紙の本
異人たちから知る日本
2011/11/28 13:19
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
遅ればせながら話題のこの本を読んでみた。幕末・明治初期に日本を訪れた外国人の著作から当時の日本や日本人をさぐるというスタイル。どっかで覚えがあるスタイル。そうだ、小熊英二の著作『1968』のスタイルか。大森貝塚を発見したモース博士、ベルツ水や草津温泉など温泉の効能に着目したベルツ博士、日本を探検した女性版インディ・ジョーンズ(?)イザベラ・バードなどなど有名・無名の異人が書いた膨大な書物から情報を選んでリミックスする。
明治時代の日本の映像を見ると、なんだか別な人種のように思える。あるいは東南アジアなどの後進国と呼ばれる国へ行ったときに感じるような気持ちになる。同じようなものを当時の欧米の外国人は日本人に対して抱いていた。これはわかる。しかし、よく見ると、ステロタイプの日本、ジャポニスムではなくて、自分たちの文化・文明とはまったく異なるものがある。その驚きたるや。
以下ランダムに。
○当時の江戸は何百もの庭園があり、西洋の都市の成り方とは違っていた。目につくのは江戸城ぐらいで、木々の緑や草花に埋もれた都市。ソメイヨシノの発祥の地・染井村から駒込一体は巨大なガーデニングセンターだったとか。NHKの『ブラタモリ』のCG映像を思い浮かべる。
○職人はチープな道具ですばらしいものをつくる。視点のとらえどころが後の民芸運動と重なるところがある。
○ブルーカラー、ガテン系の男性の肉体と容貌が素晴らしい。
○道の真ん中に野良犬が寝そべっている。野良犬天国だったようで、刀の試し切りの絶好の的になっていた。
○商店などは女将さんが実権を握っていた。
中世は決して暗黒時代ではなかったと述べていたのは誰だっけ?フーコー?それにならえば、江戸時代は決して暗黒時代ではなかった。江戸東京博物館だったかな。長屋の原寸大展示を見たことがあるが、狭い、狭い。何もない。壁も薄くてプライバシーもない。ものも、金もないが、なぜか心は豊かな日々。よく笑い、草木花を愛し、物見遊山に興じる…。しかし明治以降は「脱亜入欧」を旗印に西欧に追いつけ、追い越せで、それと引き換えにさまざまなものを失くしてしまった。捨ててしまったといってもよいのだろうか。
内側からだとよく見えないが、外側からだとよく見える。異邦人からの眼でとらえた当時の日本、日本人は、改めて新しい。
なかなか生硬な文章ゆえなじむまでは骨だが、なじめば読むスピードもあがる。なんかタイトルで損しているような気もする。
紙の本
幕末から明治初期の文明
2023/04/26 13:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かずさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
幕末から明治初期、日本を訪れた欧米人が見た日本の文明を旅行記・文献から読み解き、今では見られない風景を記している。当時の日本人の考え方や欧米人が日本人をどのように見ていたかが解る。封建国家であった江戸時代を自由のない世界とは考えていなく、かえって明治より自由だったと。意外と当時の日本の文明は人間の生存をできるかぎり気持ちの良いものにしようと合意と工夫によって成り立っていたと著者はかんがえている。昭和40年代まで地域によっては見られていた景色が読んでいて思い出された。厚い分量が少々読むスピードを時として遅くさせる。
紙の本
この国の過去の姿とは思えない
2022/01/05 01:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:719h - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代に興味のある向きなら、是非とも
手にとってみて頂きたい労作です。
主に欧米人日本滞在者が残した記録にあたり、
江戸時代の我が国の人と社会の有り様を
文章として再現させてくれています。
彼らの記録については、イザベラ・バードによる
褒め言葉ばかりに焦点が当てられがちですが、
本書では肯否両論とも取り上げられている
点が実に好ましいです。
投稿元:
レビューを見る
幕末〜明治初期に来日滞在した幾多の西洋人訪日記に残された異文化=江戸人の実相。そこから国民国家や湿っぽいロマンではなく、風土と歴史の積分上に立つ因縁の自覚から、前代「文明の滅亡」(隠蔽)を土台とした近代化という「文化の変容」を表す。
投稿元:
レビューを見る
