紙の本
政治思想史の立場から見る日本政治学
2006/03/29 09:28
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
200頁弱の紙幅で、現代日本をとりまく7つのキーワードでみつめる政治学入門の新書です。「入門」という言葉が連想させるほどの平易さで書かれているとは思いませんが、それでも私は学ぶところの多い書だと感じながら読み進めました。
特に第四章「憲法」は、最近かまびすしい改憲論議を前にして、そもそも憲法というのは「人民から権力を受託した側が、それを恣意的に行使できないように制約を課すもの」であることに立ち返って考える必要があることを訴えます。そうそう、そうでした。このことをついつい忘れがちであるからこそ、憲法の前文に愛国心を盛り込むべきかどうかということが真剣に論議される事態が引き起こされているのです。「そもそも」論に拠れば、愛国心はその是非を問うこと自体がいけないということではなく、改憲論議とは別の土俵で論じるべきことだということになるのでしょう。
また第七章「東北アジア」では、朝鮮半島・台湾・中国大陸・ロシア極東と日本とで形作る地域構想を考えることが、日米安保に特化した安全保障を、漸進的な多国間主義の中に埋め込んでいく道のりになりうるとしています。
もちろん著者自身も「歴史認識をめぐる相克と冷戦構造の残滓」が「ユーラシア大陸の東端の未来構想に暗い影を投げかけている」ことを認めています。「こうした問題が解決されないかぎり、おそらく地域主義の夢は、虚妄に終わる」と指摘し、一筋縄ではいかないアジアの隣人たちとのつきあいをそれでも探る道を選ぶべきだと唱えます。
この提言はおそらく万人の賛同を得られるものではないかもしれません。しかしアメリカ一辺倒の現況から脱する手立てを探る上で、本書の唱えるような多国間主義的な後ろ盾を健全な形できちんと組み上げていくことは決して無益でも無邪気でもないような気もします。
紙の本
干物と生もの
2007/08/08 20:35
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルに著者名を冠しているように、姜氏ならではの色が滲み出た政治学になっている。テーマは、アメリカ・暴力・主権・憲法・戦後民主主義・歴史認識・東北アジアの7つ。これを新書の体裁で、本文とあとがき合わせて、わずか172ページの分量で論ずるのは、はっきり言って詰め込みすぎである。そのせいで、各テーマの解説はあっさり風味。別に人物・用語解説もついているが、最低限の記述でしかない。難しいと感じる人がいるのはこれらのせいだろう。
やはり入門書を名乗るならテーマを削るか、もしくはページ数を増やして、概念説明こそを丁寧にやってほしかった。
さて、学問としての政治は、「抽象的な原理を振り回すばかりで、現実の役には立たない」といった類の批判が、時には政治学者の中からさえ自嘲気味に漏れでたりする。これは半分は当たっていると認めよう。しかし半分しか当たっていないとも言っておきたい。
姜氏はこの批判には自覚的な人だと思う。あとがきで、政治学を「干物」、メディアやそれが主に扱う現実界の情報を「生もの」に喩える。普段から「干物」の味をよく噛みしめているからこそ、「生もの」の世界で発言し判断を下せるのだという。そうして「行動する」学者として、生の世界に積極的に関わろうとしている。そうすると「敵」も増える。毀誉褒貶も激しくなるだろう。
本書はやはり抽象的な原理が中心だが、具体的なアジェンダ(政治的構想)も開陳する。それが姜氏の色だ。
賛同する点もあったが、一点、「東北アジア共同体」の構想について異論を呈しておきたい。
《しかし私自身は、たとえそれが決断主義ではないかと誹られても、ナショナリズムの実在よりは、東北アジア共同体の虚妄に賭けるべきだと考えています。》
「東北アジア共同体」とはASEANのようなものなのかEUのようなものなのか、はっきりしない。ASEANのようなものなら、日本も+3に参加しているが、東北アジアでも実現の可能性が0ではないだろう。ただし、ナショナリズムは保持されたままである。姜氏はアンチ・ナショナリストなのだから、それでは満足しまい。「虚妄」というからには、EUのような(あるいはそれをも越えた)方向性なのだろうと想像する。しかし、EU加盟国とてナショナリズムを払拭はしていない。
また、姜氏は日本国憲法の三原則、平和主義・基本的人権・国民主権を「保守」しようとする。いいと思うが、それは同時に立憲主義によるリベラル・デモクラシーを「保守」するということでもある。ならば中国や北朝鮮が「多元的な体制=民主化」に移行してくれないと、EU的な「共同体」までは無理なのではないか。EUに旧東欧諸国が参加したのも、「民主化」がなったからこそである。
