紙の本
根拠の無い恐怖に脅えないで現実を踏まえた議論をするために
2006/06/24 14:10
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Skywriter - この投稿者のレビュー一覧を見る
年々低年齢化・凶悪化する少年犯罪や精神障害者による犯罪に対してどのように社会を守っていくべきか。
こんな問いが、2000年の少年法改正を導いた。実に50年以上も手付かずだったこの法律を改正させたのは、酒鬼薔薇聖斗に代表される”理解できない凶悪犯罪”にあったことは間違いない。
しかしながら、犯罪は低年齢化しているのか。凶悪化しているのか。増加しているのか。
全ての答えは否である。少年犯罪は、観測史上最低レベルを推移している。殺人、強盗、放火、強姦などの凶悪犯罪は1960年代と比較すると数分の一にまで減少しているのだ。であるからには、少年法の改正は必要あったのだろうか。
本書はそのような立場から、少年法が目指したのはどのようなことだったのかを解き明かす。そして、少年の成育歴に光を当て、少年の更生を目指した少年法を根拠無い恐怖を背景として厳罰化させるべきだったのか、と問いかける。
しかし、本来少年法が対象としていたのは凶悪犯ではない。微罪を犯した少年を、若さゆえの過ちとして裁くことでその未来を奪うことを防ぐためにあった。あくまで対象は”凶悪犯ではない少年犯罪者”のことだったのだ。
ところが、本来そうあるべきだったのに、凶悪犯罪までをも少年法で括ろうとしたところにこの法律の無茶があった。その結果として、少年による殺人は事実も碌に調べられず、刑事罰も与えず、被害者にとっては将に殺され損の状況を招いた。同級生を殺した生徒が数ヶ月もすればまた学校でごく普通に生活できたのだ。これがあまりにも異常であることは明らかだろう。
その点で、私は少年犯罪は凶悪化も増加もしていないことを認めつつ厳罰化は必要であると考える。また、改正少年法に拠っても、生育環境によって歪んだ人格を直すことに視点が置かれているようだが、性格の大半は遺伝で決まる。つまり、環境を変えても犯罪者は犯罪者であると言える。そのような犯罪者を安易に外に出すべきではない。
私は米国のスリーストライク法を日本でも導入するべきだと考える。一定以上の法律違反を3度以上繰り返せば、もうその人物は刑務所から出ることはできない。そうするべきだ。
日本は安易に犯罪者を外に出す。その結果、たとえば強姦事件の犯人が、自分を訴えた腹いせに強姦の被害者を殺害するといった痛ましい事件が勃発するのだ。
本書ではこのような、今の制度でも決して更生しない(遺伝的背景があるので、更生なんて端から無理であるというのはこの際置く)犯罪者のことを書かない。再犯率が50%にも達しようという現実を書かない。少年法を含めた刑法は、はっきりと失敗しているのだ。その現実をもっと見て欲しい。
ただ、少年犯罪の質は以前と変わらず、件数は激減しているにもかかわらず少年犯罪への恐怖ばかりが募っているのは問題だ。その点で、社会がホラーハウスになってしまっているという筆者の指摘は首肯できる。事件を追いかけ、消費するマスコミや一般人が、正しく現実を知らなければいけないのは間違いが無い。
そういった意味では、本書が指摘するように少年法の根源に立ち返って考えるのは重要かもしれない。
なお、少年犯罪に興味があるなら『少年の「罪と罰」論』を、遺伝による性格への影響に興味があるなら『人間の本性を考える 上』、『人間の本性を考える 中』、『人間の本性を考える 下』をお勧めしたい。
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犯罪の原因は社会だとして被害者をなおざりにしてきた世の中と、理由なき犯罪者=怪物から身を守るために、治安を守ることに執心し、その秩序から少しでもはみ出るものを排除していく世の中と、
どちらが善いか悪いかで量れるものではないのだろう。
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2000年に、少年法が改正され、厳罰化されるまでの前少年法といえば、やはり、誰もが疑問に思う点が多々あり、被害者よりも、加害者の少年の権利ばかりが守られ、
これからの人生につまずきがあってはいけないと提言される。処罰の適用年齢が16歳から14歳に引き下げられたけれど、もう少し早く、何とかならなかったのだろうか。
現代は、特に、動機なき犯罪が増加している。一般の私達ができる事は何だろうと考える。割れ窓理論について、少し書かれていたが、少しの事も、放置される事の無いよう、心がけが大切だと思う。
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凶悪犯罪は増えてなどいない。
保護の対象であった少年と精神障害者はなぜ「怪物」扱いをされるようになったのか。
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[ 内容 ]
凶悪犯罪は急増していない!!