「私にとって重要なのは在りし日のこの国の文明が、人間の生存をできうる限り気持のよいものにしようとする合意とそれにもとづく工夫によって成り立っていたという事実だ」近代に物された、異邦人によるあまたの文献を渉猟し、それからの日本が失ってきたものの意味を根底から問うた大冊。1999年度和辻哲郎文化賞受賞。
投稿元:
レビューを見る
江戸時代の終わりに日本を訪れた外国人の記述から当時の日本を振り返った作品。確かに先人たちが生きた古き良き日本は美しいです。
投稿元:
レビューを見る
ちょうど去年の年越しをともにした一冊。
祖母宅の掘りごたつで、眠気と戦いつつ
読んだ本。
3色ボールペンで、書き込みしたなー。
日本史を勉強しておくと良い。
投稿元:
レビューを見る
江戸時代の日本人は好奇心が旺盛でよく笑い社交的だったそうだ。
そんな失われて久しい江戸文明の美しさに気づかせてくれる良書。
投稿元:
レビューを見る
江戸と明治は地続きではなかったことを思い知らせてくれる本。豊富な史料と硬派だが親切な文章で、鮮やかに江戸の人々をよみがえらせてくれます。
投稿元:
レビューを見る
現代の日本人から見た過去の日本の姿とは、どのようなものか。
近代化を経た現在の日本人に最も近い感覚を有する過去の人とは、幕末から明治初期に日本を訪問した外国人(西洋人)であり、彼らの遺した見聞録がカメラ・アイとして用いられる。したがって著者の資料選択が偏頗であるという批判は短見であり、著者の意図への無理解に基づくものである。
本書は歴史記述としてではなく、「過去へと遡るサイエンス・フィクション」として読めばよいのであり、その限りでは読んで楽しく、愛すべき読み物である。
礼儀正しく、笑顔を絶やさず、子供を慈しむ。本書には、そうした日本人の、今は失われた美質が生き生きと描かれている。何となく惨めで、貧しく、暗い時代だったと想像しがちな近代以前の日本にも、このような日常があったのだと、著者は哀惜をこめて語る。しかし本書に描かれている日常は、多くの場合、その場に紅毛碧眼の西洋人がいるという一点で、当時の日本人にとっては非日常でもあったのではないかとも思う。
混浴についてはさておき、礼儀正しくせよ、笑顔を絶やすな、子供を慈しめ、と現代の日本人に注文をつけたがる人々が本書を持ちまわるのが鬱陶しい。
投稿元:
レビューを見る
「幕末に異邦人たちが目撃した徳川後期文明は、ひとつの完成の域に達した文明だった。それはその成員の親和と幸福感、あたえられた生を無欲に楽しむ気楽さと諦念、自然環境と日月の運行を年中行事として生活化する仕組みにおいて、異邦人を讃嘆へと誘わずにはいない文明であった。しかしそれは滅びなければならぬ文明だった。」p568
彼が幕末の異邦人の言葉を紹介しながら描き出す、当時の『文明』。
前工業化社会で最高峰に達していたともいわれる『文明』。
その姿への関心もさることながら、ひとつの安定した社会システムをつくりあげる日本の力に誇りを感じます。
これからもそうであることを信じます。
投稿元:
レビューを見る
この本だけでもないが
江戸時代などについて書かれた本を読むと
何故日本が今のようになったのかについて
考えてしまう
逆に近代工業国にならなかった国もたくさんあるのに
投稿元:
レビューを見る
成果主義すらも相対化され、日本が歴史上はじめて西洋社会の後を追おうとしている(先進国としての存在が新興諸国に凌駕されようとし、人口は減りGDPは減少の一途をたどるであろうこの歴史的な)フェーズにおいて、この本を読むことには一定以上の意味があるように思う。そこにあるのはせいぜい百何十年か前の日本人のリアルな生活であり、実在していた人生、その塊である。
人々にとっての満足とか、美徳とか、人生に向き合う姿勢とかは何であったろうか。
綿々と、そして繰り返し繰り返し語られるその文章を読み続けるうちに、静かにそして確実に説得され続けているような、そんな感じになってくる本。そのためには、文庫でもこの厚さ・そしてこの文字の小ささが必要なのだろう。この分厚さに負けずにこの本を書店で手に取った時点で、もうすでにスイッチがオンされる準備は整っている。受け入れる準備をしているところにじわじわ来られるそんな感じでw
投稿元:
レビューを見る
これまでも幾つかの幕末や明治時代に訪れた外国人による紀行文を見てきたが、本書は正に在りし日の日本を映し出す集大成だと思う。
一つ一つの項目において日本人の生活する息吹きや平穏で穏やかな様子、豊かな自然美などが目の前に美しく浮かびあがる。
思わず少し笑ってしまうような日本人の様子や豊かな日本人の姿を目の当たりにして切なくなってしまったり…ただの紀行文を集約したものではなく、美しい日本人、日本の残影を彩る。
投稿元:
レビューを見る
ここに書かれているような夢の国がかってこの同じ日本にあったとは信じられない。ずいぶん前に亡くなった明治生まれの祖母に、今想えば微かに古き良き日本人の残像が見られたのだろう。