紙の本
朝刊を読んでいたら、今、ジャズブームだそうです。支えているのは美形の若手女性奏者らしい。いい年したオヤジが薀蓄を傾ける時代は終わった?
2006/02/04 17:46
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ええ、今回は結論から先に書いちゃうんですが、私がこの十年読んできてもっとも納得が出来た探偵さんが、この小説に出てくる氷見耕太郎です。決して予想外、というわけではありません。すでに田中には『笑酔亭謎解噺』という名作ミステリを書いています。でも、探偵役の人物造形がここまですっきりしている、というのは予想していませんでした。想定外、です。
まず氷見については、容姿についての記述が殆どありません。
「彼は、私のバンド、唐島英治クインテットのテナーサックス奏者、氷見耕太郎だ。私が五十一歳、彼が二十六だから、かなりの歳の差だが、なぜか馬があい、ときどきこうしてオフの日にも行動をともにする。私にこどもがないためか、本当の息子のように思えるときもある。
彼の短所は、音楽のこと以外考えないところだ。」
と冒頭にある程度で、体つきがどうだとか、癖がどうだとか、私生活が、といった描写は切り捨てられている、といってもいいでしょう。にも関わらず、彼の人懐こい、素直な性格が行間から浮かび上がってきます。それは、いわゆる探偵=エキセントリックといったステレオタイプなものでは全くありません。それはワトソン役である私、唐島についても同様です。
ワトソン=ちょっと愚かな一般人、ではなくて人望も実力も、決断力もある常識の範囲内のリーダーなんです。それが実に自然です。音楽以外のことは考えない、とありますが今時の二十六歳の視野の狭さを思えば、氷見の興味の範囲が限られるのも当たり前でしょう。そんな注にもかかわらず、彼は自分の身のまわりに起きることに素直に心を開きます。
悩んでいる人がいれば、その悩みを吐露させようとしますし、不満が渦巻けば「殴っちゃえば」くらいなことは平気で言います。これって、自然ですよね。その言い方が、いかにも、っていう感じではありません。ともかく自然。探偵のもつ回りくどさ、衒学趣味、独りよがり、なんて無縁です。しかも、温かい。そうとは書いていませんが、じわー、っと来ます。
これ見よがしな感動はありません。でも、ほっとします。彼がテナーサックス奏者であることが、とても上手に話に生かされています。田中が各編の巻末につけているジャズに関するコメントを読んで得心するんですが、啓文は自らもテナーサックスを演奏しているんですね、しかも自分が演奏したアルバムまで出しています。もしかして筒井康隆先生よりも上手かも・・・
このコメントとレコード・CDの情報を読むと、田中にとってこの小説はとても大事なものじゃあないのか、そう思います(誰だって気付くでしょうが)。そういうジャズにたいする愛情が伝わってくる。でも、それは決して薀蓄とか偏愛とかいった歪なものじゃあないんです。この小説集の、そして探偵役の氷見の魅力も、そういった田中の姿勢ゆえのものでしょう。
表題作は十数年まえに書かれた、とあるだけで初出一覧にも年号表記がないのは片手落ちの感がありますが、他は2003年から2005年に〈ミステリーズ!〉に発表され、「虚言するピンク」だけが書き下ろしだそうです。それにしても、十年以上たってこの傑作ミステリの続編を書かせ、この素晴らしい本にまとめ上げた出版社に感謝します。勿論、この作者である田中啓文にも。
それにしても、です、これがあの『蹴りたい田中』『天岩屋戸の研究』を書いた人の作品でしょうか。ま、『忘却の舟に流れは光』を書いた作家だから、とは言えるんですが凄いです。カバーまで変身して、活字のレイアウトまでデザイン一新。ブックデザイン 緒方修一、カバーイラスト・デザイン 森山由海・森川結紀乃。うーん、森、山、海、川か・・・
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『笑酔亭〜』が面白かったので、こちらも読んでみました。ジャズには詳しくないのですが、音楽だけでなく、絵画や小説についての謎もあり、とても興味深く面白かったです。続編などもあれば読んでみたいですが、これはこれで完成された1冊ですね。
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本を読んで感動に打ち震える人もいれば、音楽で人生を180度変える人もいる。
人間を動かす影響力というものは、思いの他些細なものかもしれない。
田中啓文はこういう物語も書けるんだなぁ。
グロも素敵だけどこのシリーズも続けて欲しい。
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田中 啓文さんって多彩といえばいいのか?これはJAZZプレイヤーを主人公にした謎解きで、落語のときのように曲や演奏スタイルもモチーフとして活きています。こっちのほうが好きです。
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ジャズプレイヤーがあっというまになぞを解いてしまう話。ジャズに造詣の深い著者が書いているだけあって、ジャズについては細かい。でも人物はなんだかうすっぺらい。「天才なのである」で片付けられても、困る。
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ジャズは分からなくてもとにかく面白い! これを読めばジャズを聴きたくなるかもしれないですね。全然曲などを知らなくても、音楽が聴こえてきそうな心地です。
お気に入りは「挑発する赤」と「砕けちる褐色」。特に「砕けちる褐色」での犯人探しの考察が凄いなあ。これぞ本格! という感じがしました。そしてその上での真相にはこれまた驚き。やられた~。
「挑発する赤」は、永見の台詞「じゃあ、俺たちの勝ちじゃないですか」がかなりツボ。ここまですっきり言い切れるとはカッコいいなあ。
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このシリーズはとにかく気持ちよく読めるので好きです。そして、まったくジャズに詳しくないし興味のない私でも、ジャズが聞きたくなりますね!落語関係も好きですが、このシリーズまた書いてくれないかなぁと心待ちにしています。
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(収録作品)落下する緑/揺れる黄色/反転する黒/遊泳する青/挑発する赤/虚言するピンク/砕けちる褐色
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ジャズバンドに所属する永見緋太郎の名推理。
…というからには主役は永見かと思ったら違った。
ジャズは門外漢なのでさっぱりですが、謎系はおもしろかったです。
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ジャズ大好きおじさんなので,非常に楽しめた.音が聞こえてくる感じの文章も良い.永見の推理はどれも素晴らしい.
