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紙の本
苦しい休暇、気まずい復帰を乗り越えて
2006/02/24 00:51
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヴァランダー警部は、前作『白い雌ライオン』の事件から立ち直ることができず、長く苦しい休暇を経て警官を辞めようと心を決めた。そこへ友人の弁護士が訪ねてくる。父親の事故死に不審な点があるので調べて欲しいというのだ。警官としての自信を失ったヴァランダーが、力になれないと伝えた数日後、その友人が殺されてしまう。事故死と他殺。まるで無関係にみえる二つの事件に繋がりを感じ取ったヴァランダーは、辞意を撤回して捜査を開始する。
辞職すると聞いていた同僚や部下は、ヴァランダーの部屋を使い、捜査での役割も新たにしていたから、皆、戸惑いを隠せない。かなり気まずい上に、休職が長すぎたせいで聞き込みや会議の進め方にも自信が持てない。そんなヴァランダーだったが、事件の核心に迫るにつれて、だんだんと警官としての勘が戻ってくる。いつも衝突している父親を古い人間だと批判していた自分が、古い警官の部類に入るようになったことを感じ、世代間のギャップにも悩むが、新しい警官像の必要性を認めた上で、自分のような警官も悪くないのではないかと思い始める。ヴァランダー再生の物語ともいえるかもしれない。
本シリーズの魅力のひとつにスウェーデン小説であることが挙げられると思うが、本書でスウェーデンらしさを感じたのは、新しく登場した女性警官フーグルンドの設定だ。若くて美人で優秀な刑事とくれば、たいてい独身だが、彼女は結婚していて子供もいる。子供が病気になれば仕事を休むし、夜間の捜査が必要になれば夫に子供をみてもらい、「先に寝ててね」と言って仕事に出る。彼女は仕事か家庭かという二者択一で悩んだりはせず、家族のことは家族の問題として、仕事のことは仕事の問題として対処するのである。今後、イースタ署におけるフーグルンドの存在はますます大きくなりそうだ。
紙の本
警察小説の原点に帰りつつ、やはり社会派
2016/07/03 18:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ついにクルト・ヴァランダー警部シリーズ第4弾『笑う男』を読み終わる。
これで(この時点での)邦訳分は全部読み終わってしまった・・・続きの翻訳と出版を首を長くして待つ。
前作『白い雌ライオン』で正当防衛とはいえ人を殺してしまったヴァランダーはうつ状態に陥り、警察を一年以上休職。 デンマークのスカーゲンで隠遁&リハビリ生活を送っていたが、やはり無理だと退職を決意する。 そこへ旧友が訪ねて来て「事故で父親が死んだが、どうも事故ではないと思う」と捜査を依頼するのだが、ヴァランダーの決心を変えることはできない。 退職届を出そうとスウェーデン・スコーネに戻ってきたヴァランダーの目に映ったのは、その旧友が殺されたという新聞記事だった・・・という話。
ベテラン警部が正当防衛でしかも職務で人を撃ったのに、そのことから立ち直れない、というのがお悩みがちのヴァランダー警部だからというだけでなく、スウェーデンという国なのだなぁ、と思う。
まわりの人たちの理解度がアメリカなどとはまったく違う(まぁ日本もあやしいが)。 そして国際陰謀小説になっていたこのシリーズがまたスウェーデン国内の問題に目を向けており、勿論外国との関係はゼロではないものの軌道修正されたのか?、と思ってニヤつく。 ヴァランダー警部ばかりでなくマーティンソンや他の刑事たちにも愛着を感じている自分に気づくし。
第5作『目くらましの道』で重要な位置にいた女性刑事フーングルドがこの巻で初登場、まわりがどう扱っていいかわからなかったり優秀だという噂に自分の地位を脅かされると感じる人もいる中で、ヴァランダー警部と心を通わせていく過程はとても素敵だ。 しかも彼女は子供がいたりして、子供が熱を出したからと仕事を休んだりするのである。 勿論、男性刑事も奥さんが風邪をひいたから子供を迎えにいかないと、と普通に早退したりするし、みなそれを当然のことだと思っている。 さすがスウェーデン!
なんか女性刑事って独身で仕事バリバリじゃないとやっていけないようなイメージが自分の中にもあったのね・・・と反省した。
なんだかあたしはスウェーデンが好きになっている模様。
そしてシリーズ第6作刊行も、待ち遠しい。(2009年4月読了。 2016年現在、シリーズは9作目まで刊行中です)
紙の本
ヴァランダーの古き善き価値観は生き残れるのか
2018/09/29 00:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作で仕方のなかった状況下であったとはいえ、ひとを殺してしまったヴァランダー。
精神科に通い、酒に溺れ、人格崩壊の危機に至りつつさまよっているシーンから始まる。
そんなところへ父の死に不審を抱いた友人が訪ねてきて助けを求めるが、どうにもできないと突き放してしまう。
いよいよ退職の覚悟を決めて、イースタに戻ったとたん件の友人が殺されたことを知った瞬間からヴァランダーの怒涛の日々がはじまるのだ。再生の過程をすっ飛ばしたような唐突な復帰に同僚一同は驚くが、やはり彼はイースタ署にとってなくてはならない存在なのだ。
今回の敵は貧しい生まれから世界を股にかける企業のトップに上り詰めながらも決して人前に姿を現さない富豪である。金になるものならなんでも食指を伸ばす富豪だが、チャリティに熱心な背後には、臓器売買にからむ殺人が見え隠れする。
この核心部分は結局くわしく触れられることはないが、需要の高い子供の臓器売買には胸が悪くなるような背景があるだろうことは素人にも理解できる。私がきいたところでは、親が貧困のあまり子供を自ら売るような事実があるらしい。子供のその後の運命をうすうす知りながら・・・。
こういった事情にはおそらく先進諸国の人間は何も言えないだろう。それ故ヴァランダーの感想もその部分にはあまり触れていない。哀しいことだが、ひとは他人の痛みを本当には知ることはない。自分たちの環境からかけ離れた世界で行われることには、自分たちの価値観からくる道徳でしか物事を判断できないのだ。
早くから難民を多く受け入れてきたスェーデンだが、移民たちが自分たちの価値観や財産・権利を侵す勢いを見せ始めると、とたんに心を閉ざしノーを突きつけるのだ。
正義や善意はその時々の状況によって簡単に移り変わり、手のひらを反す。
人間の限界といってしまえばそれまでだが、そうはいっても人の心には他人によくしたいという小さな気持ちは誰でも持っていると思う。それがあまりにも小さく、また稀にしか発揮されないからこそ正義や善意はより光り輝くのだろう。