私は「追米保守」のつもりはないし、東北に限らずアジア諸国と友好関係を深めることに異存はない。しかし、立憲主義体制の根本的相違を棚上げにしたままでは、棲み分け的な共生関係(APECのように経済関係を中心とした)としての東北アジアにとどまり続けるのが精一杯、という気もする。
こういった懸念を打ち破ってくれる「行動」を期待したいが、今のところ姜氏の立憲主義擁護と構想との懸隔はあまりに深い。
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「入門」という文句に引っかかりを覚えながらも購入。結果的には結構の当たり、かな。「アメリカ」「暴力」「主権」「憲法」「戦後民主主義」「歴史認識」「東北アジア」の7つのキーワードから現代世界を政治学的に斬るという内容。
メディア露出の多さから敬遠してしまう人も多い姜尚中だけど、この本を読むと彼の考え方が学問と感性の二つ(彼に言わせると「干物」と「生もの」)のバランスのうえに成り立っていることがよく分かる。
前提的な知識を必要とせずに現代世界を概観するには良い本。特に「東北アジア」の項は、流石に熱い。
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2006/09 現在日本を考えるきっかけになる本。勉強になり、考えさせられる1冊。http://blog.livedoor.jp/e_to_man/archives/50703185.html
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政治学入門とあるけど、姜先生の政治思想が色濃く反映された内容。
「憲法は国民を縛るものではなく、権力者を縛るもの」という言葉に目から鱗でした。
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他の人はどう評価するのか僕には分かりませんが、僕にはこの本は「入門」ではなかったです。
政治に関してまだぺーぺーの僕としては、一般的な論説なのか、それとも姜氏の特徴的な主観論なのか、さっぱりわかりませんでした。
それでも、分かる部分に関しては、「なるほど、そういう考え方をするのか」と素直に感心できる部分もありました。
本当に政治学の入門書を探している人には不向きな書かもしれませんが、姜氏の考え方を深く知るには格好の1冊なのではないでしょうか。
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テーマは時事的な問題ばかりだが、ところどころ脚注などで多様な人物、思想、出来事を紹介している。まぁ興味関心を喚起するにはちょうどいい作品。
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かなり興味深い引用があった。
↓以下引用
人類学者達が未開社会をフィールドワークするうちに
「共同体内部で発生する諸処の『過剰』(貧富の差、
人間関係の矛盾、等々)が、祝祭や儀礼といった
非日常の時間の中で一気に『蕩尽』される仕組みを
発見しました。それは時によって、
共同体の成員である人間をも生け贄として
殺傷するような、暴力的な相貌を呈することがある」
未開社会がどの定義で扱われるかは別として、
さほど関係の濃くない人間関係の薄い、ある種の未開な
関係でもその事身近に生じる。
まだ、信頼関係を結んでいない中での
特定の人への中傷による、特定の人以外の
人員の中での結びつきの深まりとか。
暴力的な相貌はこの場合、言葉による中傷。
人間が形成する社会はすべて完璧というわけではない。
常に未開である社会なのだし。
完璧になる必要はないと思うが、それが人の
性というものなのだろうかなぁ。
個人的な還流システムは完備で、非日常の中で一気に
『蕩尽』する手段は旅行とか放浪とか。
非日常はどこにも転がっているから、自己形成にも
なんとか散らばるかけらをかき集めれるのだろう。
まぁ、マクロ的な視野からでもミクロ的なそれでも
言い得て妙だと思った。
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姜尚中による政治学入門。政治思想史のようないわば「干物」のような知の体系が、時としてメディアのような「生もの」よりもずっと生々しいアクチュアリティを持って、現状での判断に生かされるという。そして、政治学というのは本来未来への構想力を提言することを目的とした知の形態だという考えにのっとり、
アメリカ
暴力
主権
憲法
戦後民主主義
歴史認識
東北アジア
という7つのキーワードを通して、現代日本と世界の問題意識を見据えている。
