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紙の本
やっぱり小川洋子は面白いです。読んでいて村上春樹を思い出すんですが、いい意味で、もっと映画的。思わず配役を考えたりして・・・
2006/12/17 19:53
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
白地に、薄い水色と藤色の、いかにも手で引きました、といった風情の揺れる太さも変化する横縞が、なんとも日本的な味わいを感じさせるカバーですが、小技は中央の「海」というタイトルと、そのした「小川洋子」の著者名の間に、赤というよりは朱色に近い色でさりげなく、それこそ海から生まれた泡のように小さくさり気無く置かれた、Y o k o O g a w a の字ですね。
装幀 吉田篤弘 吉田弘美、って書いてあります。あれ、二人ってクラフト・エヴィング商會じゃなかった?と慌てて我が書評を検索。確かにそうなんです。この使い分けはなんだろう、web上ではそれなりに使い分け方が書いてありますが、でもそれは当て嵌まっていない。首を傾げつつ中身に入っていきましょう。
全部で七つの話が納められていますが、掌編に近いものもあります。初出を( )で補いながら、各編のほんの一部を紹介すれば
・海 (「新潮」2004年2月号):結婚の承諾を得るためにいった先方の家族の不可思議な様子、特に、おばあさんの「毒があるかもしれませんからね。十分にご注意なさいまし」という囁きは笑えます
・風薫るウィーンの旅六日間 (「新潮」2004年6月号):ウィーンで自由行動するつもりだった私が、同室の琴子さんに親切にしたことが、全ての予定を狂わせて、ラストが・・・
・バタフライ和文タイプ事務所 (「小説現代」2004年4月号):医学部の大学院生の仕事が多いタイプ事務所に勤め始めた新米の私、欠けた活字を新しいものと替えてもらおうと・・・論文が笑えます
・銀色のかぎ針 (「週刊新潮」2004年8月26日号):昔は電車の中で見かけた編物をする女性、あっという間に終る掌編
・缶入りドロップ (「週刊新潮」2004年5月13日号):独身で子供も好きではない男が幼稚園バスの運転手になって
・ひよこトラック (「群像」2006年10月号):新しい下宿先で、男の前に現れるようになった大家の六つになる孫娘は、殆ど口を利かずに、それでもついには部屋の中にまで上がるようになって・・・
・ガイド (「BMNew History 街の物語」(2001.7月刊)所収):言い出したら聞かないママは、自分のツアーに僕を紛れ込ましてくれた。ガイドをするママのために僕は・・・
どれも素適ですね。映画にしたら、地味だけれども忘れられない作品になること間違いなし。無論、小説が面白いからなんですが、映画に結びつくのは、なんていうか、シーンが目に浮かぶんですね。へんなお婆さん、顔は思ういかびませんが、こう、そっと耳打ちする様子が、ね、思わず微笑んじゃうんです。それに、弟でしょ。
誤解をして欲しくないんですが、今まで私は多くの作品に、テレビの二時間ドラマ向き、とか映画の原作レベルとレッテルを貼ってきました。それは基本的に、小説というに値しない、とマイナス評価なんですが、小川の作品に関してはそれは当たりません。むしろ、映像化されることで小説そのものが新たに見直され、さらに面白く、深く読まれるだろう、という期待があるのです。
私は何度も村上春樹の作品のことを思い浮かべました。読みやすい文章、静かな会話、少年や少女、あからさまではないけれど、といって隠蔽されたという感じのない性的描写、そしてなによりユーモア。
でも、村上のお話は案外、映画にしにくい気がします。似ていながら、映像化という点では距離がある。それは何によるのか、じっくり考えてみたいですね。