紙の本
「世界の警察官」アメリカに、内乱が勃発、アメリカは国際社会の嫌われ者になってしまった。前代未聞の驚くべき状況設定だ。これほどにアメリカを茶化しきった小説はないでしょうね。
2006/10/19 01:14
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
南西部諸州は「アメリカ連合国」として独立し「アメリカ合衆国」との戦闘を開始した。国連本部が移転した常任理事国・日本が政治力を発揮するにはまずもってこのアメリカの現状、内戦の背景と本質を正確に把握する必要がある。2016年、かくして愛すべきレポーター森山サトル君は瓦礫と化したロスアンゼルス空港に降り立ったのである。
2013年、テキサス州ダラスを訪問中のアメリカ合衆国女性大統領マクギルが暗殺された。国家元首の座に就いた黒人副大統領ムーアは逆ギレ気味に強権的捜査、銃規制に乗り出した。しかし、それだけで戦争が始まるわけはない。なにかある。
内乱の本質を探るべくサトル君ほか珍妙な連れ三人の抱腹絶倒、ドタバタ珍道中が展開される。その諧謔!核心を突いている………と思わせる鋭いツッコミだから痛快である。相手があのアメリカだからなおのこと愉快でもある。
日本人ほどアメリカを「知っている」国民はないでしょうね。また日本人は他のどの国のことよりもアメリカについての「知識」を国民的レベルで共有している。
アメリカは戦後の経済的繁栄と平和を実現させてくれた国である。アメリカは自由・平等・民主の国であり、地球上にその理想をあまねく敷衍させようとする正義の伝道者である。フロンティアスピリットの国アメリカ。いやいやそうではないぞ、アメリカは人種差別、宗教差別、性差別の国である。実権を握る階層がWASPだ。秘密結社KKCは生き残っているぞ。武器所有の国であり西部劇のガンマンの支配する国だ。いや、テレビゲーム感覚で戦争を仕掛ける国だ。モンロー主義が根っこにあって自分さえよければいいと実際わがままな国なのだ。女がえらく強くなった国だぞ。セックスフリーなんだ。連邦主義と州権主義の対立構図もあるぞ。
佐藤賢一はサトル君の現地体験に加え、政治評論家、国際経済学者など一流どころの論説でもって、こうしたわれわれが酒の肴にするアメリカの常識をそれらが「真実」であるともっともらしく立証してみせる。「それはみな虚構である」というようなありきたりの正論ではない。とにかくこのもっともらしさが出色の組み立てなのだ。
軍事、政治、経済、文化、生活の枠組みが一体ですからね。日本人ならアメリカとの深い親交がなくてはならないものとだれもがわかっている。ところがだからといってアメリカに心酔している方はあまりいないのだろう。本音はむしろ冷淡にアメリカを見ている、どこか疎ましく感じているのが平均的日本人の心境じゃないだろうか。そしてこの微妙な日本人の情緒でもって、ルポの対象であるアメリカ的精神(このデフォルメも秀逸)と対峙するのがジャパニーズスマイルのサトル君である。だから平均的日本人たる読み手にとってなおのこと面白いのだ。
サトル君にまとわりついたのが合衆国側の義勇軍に身を投じたイタリア系の女・ヴェロニカでマリリン・モンローの過激な色気で彼を骨なしにし、アンジェリーナ・ジョリーの格闘技で彼を救う。アメリカ人になりきったはずが妹を暴行殺害され一家が破滅したことからアメリカに憎悪をもった男・結城。彼もまたなぜか合衆国側の義勇軍に加わり、ゴルゴ13並みのスナイパーとして一目おかれている。ヴェロニカもたじたじのナイスバディ、連合国側高官の女秘書マーガレット・スペンサー。南北戦争の原因はニッポンのニンジャだったとする彼女の調査記録、いわゆるスペンサーレポートの真贋を自ら検証するために一行に加わった。何かを象徴するようなこの傑作な人物造形!
