しさを強調する口ぶりに、「これは明らかに藤原正彦の本をもとにしているな」とすぐにピンときたものです。
本書は小川・藤原両氏が数学の美について行なった対論をまとめたものです。「数学とは論理的思考を養うための学問だ」というのが「迷信」に過ぎず、数学を学ぶ本当の理由は文学や芸術同様「美しさに感動する心を養うためである」という論は、これまでの藤原氏の著作に触れてきた読者には新鮮味のないものでしょう。それでも小川氏の小説がベストセラーとなったおかげで本書のような企画が生まれ、藤原氏の説く「数学の美しさ」に多くの読者が初めて触れることができるようになったのは大変喜ばしいことだと思います。
藤原氏が挙げる、天才数学者の生まれる三つの条件は傾聴に値します。
1)神でも自然でもよいから何かにひざまずく心をもっていること
2)美が身近に存在していること
3)物欲ではなく精神性を尊ぶ気持ちがあること
江戸時代の日本に西洋に負けないほど優れた数学者がいた背景にも、こうした三つの条件が揃っていたと藤原氏は説きます。日本人は元来、俳句や古典、漢文など美を尊ぶ固有の文化を持っていたのです。日本人も忘れてしまったこうした史実をもっと誇ってしかるべきです。
本書によって数学を見る目が少し変わったと思う読者には、ぜひとも藤原氏のこれまでのエッセイを手にしてもらいたいものです。私がお薦めするのは「若き数学者のアメリカ」、「数学者の休憩時間」、「数学者の言葉では」、そして「父の威厳 数学者の意地 」(すべて新潮文庫)です。
紙の本
数学が嫌いな人、数学に興味が無い人にオススメする数学に関する本。
2008/05/15 17:59
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:緑龍館 - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校の頃からの友人で、今、数学者やってるUくんから以前、自分は寝ながらもしばしば数学の問題考えてるし、風邪で熱が出て臥した床の中でも、枕元に鉛筆と紙を置いてひたすら数学のことを考える、という話を聞いたことがあるけど、どうやらこの本読むと数学者ってのは、全部そうみたいですね。とにかく紙と鉛筆さえあれば、トイレの中でも旅先でも車の中でも常に仕事が出来るのが数学者のいいところ、ってのがUくんの言でした。もっとも、寝ながら考えるというのは、ぼくも昔その経験があります。床のなかで何かを一生懸命考えていたんだけど、そのままいつの間にか寝ちゃって、朝起きてフト気付いたら同じ問題に関してまだ考えていた。しかも、少し考えていることが先に進んでいたんですね。あのときは、我ながらちょっとびっくりした。
小川洋子は、数学者である藤原正彦(新田次郎の息子)への取材を元に『博士の愛した数式』を書いたそうですが、本書は数学に関するそのふたりの対談集で、大変楽しく読ませてもらいました。本書は題名の通り、数学と「美」を中心にした対談、すなわち、数学において最も大事な価値観とは「美しさ」である、というのが基本テーマですが、この本を読むと、今では+-×÷以上の算数が駄目なぼくにも、数学の美しさの片鱗というものが理解できるような気がしてきます。ある意味で数学とは芸術なんですね。自分はみにくい定理しか発見できなくて悲しい、という藤原教授の話には笑いました。氏の発見した定理を他の数学者に説明すると、「おお、なんという・・・・・」といって、さげすまれるんだそうです。
全ての数学者が直面するみっつの恐怖というのが紹介されていますが、数学に身を捧げようとしている者にとっては、これは確かに究極の恐怖でしょうね。ひとつは、自分に果たして数学の才能があるのかどうか(結局、自分は数学者であるのか、あるいは「何者でもない」のかということが、自分で分かってしまうわけですから)。しかしそれよりももっと怖いのが、二番目の、自分が自分の人生をかけて証明しようとしている問題がホントは間違っている可能性。そしてまたそれよりもっと最悪なのが、その問題がゲーデルの『不完全性定理』に出てくる、真か偽かを根本的に判断できない問題である可能性(『不完全性定理』でゲーデルは、数学上の全ての命題は正しいか間違っているかと二分できるわけではない、中には正しいとも正しくないとも根本的に判別できない問題が存在する、ということを証明してしまった)。自分の人生が全く無駄になっちゃうわけですからね。数学というものが、全ての人類の営みのなかで最も純粋なもののひとつであるとしたら、自分の人生が真か偽か、あるいは「なんでもない」のかが、最も先鋭化された形で明らかになっちゃうのかも知れない。
『博士の愛した数式』もそうですが、この本も数学が嫌いな人、数学に興味が無い人(ぼくです)に読んで欲しい本です。
→緑龍館 Book of Days
紙の本
宇宙の未踏の果てを垣間見せてもらったような
2009/02/03 10:47
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:東の風 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『博士の愛した数式』という魅力的な作品を書いた作家(小川洋子)が、その小説が生まれるきっかけになった数学者(藤原正彦)と、数学の美しい定理や天才数学者のこと、素数や虚数、πの不思議などについて語り合った対談集。