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ジャズのこと以外頭にない天才テナーサックスプレイヤー、永見緋太郎が意外な冴えで日常の謎を解く短編ミステリ。おお〜♪これはもろ好みかも♪まず、主人公・永見のキャラが、普段はのほほんとしているのに、それでいて天才的に鋭いっていうところが魅力的。サックスが奏でる音色を「ぶぎゃっ、ききききぃーっ、くぶわっ、ぼけけもけけ…」という初めて目にするような擬音で表現するマニアっぽさがすごく良い。自分はジャズに疎いが嫌いじゃないしなんとなくイメージできて面白かった。謎解きの部分はあっさりとしているんだけれど、すとんと腑に落ちる感覚が気持ちよい。【以下ネタバレ含むため未読の方はご注意】以下簡単にあらすじ紹介。「落下する緑」抽象画の展覧会にて、絵が逆さまに展示されていた。真相は容易に想像できるが、永見のあっけらかんとした魅力が面白い。「揺れる黄色」キング・オブ・ジャズ・クラリネットから大事な楽器を譲り受けた謙虚なクラリネット奏者と、それに嫉妬する兄弟弟子。気の遠くなるような策略。「反転する黒」天才トランペッターの失踪に纏わる話。年下の天才プレイヤーに嫉妬し大人げない態度をとった唐島に対する「案外、枯れてないんですね」という永見のセリフに苦笑。「遊泳する青」国民的作家の幻の原稿をめぐる疑惑。作家名、代表作のタイトルからモデルとなってるが誰か簡単にわかるのが可笑しい。私も「剣客○○」は愛読書。「挑発する赤」激辛な毒舌ジャズ評論家。これでもかというくらいに厭な人物に描かれていて、ラストのオチにスカッとした。「虚言するピンク」尺八に感銘を受けたフルート奏者が弟子入り。欠点の早合点を上手く活かした(?)勘違いが笑えてハートウォーミングなエピソードになっている。「砕けちる褐色」共演者から嫌われる超一流のベーシスト。彼の溺愛するウッドベース・フランソワが何者かに穴を開けられた。一体だれが…誰からも恨みを買っているだけに動機だけでは絞れない。意外なこの犯人のことは、しばらく忘れられそうにないなぁ。
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テナーサックス奏者の永見緋太郎が探偵、バンドマスターの唐島がワトソン役の日常の謎系ミステリ。美しいタイトルどおり謎解きもすっきりと読めました。ジャズのレコード紹介付き。永見が奏でるサックスの叫ぶような音の表現(がおうううぅっ、みたいな)はちょっと苦手。
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ジャズサックス奏者が探偵役。
あっさりと謎を解きすぎのような気がする。
梅寿シリーズとは違い標準語で書かれていた。
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ジャスなのである
スウィングするのである
謎もあったのである
推理もできたのである
拾い物の面白い推理小説
ハッキリ言って、音楽シーンは
意味が分からないケド、ジャズメン
の楽しさは昔、山下洋輔のエッセイ
で感じたものでした
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久しぶりの再読。
典型的な天才肌の永見。端から見る分には楽しいけれど、唐島のように常に一緒にいる人間にとってはハラハラするだろう。
いつの間にか逆さまに展示されていた絵、師匠から弟子へ受け継がれたクラリネットの秘密、消えた天才トランペット奏者、高価なウッドベースを壊した犯人…。
様々な色をタイトルに、永見がお気楽に奔放に推理する。
ジャズは好きだけど、永見のようにモダン過ぎるのはちょっと付いていけない。
唐島の、永見を息子のように見守る姿は良いけど。
ちょっと話やキャラクターが被ってるのがあって、もう少しバラエティーがあって欲しかったかな。
各話の間には作家さんお薦めのレコード紹介も挟まれている。田中さんって色んな方面に詳しいんだなと感心。