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紙の本
カバーのよさに救われていますが、内容的にはフツー。あまりに普通なので少しも楽しくありません。なぜ書かれなければならなかったのか、それが聞えてきません
2007/08/02 19:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバーで損する本もあれば得するものもあります。さしずめ、この本は後者の代表。だって、机の上に置いてあるのを見て、長女も次女も、そしてなんとあの夫までもが「このウサギ、可愛い」って言いながら、手を伸ばすくらいなんですから。でも、書評をまとめるために調べるまでは気付かなかったんです、このカバーの担当者が誰であるか。
そう、装画を描いたのはミヒャエル・ゾーヴァなんです。ゾーヴァなら、今までも何冊か彼の挿絵のついた本を読んでいます。島本理生『生まれる森』、アクセル・ハッケ作・那須田 淳共訳・木本 栄共訳 『ちいさなちいさな王様』(お、ここに那須田の名前が)、エヴァ・ヘラー作・平野 卿子訳『思いがけない贈り物』がそうです。
島本の本には「もう、それだけで手を伸ばしたくなるような作品を描く人ではありませぬか。装幀は、先日来、冗談みたいに二人の関係はナンジャイ、と勘ぐっている坂川栄治+藤田知子(坂川事務所)」とコメントしていますが、今回も装丁は坂川栄治+田中久子(坂川事務所)となっていて、藤田さんは田中さんに代わりましたが、同じ坂川事務所です。
舞台は鎌倉で、主人公は中学三年生の大月翔太です。家は江ノ電の走る腰越商店街近くの喫茶店アムゼル亭で、店主は母です。父親は元オケのトランペッターでしたが、オケの合併のあおりを受けて、3年前に解雇され、以来、失意にあります。翔太は便利屋サスケ堂から派遣されて週に一度、日曜日の午前中に家事手伝いサービスのアルバイトをしています。
その仕事先というのが数年前に女子大を退職したドイツ文学の元教授、足立先生です。その足立先生は、中学生の恋の相談役を引き受けています。町に古くから生えている樫の木にかけられたポストを利用した手紙による相談で、先生は彼女たちから「遠い宇宙のかなた一億百万光年先から舞い落ちてきて、桜の古木に住みついた聖なるウサギのお使いの仙人」と言われています。
最初は数多くいた相談相手も、今はただ一人。で、右手首を捻挫した先生は、代筆を翔太に依頼するのですが、翔太は木のそばで手紙の受取人の姿を見てしまうのです。
ほかに、サスケ堂の娘夏野ケイ(慧)や、彼女の父親・佐助、佐助の一つ年上の妻でフリー・ジャーナリスト久美、久美の同級生で店の向かいで歯科医を開業している陽子。今学期だけドイツから留学して、日本人といわれる父親を探してているマリー・ラインハルト、陽子の中学時代の同級生でフランスのアルザスのレストランで修業したのち、スーシェフとして横浜のレストランに就職した足立俊彦などが登場します。
カバー画で期待をしたぶん、失望も大きい。今、これを書きながら思うんですが、中学三年生が自分の家のことを手伝うならともかく、他人の店経由でバイトをする、っていう部分が分らない。父親がだらしないのは分りますが、翔太がそんなにお金を必要としている風には思えない。それから、足立先生の行動が奇妙で、納得がいかない。失踪した俊彦の行動などガキレベルでしょう。
そういえば、この話に登場する人間は陽子と久美の二人を除けば、あきらかに子供でしかない。ただ那須の描きたかったのはそういった大人になりきれない半子供の人間たちではないのははっきりしています。とすれば、小説全体からそのような印象以外伝わってこないことが問題なわけです。
単純に言えば「凡百」。今までも沢山かかれてきた、よくある話を一歩も出ていません。困るんですね、児童書だからって、型に嵌ることで著者も読者も安心するのが。そんなの要らないって。理論社ミステリーYA!篠田真由美『王国は星空の下 北斗学園七不思議1』でも書きましたが、それって子供を馬鹿にしているんじゃないかと思うんですね。桜庭一樹『青年読書クラブ』と比べてみてください。読書の喜びとはどういうものかが分るはずです。