さぁ、サトル君になりきって世界の厄介者となったアメリカ的なるものを大いに嘲笑しよう。アクションバトルシーン、危機一髪の脱出劇のオマケまで楽しめる。
そしてアメリカ的なるものを笑っている自分が実はそれは日本的なるものを自嘲しているのだと思い知ることになる。
紙の本
一見小説のスタイルをとっていますが、これ佐藤賢一によるアメリカ論です。
2007/08/19 00:50
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読み人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
欧州史から離れて、最近自由に作風を広げている
佐藤賢一さんです。
カポネに引き続き、アメリカを題材に持ってきた作品で、
近未来シュミレーション小説です。
実は、佐藤賢一さん、本編でも出てきますが、
バイクのハーレーが大好きで、乗り回しているって(多分東北で)
話をどこかで聞きかじったのですが、そうか、やっぱりなぁ、、なるほど、と思った次第。
設定は、2013年あたりで、、
アメリカ初の女性大統領がダラスで暗殺されます。
それを、きっかけとして第二次南北戦争が勃発します。
で、小説内では、戦争は、膠着状態で現在停戦中です。
日本からジャーナリストとして森山悟が派遣されるのですが、
彼の本当の任務は、、、というお話しというか、設定です、
その森山悟がカリフォルニアから、イタリア系の自由奔放な女の子
とともに、ハーレーにまたがり(超大きなピックアップトラックも同行)
正にコースト・トゥ・コーストで、アメリカを横断しながら、
東海岸のニューヨークまで旅をする、一種のロード・ムービーならぬ、ロード・ノべルです。
これ、ズバリ書いちゃいますが、
佐藤賢一による、アメリカ論ですね。
戦争状態というのは、(作品の前半は停戦中ですが)
両者の主張がティピカルに出ているときで、
その、アメリカならではの(別にアメリカならではないのですが)
考え方、文化、やり方、戦争の方法、それらを、森山悟の身体を借りて、
佐藤賢一が、自由に縦横無尽プラス斜めの全方位からズビズバ切りまくっている感じです。
白眉は、アメリカをオウム真理教になぞらえて解説したところです。
これは、本当に凄い!!。
親米の方は、一読を!!。
実は、佐藤賢一さんは、
今までの欧州史を扱った小説でも英雄を情けない普通の男に
描くというのが、定説(これ、とらさんも、書いておられました)
ですが、実は、その逆というか、
歴史の事項なんて、表裏、若しくは、当事者の両サイドから見ると、
こんなに違って見えるのだいうことを、めんめんと書いてきた作家でもあります。
人間関係を、男性側から、女性側からもこんなに違って捉えられていると、書いている場合もあります。
(たとえば、「王妃の離婚」。)
それが、もっとも顕著に出たのが、これは、小説でなく新書なのですが、
集英社新書の「英仏百年戦争」。
百年戦争なんて無かったと言ってますから、、。
小説だと、「オクシタニア」かな、、。
佐藤さん色々題材を広げて書くのはいいのですが、
世界史好きとしては、時々、欧州史ものも書いて欲しいです。
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フランスの時代物だけ書いていれば良いのに・・・とは思ったのものの,まあまあ,近未来ものを書いても描写が上手なのでOK!
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なんとも興味深い作者のアメリカ感が
随所で展開されていく。
20世紀最大の国際的国家は
21世紀に生き残れるのだろうか。
そんな漠然とした思いに
ひとつの解答を出しているように思う。
ただ、惜しむらくは
女性の登場人物の描き方。
非常に、この作品の質を
貶めているように思うのは私だけか?
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なんだい、このテの近未来シミュレーション小説を佐藤さんが書くとは思わなかったよ。
しかし、話の内容と文体に違和感が。
あくまで佐藤節っちゃ佐藤節なんですが、気の弱すぎるエロのび太&色気だだもれすぎるセクシーダイナマイツ☆しずかちゃん(※未成年)&やたらニヒルなスナイパードラエもんが、第二次南北戦争絶賛開催中のアメリカを「うらァ!アメリカの大地を北から南まで縦断しつつ取材するぜえ!o(゜Д゜)」(←・・・違ったかな)的ごむたい紀行を繰り広げるって言う話には、仰々しい時代小説文体はあんまり合わないだろう。
もっと軽くてポップでさばさばした文章の方がよかったんじゃ。
と思いながら読了しましたが、ご自分のスタイルを通すのもまた作家道ってものなんですかねえ、と知ったかぶりなことを言ってみる。
しかし、このアメリカ人論はどうなんだ?
