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紙の本
痛快で悪いか
2011/09/24 18:30
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
普段は気弱で温厚な芸術好きな青年、マスクを被れば情熱的で野性味溢れる剣の名手。権力者や軍人の横暴に立ち向かい、虐げられた人々を助ける庶民の英雄、だがその正体を知る者はいない。仮面もの、義賊ものの歴史という中での位置付けを承知していないが、まずは定番の設定。舞台は移民初期のカリフォルニアで、初期の移民団の人々と、後から来た政府機関や軍の感情的な対立の中でのゾロの活躍がある。
読者だけが知っているマスクの秘密が敵にばれるかどうかのスリルも愉しいが、もう一つのドキドキは、彼(ら)の恋の行方。演じ分けられた二つの人格のそれぞれが、一人の娘に求愛するのだ。彼女がいったいどちらを選ぶのかも気になるが、それより最愛の人の秘密に気がつかないのだろうかと、これもまたやきもきさせるのだ。恋はまた人の真情を移してしまう。演じ分けているはずのそれぞれの人格に対して、娘の前では敵に対峙している時とは裏腹に、ゾロ自身が自信を持ちきれていないところに人間味が現れている。
ゾロはついに追いつめられて、危機のクライマックスになるのだが、賭けは成功する。そして彼が本当に望んでいた結末が明らかになる。一人の英雄的な活躍によって誰か悪者を退治して終わるのでなく、新しい時代を呼び込むこと、ゾロはその風になったのだ。それがこの物語の一番痛快なところであり、通俗的でありながらこの作品を古典的傑作の地位に留める理由なのだろう。
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