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紙の本

森と湖のフィンランドに生きる庶民を英雄にいただく国民的叙事詩。子ども向け編集本の翻訳ということで、自然と魔法が支配する独特の神話的世界入門にぴったり。

2005/06/16 11:07

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

フィンランドはほかの北欧諸国とは異なりゲルマン民族ではなく、ウラル語系の言語や独自の神話を有しているらしい。600年もの長きにわたりスウェーデン王国支配下で公用語はスウェーデン語となり、1809年、ロシア帝国の自治大公国となってようやく民族意識が芽生えてきた。1839年、医務官であったロンロート(リョンロット、レンロートなどとも表記)が、その民族の気運のなかでまとめあげて出版したのが最初の『カレワラ』だったという。出版部数は少なく、世紀末にナショナル・ロマンティシズムが高揚するまで何十年も脚光を浴びなかったようであるが……。
『カレワラ』は元々、フィンランド東部とロシア北西部に広がるカレリア地方の伝承詩で、吟遊詩人たちがカンテレという竪琴をかき鳴らしながら歌い継いできたもの。ロンロートはさまざまな歌い手からいろいろな種類の詩を採集し、50章23000行に及ぶ一貫性のある叙事詩を練り上げたのだ。たくさんの詩を知識として溜め込んだロンロート自身もすぐれた歌い手であり、方言による歌をフィンランド語の標準語に直し、自分の創意も加えたことで普遍的な国民的芸術に高めたという。
日本では今までに、2人の研究者によって岩波文庫と講談社学術文庫から翻訳書が出されたようだが、現在は古書流通のみ。本書は、2002年に「フィンランドの子供のための」という副題を伴って出版された本の邦訳である。文字は大きめで字詰めもゆったりしている。
原書には美しい挿画がついているということだが、それは使用できなかったようだ。しかし、日本人イラストレーターAKIKO(「A」は正確には天地逆で表記)氏の精緻で不思議な妙味ある章扉ごとの絵が、目を楽しませてくれる。
物語は児童向けということで枝葉の挿話は省かれているが、古代のフィンランドの英雄譚である。「サンポ」という万能の道具とポホヨラの地の美しい乙女をめぐって、カレワラの英雄ヴァイナモイネン、イルマリネン、レンミンカイネンたちとポホヨラの魔女ロウヒ(あすなろ書房からバーバラ・クーニー絵『北の魔女ロウヒ』という絵本が出ている)が抗争を繰り返す。
戦いや復讐、冒険や嫁取りといった神話的叙事詩の定番内容だが、鉄器についてのこだわりやサウナに入るというみそぎがユニークだなと思う。英雄たちも高貴な身分の騎士でなく、魔術の心得はあっても農民だったり漁師や鍛冶屋であったりするし、戦いは血で血を洗うというものばかりでなく、呪文を使った魔法合戦もあったりする。
ほかの特徴としては、叙事詩につきものの荒唐無稽な表現が豊かな自然を背景としている点を面白く感じた。たとえば次の2ヵ所。
——母の涙は盛り上がって三本の川になり、三本の急流になった。急流の一つひとつに岩山ができ、その上に三本のシラカバの木が育った。その梢に三羽の金色のカッコウが飛んできて止まった。(27P)
——アンテロ・ヴィプネンは死んでから久しいので、そのからだの上には苔が生え、木が生い茂っていた。肩の上にはポプラ、こめかみにはハンノキ、ひげの上にはヤナギが生え、ひたいにはモミ、歯にはマツが生えていた。(89P)
いかにも水と緑あふれるフィンランディアを背景にした雄渾な語りのほとばしり。花嫁への婚礼祝歌も戒めを自然の比喩にしていて、披露宴のスピーチに使ってみるとしゃれているかも……などと思った。

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2008/11/04 15:48

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2009/02/05 21:50

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2009/03/23 21:26

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2013/08/13 23:51

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