知り合いのアメリカンとはずいぶん違うな(笑)
とりあえず、次に読むなら『英仏百年戦争』ですかねえ・・・。
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【あらすじ】
大統領暗殺事件をきっかけにアメリカがに二分されたという仮想の近未来。その内情を探るべく日本人調査官は米国に降り立つ。北部から南部へ内戦によって人の本質がむき出しになった国土を行く旅は、同時にアメリカのさまざまな面に対し、光を当ててゆく旅でもあった。
舞台は近未来ではあるものの、ほぼ現在と考えて差し支えない。歴史上の人物の根本的な行動原理を極めてシンプルなものとして読み解き、その複雑な人生を貫く一本の道を見せることが佐藤賢一の真骨頂。しかしそれは歴史小説だからこそ可能なのであって、人の行動に複雑な要素がからみ合う現代を舞台としてはその手法は使えないのではないか? そう思えば南北分裂というかなり無理がある設定を付与したのは、人の蛮性が剥き出しになる戦闘状況を作り出すことで佐藤流の語りを可能としたのかもしれない。
そうした状況下で解析されるアメリカのあり様を、フィクションであるとのエクスキューズを含めた大袈裟さと認識するか、あるいは剥き出しにしてしまえばすまし顔の近代国家とてこの程度でしかないと見るか。
いずれにせよ、今回シンプルな行動原理に解析されて、その生を語られる対象はアメリカという国家そのもの。世界一の大国で、民主主義の旗手を標榜し、世界中に戦争をまき散らす、そんな特殊なアメリカという国家の血統と理念を、佐藤流のシンプルさで読み解いて見せている。 ああ、と腑に落ちる要素も少なくなければ抜群に面白くはあるのだが、やはりストレートに楽しめるのは歴史ものの方だとも思う。
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我こそが世界一と驕っていたアメリカの近未来。んなアホなぁっておもっちゃうこともありますが、主人公がとても好きなので評価高いっす。かっこいいです。私もこのような男性に救ってもらいたい~
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2013年,アメリカで初の女性大統領が暗殺され,黒人の副大統領が昇格,
FBI主導での事件の捜査と銃規制強化を進める。
反発した南西部の諸州が「アメリカ連合国」を宣言して「第2次南北戦争」がはじまり,
連合国側優勢で2015年に休戦状態となる。
2016年,森山悟はジャーナリストとして合衆国と連合国双方を取材するが,
連合国側のニューオーリンズで事態は急変,ある真実を知ってしまう。
アメリカを考えるための1つの解釈としておもしろい。
もちろんフィクションだが,設定がしっかりしていて,細かい演出もあり,引き込まれる。
ただ舞台設定のリアルさに比べて,主人公たちの行動はあまり現実的でない感じがする。
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~「MARC」データベースより~
2013年、「世界の警察官」アメリカに内乱が勃発。
死傷者の飛躍的な増加。
即時停戦に向けた国際社会の努力は急がれている。
そのとき日本は、世界は、どう動くのか。
直木賞作家が描く、起こりうる明日の世界。
~感想~
発想は悪くないねんけど、戦争の原因となった陰謀に無理がある。
しかもこれ、アメリカ在住が長い人が書くならまだしも、
日本に住んでる人が書いても余計に説得力ないねんな~
ただ、アメリカは成功したオウム真理教という考えは、
妙に納得してしまったわ。
あと、主人公が嫌い・・・
でも、その主人公を慕う女性の能天気さは好き(ノ´∀`*)
おしまい。
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図書館より
大統領暗殺事件を機に内乱状態となってしまったアメリカ。そしてそれはアメリカを”アメリカ合衆国”と”アメリカ連合国”とに二分にする事態にまで発展する。
内紛から二年、休戦条約が交わされた合衆国に現地調査のため森山悟が送られる。
序盤は展開が遅く、また話の背景がシリアスなわりに登場人物たちがハチャメチャでそのギャップにも戸惑いました。具体的に書くと、