<数学は役に立たないから素晴らしい><数学は圧倒的に美しい>という辺りからはじまった対談が、最後のほうでは、ゲーデルの「不完全性定理」だとか「ゴールドバッハの問題」「ビュッフォンの針の問題」「オイラーの公式」といったところまで行ってしまう。ふたりのお話を聞いているうちに、宇宙の未踏の果てをちらりと垣間見せてもらったような、そんな気持ちに駆られました。
藤原先生も感心していましたが、小川洋子さんの質問が的を外さないものであったところ、素晴らしかったです。作家の自在で生き生きとした想像力、ひらめきを感じる、目に浮かぶような比喩、深い共感に満ちた会話のリターン、タイムリーで鋭い質問の数々に、「小川さん、やるなあ」って、惚れ惚れさせられましたねぇ。
それから、藤原先生が言っていた<天才数学者が生まれる三つの条件>、これも印象的で忘れられない。その三つの条件というのは、「何かにひざまずく心を持っていること」「子供の頃から美しいものに接していること」「世俗的な役に立たない、精神性の高いものを尊ぶ気持ちを持っていること」というもの。なるほど、言い得て妙であります。
妙といえば一番妙な気分に捉われたのが、オイラーの公式。小川さんが、<無限に永遠に続く数が、一瞬にしてパッと手品をかけられるみたいに-1になってしまう。魔法ですね>と言っていたけれど、不思議だなあ、何か奇跡のような美しさがあるなあと思いました。
紙の本
入門書というよりは、興味を喚起する易しい本
2007/11/01 15:03
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ざわ・・・ぶろぐ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『国家の品格』の藤原正彦さんと『博士の愛した数式』の小川洋子さん。
『――数学入門』というタイトルではあるけれど、対談形式で書かれていて読みやすい。
内容はというと、数式や計算問題があるわけではなく「数学にはこんな面白いところがあるんですよ」とふたりの談話を通して紹介しているもの。専門知識がなくても理解できる一般性の高い文章なので、興味を喚起する、という意味では入門書と呼べなくもないかな。頁も170前後と少ないけれど、文字数は170頁分よりも少ないのでさらっと読める。
数学が美しい、という感覚にチラッと触れることができた気になれる1冊。
紙の本
対象作品が輝きを増す「番外編」
2012/06/02 10:47
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
読みました『博士が愛した数式』、博士=数学者と家政婦のやりとりが、非日常で面白かった記憶が。その後ご自身の著者の中で度々藤原氏がこの作品に触れているのを目にしているので、まだ記憶も鮮明です。小川氏が書いたこの作品、そのきっかけが数学者たる藤原氏であることから、お二人の「対談」が設定されて、本書はその「対談集」です。もちろんその作品にスポットがあてられるのと、数学者の「ヒトトナリ」に関する藤原氏の自論の展開、もちろん「美しい数学」がメインであります。
これまで藤原氏の本を4冊読んでいるけれど、『国家の品格』のように、どちらかといえば数学「以外」がメインテーマであるものばかり。もちろん作家としてのサラブレッドであるし、その歯切れのよい口調(文調)が自分の感覚とマッチして、どれも興味深い内容だった。それらに比較するわけではないが、当然に「数学者」でもあることは認識していたものの、本書で繰り広げられる「数学への熱い思い」は想像を超える「高熱」レベルであった。
数学に対して「美しさ」を求め、そこに「美」を見出す感覚。これはその魅力に取りつかれた人しかわからないのかもしれないが、なんとなく(数学が苦手な)自分にも、その「感覚」だけはわからなくもないのだ。「どんな三角形でも内角の和は変わらない。過去も未来も場所も関係なく同じである」なんというかスケールの違いというか、普遍性というか、「美しさ」を感じる、魅力に取りつかれる気持ちは、わかるんです。自分がそうなるとは思えないのだけれど、文学や美術、それらに惹かれる思いと似ているのかもしれない、と自分なりに思う。
あまり得意ではない「対談形式」の内容であるが、藤原氏の「熱さ」と、小川氏の数学の専門家ではないけれども少しその「美しさ」を感じているレベル、この二人が絶妙のコンビネーションで、数学の「美しさ」を奏でる。読んでいる方も、「美しさ」(の一部)を感じることができます。このお二人の著作、まだまだ読んでみたい、数学に限らずに。小川氏も「熱さ」は表面に出さないまでも、当然に相当の興味を持って書いたはずだから。それも「熱い」ことには変わらない。そんな人が書く本は面白いに決まっている。
ちなみに。「入門」とタイトルにはあるが、『博士の愛した数式』を読んで、その面白さに少しでも気がついた人の「入門」と捉えます。既に数学を愛している二人の対談なので、「超初心者」には向いていないかもしれません。
【ことば】人間には感激したいという深い欲求があり、それを満たしてくれるのは、美しい自然は別格として、数学や文学をはじめとする文化や芸術以外にあまりないですからね。
数学は「役に立たない」と断言する藤原先生。しかし「価値はある」とも。すぐに役に立つ、効率のよいもの、ことばかりだと、どんな世の中になっちゃうんだろう。それを追い求めてきた結果(経過?)が現代であるのならば、この先は(現代の言葉でいう)「無駄」に価値を認めてもいいのではないかな。っていうか、そういう時代に入っていく感じもする。