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紙の本

険しい山岳地帯に生息するという神秘的な動物を求めての登山行。極限の地、極限の思索によってもたらされる清澄と濃度に興奮させられる旅行記。

2006/07/21 00:55

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 東京西部に暮らす園児・小学生なら一度や二度、遠足で連れて行かれるはずの多摩動物公園に行った折、ちょうどオランウータンのための世界最大級スカイウォーク完成直後というスペクタクルで混雑するなか、悠然と歩くしなやかな動物を見つけた。連れの家族らが素通りしていった後、シルバーグレーの毛並みに惹きつけられ、しばし眺める。
 ロシアのクラムスコイが描いた、アンナ・カレーニナのモデルとも言われている「忘れえぬ女」という画が頭をかすめる。かの貴人の装束は黒であったが、一瞬にしてもたらされるクールで優美な印象は同じ。あの銀の毛を身にまとい、囲いのなかで一緒に尻尾をゆったり動かして歩いてみたいものだと思う。
 Snow Leopard——名もまた、どことなく毅然とした流麗な響き。高級乗用車や老舗ブランド鞄にロゴとして付されていてもおかしくない。
 そのように本物のSnow Leopardとの出会いは印象に残るものではあったのに、この本の表紙を見かけて手に取って、美本ほしさにbk1に注文して読み終わり、「ちょっと雪豹について調べてみよう」と検索して、雪豹愛好者の充実したサイトに行き着くまで、私はこの雪豹と多摩動物公園のSnow Leopardが同一の動物だと気づかなかった。
 それはなぜかというと、本書の著者である探検家、ナチュラリストのマシーセンが雪豹を追い求めてヒマラヤの山岳地帯に分け入った1973年当時、この動物は標高5000〜18000フィートにしか現れない幻のような存在であり、過去25年にヒマラヤで彼らに遭遇した西洋人は2人しかいなかったということだから。全米図書賞にも顕彰された本書は、その西洋人のひとり、動物学者のジョージ・シャラーに誘われてヒマラヤアオヒツジの生態観察のため、しかし著者としては雪豹との出会いを期しての旅に出向いた記録である。
 群れにならず単独で行動する、しかも、人間の気配を避けて慎重に行動するこの動物は現地の人びとにとっても神秘の存在であり、長く厳しい道のりの末に、マシーセンたちが果たして本物の雪豹に出会えるのかどうか、1日1日の濃密な記録の行方に引き摺られて行く。足跡や糞、隠れ家、狩をする気配など、ちらつくものはあるのだが、彼らはなかなか雪豹には行き会えない。手に取るように生態を眺めることのできる動物園の存在とまったく同じとはいえ、それは明らかに「非」なる存在であったのだ。
 しかしながら、この記録は単純な動物探索行とは様相を異にする。雪豹以外の動物、植物、天候や地相といった自然描写は緻密であるだけでなくファンタスティックであるし、自我の強いパートナーとの賢明且つ知的な付き合い方、シェルパやポーターたちとの丁々発止のやりとりが生き生きと書かれている。
 そして、そういった描写とは別に大きな部分を占めるのが、マシーセンの内面に深く広くしみわたって行く禅宗やチベット密教など、宗教の恩寵であると言える。そもそも本の献辞は日本人の禅師3人に対するものであり、著者には、ニューヨークの禅堂で修行を重ねていたり、妻を失ったショックを引き摺っていたりという背景がある。空気が薄く、天候や地形の険しいなか、生存の危機にさらされながら上へ、上へと登って行くにつれ、日記の内容は思惟の稠密さを増す。もう1つの聖なるものへと近づく旅と化して行く。雪豹ならぬチベット密教の高僧という尊い存在との交わりがまた得難い遭遇で、強い印象をもたらす。
 極限の地、極限の思索によって可能となった、清澄と濃度。圧倒的な知的興奮に突き動かされる。

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