主人公の悟は義勇兵の取材で出会った女性兵士ヴェロニカと出会ったその日にセックスをし、その後もたびたびなんでそんな場面で? という個所で邪な想像をし、
彼になぜか同行するヴェロニカは周りを気にしない自由奔放っぷり。
そんな彼らに暗殺事件の真相を一緒に調べるよう依頼するマーガレット・スペンサーも重大な事件の調査をしている割に調査があまりにもお粗末…。
悟の現地案内をすることになる義勇兵の結城はまだマトモですがアメリカの話になると周りが見えなくなり…
しかし中盤以降話はぐんと面白くなります。アクションシーンあり、頼りなく描かれていた悟の男らしいシーンあり、そして明らかになっていく大きな陰謀論と読まされます。
自由奔放だったヴェロニカの言動もいつの間にか魅力的に思えてくるのが不思議です(笑)
正直始めはなぜこの話でヴェロニカのようなハチャメチャなキャラを出すのか疑問だったのですが、
読み終えてみるとこの話を気持ちよく締めるのには、彼女のような存在が必要だったのだな、と思えました。
著者である佐藤さんのアメリカ論もなかなか面白かったです。著者紹介によると大学院の博士課程も受けていた方らしく、
そのためか作品内のアメリカ論もリアリティや実感があるように考証されているのだな、というのが伝わってきました。
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『アメリカ第二次南北戦争』というタイトルと、「アメリカは成功したオウム真理教」などという紹介文を見たら、別に佐藤賢一作品でなくとも気になるというものだ。近未来小説だが、もはや今年の出来事になってしまった。
2013年、アメリカ初の女性大統領がダラスで暗殺され、黒人の副大統領が昇格して銃規制に乗り出す、という出来事を契機に、南部諸州を中心としたアメリカ連合国が独立を宣言し、合衆国と内乱状態に陥る。世界各地に配備されていたアメリカ軍は本国に引き返し、連合国と合衆国に分かれ、軍事的に優位な連合国が合衆国に空爆する。
とりあえず停戦状態となった分裂アメリカに日本国内閣官房政府広報室の役人である「私」が「うちの部で独身は君だけだから」と、広報誌の取材のために派遣されるというのが、思いもよらないが、読み進むとなるほどあり得るかも知れないと思われてくるこの小説の設定である。アメリカがそんな状態なので国連本部は日本に移転していて、常任理事国になっていたりするなど、細部の設定もニヤリとさせられることが多い。ニューオーリンズの攻防戦では、フランス史に詳しい佐藤賢一、当然、アレが出てくる、など。
この内乱の本質を見極めるという命を受けた「私」は合衆国から連合国へと、連れを増やしながら珍道中を続けていく。出てくる人物はそれぞれ違うタイプの馬鹿だが、みんな馬鹿。日本人も馬鹿だが、アメリカ人はもっと馬鹿。という調子で、中盤スラップスティックになりそうなのだが、そこは佐藤賢一、歴史的パースペクティヴから、アメリカという国の本質を「成功したオウム真理教」という刺激的な比喩で描き出す。世界はアメリカを必要としていない。アラブ人は端からそう思っているだろうが、いわれてみれば、その通りと思わされる昨今の国際情勢である。中東戦略も、京都議定書も。そして世界はアメリカを必要としないということに、なかなか気づかないわれわれ日本人に対しては、日本とアメリカを男と女の関係に譬えて説き起こすのも、この作者らしい。
私は日本がその国土を失ってしまう小説(小松左京『日本沈没』)と、第2次世界大戦でアメリカが同盟国側に勝てなかった小説(ディック『高い城の男』)を頭に思い浮かべて、とこかで引き比べつつ読んでいた。しかし、考えてみると、小松左京の「アメリカの壁」と対照すべきかも知れない。いわばアメリカという国の沽券を蹴散らし、虚仮にしたこの小説を面白がって読むことに、アメリカに対する日本人のコンプレックスがまさに表現されているのではないかなどと屈折した思考に落ち込むあたり、まだまだわれわれ(私?)はアメリカから自由ではない。
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アメリカの分断を先取りした娯楽小説。
よくやる国別ステレオタイプジョークをエスカレートさせたような感じ。すぐに南部に進んだからか、ギークやナードが出てこないのは物足らなかった。