保護の対象であった少年と精神障害者はなぜ「怪物」扱いをされるようになったのか。
[ 目次 ]
第1章 少年を教育に囲い込む社会(少年犯罪は凶悪化しているのか 「山形マット死事件」の真実は ほか)
第2章 「怪物」化する少年たち(「神戸連続児童殺傷事件」の戦慄 どの時代にも起きていた凶悪事件 ほか)
第3章 精神病院から排除される病者(町に暮らしていた病者たち 私宅監置の悲惨な状況 ほか)
第4章 犯罪精神医学の歪んだ欲望(犯罪の専門家としての精神科医 犯行動機の解読者として ほか)
第5章 不安にとりつかれた社会(措置入院制度から医療観察法へ 判断基準は異常性にあり ほか)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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酒鬼薔薇事件以来、少年犯罪が増加、凶悪化したと各メディアでは報じられていたが、犯罪白書のデータを見れば分かるとおり、1960年代に比べ、殺人を含め少年犯罪の件数は大幅に減っている。
更に、一家4人を殺害して金を奪った上に放火した永山則夫事件、優等生として認知されていた少年による猟奇的な事件など、「凶悪」と思われる犯罪は昭和時代からあった。
それにもかかわらず、平成に入ってから少年犯罪が増加、凶悪化したという虚偽の情報が広まった背景にあるのは何か?著者は、住民が嬉々として防犯活動、治安管理に勤しみ、秩序を乱すものを監視、隔離し、恐怖を快楽として消費するホラーハウス社会を作り上げていることを指摘している。
非常に興味深く、内容も正鵠を射たものだと思った。最近は治安が悪くなったと言われていますが、そう断定せず、冷静に世の中を見つめていくのが大事だろう。
人々は連日報道される凶悪犯罪に目を顰めながらも、メディアの必要以上に不安を煽るセンセーショナルな報道に怯えつつも、どこかでそれを楽しんでいる節があるのかも知れない。そういうことを考えさせられた。
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Sadismは、加虐性淫乱症(性欲)って意味だったんだ。生活療法、エンタメ。普通の生活では知りえない少年犯罪、精神病?者の事情や経緯が、偏った報道では知りえないことがわかった。
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「少年による凶悪犯罪は急増していない」という主張は、「教育不信と教育依存の時代」で広田 照幸氏も述べている。
では、何が変わったのか。事件を受け容れる社会が変わったのだ。
以前の社会は、事件に直面し犯人を責める前に、理解しようとした。その犯罪から、社会の病理を捉えようと努力した。しかし、今はその努力よりも、怪物として排除しようとしている。
それらの動きを著者は「犯罪の作品化」と呼んでいる。
犯罪者となった少年たちの「更正」「教育」を主目的としてきた少年法の精神、歴史的背景。そして、犯罪の作品化を持ってしても理解不可能となった酒鬼薔薇事件を契機として起きた厳罰化(少年法改正)への動き。
一方「異常者」として、刑法上の刑罰を免れた少年たちが収容される精神病院の抱える様々な問題。
この本の提起する問題は多岐にわたっている。
だからどうしたらよいのか。
これは私たち一人一人が考えなければならない問題なのかも知れない。
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なんかリサーチ不足してんじゃないのかなという印象を受けるんだけど、大丈夫なのかな。
まあ精神医学史や犯罪学史とかはちゃんとした資料が少ない印象というか、
ダメな資料の比率が高いような気がするからしょうがないか。
ここらへんのわりとサヨク史観というか、
「悪いやつら、無能なやつら、権力者が善良な人々をふみつぶし虐待する」
という視点から扱いやすすぎるんだよな。それにまあ実際精神医学は
20世紀後半までまったく見込みがなかったわけだし。
本当になにもわかってなかってなかったみたいね。おそろしすぐる。
でもそれは悪意や無能によるものではないわね。難しすぎたし道具もなかった。
DSM-III革命の偉大さってのがいまわかる。