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正直、政治学の知識ゼロなわたしにとっては難しかったです。こんなに読むのに時間がかかった新書は初めて…苦笑
でも、だからこそ全部がわたしにとっては新しい視点。なんだか世界が開けた気がした。アメリカが民主主義の独裁、みたいな表現はびっくりした。あと、あとがきの「干物」があるから「生もの」が味わえるんだ、ということとか…
もっと姜さんの思考をなぞりたい。
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暴力 ホッブズの自然状態
戦後民主主義 丸山真男
歴史認識
ユートピア思想
現在を出発点にするだけでは未来は考えられない、未来は過去の延長線上に創るられていく以外にない
ケシの実がアヘンになるように、歴史は政治化する
1980年代、ドイツでアウシュヴィッツをめぐって歴史家論争 エルンスト・ノルテ 歴史相対主義 v.s.ヘーゲルの絶体精神、マルクス史的唯物論
自民族中心的な語りを招く 新しい歴史教科書を作る会
ライフヒストリー 人生に何らかの意味づけをしようとした場合、人はライフヒストリーを語る
歴史の意味や価値は>主体である国家、国民、特定のエスニシティに回収される
厳密な意味での実証は無理
中国
五・四運動 1919年 パリ講和会議での日本の対華二十一箇条要求の承認がその引き金
グローバルの相互交流によってもたらされたアイデンティティの危機 →これがいま歴史を問題としている所以
歴史認識の4つのスタンス
1 マルクス主義 ヘーゲルに由来する歴史を総体として捉える「世界史へと連なる歴史」統合主義かな
2 オーギュストコント(19世紀 社会学) 歴史を科学技術史と捉える!?それが人種や見んぞ訓お垣根を超えて世界史を形作る、と
3 ナショナルヒストリーや国民国家の虚構性を理論的に批判、歴史的認識問題の新たな展開の可能性を探るやり方(京大杉本さん)
マイノリティ、人種、ジェンダー等、国民国家を多様なアイデンティティへと解体していく作業、ポストコロニアル理論(欧米の植民地主義が被支配地域にどのような影響を与えたか分析する。1978年サイードのオリエンタリズムで理論的に認知された。スピヴァクやホミ・バーバが代表的な論者)、セクシャリティ、カルスタ ⇔しかしナショナルアイデンティティの虚構性を理論的に示すだけではなぜ国家なのか、民族かという謎を明かすことはできず、いまだナショナルヒストリーの呪縛のなかに生きている。
4 歴史修正主義 …歴史相対主義の極端な表れ、不可知主義、価値相対主義を突き詰めた結果、ナショナルヒストリーに歴史の出発点と終局を求めていくという考え方が生まれた。『国民の歴史』虚無主義とエスノセントリズム自民族(どっから来ている?)中心主義が抱き合わせになっている。
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歴史を絡めたり、たくさんの人物が出てきたりしていたのでおもしろかった。
でもそれがわかるだけの「『干物』の知の裏付け」が自分にはありませんでした。。
感覚とかひらめきだけで全部を処理しないようにしっかり精進したいと思います。
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政治学っていうとっつきにくい分野をわかりやすく述べてくれていますが、ある程度の知識がないとちょっと難しいかもです。。
時事的なことの様々な問題点が見えてきます。
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アメリカ、主権、憲法など7つのキーワードから政治学と現代日本を読み解く。
視点はラディカルというほどでもないけど言われてみると確かに、といったほどよい斬新さがあり、興味深い一冊。
ただ、それぞれの章で結論が相当ぼかされたままなのと、氏の在日としての立場がやや影を落としすぎな気がした。
あと各章末に古典書の紹介があるけど、その古典はいつか読みたいなと思った。(「リバイアサン」とか。)医師でそういう教養を持ってると役に立つ日もあるかもしれないし・・・いやあんまりないか。
~本の内容以外で~
姜尚中は好きだけど、姜尚中の文章の展開はあんまり好きじゃないんだってわかった。難解な言葉を必要以上に使いすぎで、わかりやすそうな語り口なのに展開がもどかしいから。(それが氏なりの誠実なのかもしれないけど)
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難しかった。。。この手の本を初めて読んだ私にはハードルが高すぎた感じです。なじみのない言葉のオンパレードでいちいち辞書を引きながら読んだから時間がかかった。ニュースで聞きかじる程度の知識じゃ歯がたたないorz。
まぁ、言葉の勉強にはなったのかなぁ。