紙の本
ウェブ2.0の背後にうごめく国家権力を注視する
2007/04/19 13:32
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:西下古志 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本には、ひとつの高遠な理想が貫いている。その理想とは、インターネットが誕生して以来、技術者たちを中心に追求されてきたものであり、ウェブ2.0と呼ばれる世界においてようやく体現しつつある理想である。著者の佐々木俊尚は、ウェブ2.0の概念を定義して、「ひとことでいえば『すべてをオープンにしていこう』ということだ」と述べているが(p.261.)、それこそが、ウェブ世界の理想である。
本書は、この理想——もちろん、異なる視点からもさまざまに表現されているが、このウェブの世界で追い求められている理想をめぐる近年の事象をとりあげ、それらを国家による「排除」と「囲い込み」という観点から論じている。とりあげられている事象は、「Winny」をめぐる問題や、「標準化」の問題など、リアルの世界に属する国家が、どのようにネットの世界にかかわり、はたらきかけているかという問題である。それらを著者は、「排除」と「囲い込み」というキーワードで分析している。
「Winny」をめぐる問題では、「すべてをオープンにしていこう」というウェブ2.0につながる理想が、国家による「排除」やウィルスという悪意によって挫折する過程を描いている。「標準化」の問題では、米国や中国によるインターネットの「囲い込み」戦略・政策を追っている。そこでは、ネットの世界での理想の追求が、リアルの世界からの「排除」と「囲い込み」によって、どのように捩じ曲げられ、変質していくのかが具体的に描き出されている。
ネットの世界とリアルの世界のそうした対抗関係を著者は、「自由と独立を求めるバーチャルな世界と、従来型の空間秩序を維持してきた国家権力との衝突」(「プロローグ」、p.14.)として捉え、現実世界での文明間・国家間の「水平的な衝突」に対して、「垂直的な衝突」であると述べている(p.14.)。この「衝突」は、国家による「排除」と「囲い込み」という方法によって引き起こされているのだ、と著者は見ている。
著者は、明言こそしていないものの、「すべてをオープンにしていこう」という理想の側に立っている。だからこそ、国家(や企業)によるネット世界の「排除」と「囲い込み」を現場に密着して取材し、分析し、将来の見通しを考えようとしているのである。多様な価値観や生き方が共存できる社会を構築するひとつの方法論として、「すべてをオープンにしていこう」というウェブ2.0の理想は意味があるものだ。その理想が、公権力や企業の「排除」によって、また「囲い込み」によって変容し、まったく別の何かになってしまうのではないか、という危機意識が本書の背景にある。
安易な結論は、本書にはない。ただ最終章(第11章)で、「いまや局面は、ネットの世界の基盤が社会に浸透していくのか、それとも国家の覇権が復活するのか、あるいはその両者が何らかの歩み寄りをして調和していくのかという、その選択肢を突きつけられつつあるように思える」(p.277.)という著者の発言は、ウェブの世界を考えるにあたって徹底的に検討されるべきものである。
同じ新書判の梅田望夫著『ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる』(『ちくま新書』、2006年2月)は、ネット世界の未来を論じた好著である。しかし、本書のように公権力との対抗関係のなかでネットの世界を論じるという側面が弱い。そのため、バラ色の未来としてウェブ2.0の世界を強調する傾向が強く、これでは思わぬところで足をすくわれるのではないか、という危うさを持っている。本書『ネットvs.リアルの衝突』は、思わぬ場面で足をすくわれないためにも、『ウェブ進化論』を読んだ人たちをも含めて、多くの人たちに読んでもらいたい一冊である。
紙の本
書名と内容に齟齬を感じないでもないが、ネット関連事件の経緯や背景を知るにはとても参考になる一冊
2007/02/11 10:55
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ文春新書で昨2006年「グーグル—Google 既存のビジネスを破壊する」を物した著者の最新刊。
「ネットvs.リアル」とありますが、率直な読後感から言えば、この書名と内容には距離があると思います。300頁に満たない本書のうち153頁がWinny事件の摘発から公判までを追っていますが、これをサイバースペースとリアルワールドの攻防として描くというのはぴんと来ませんでした。おそらくこの書名は、Winny開発者である被告が当初2ちゃんねるに書き込んでいたように、ネット社会で生まれたものが著作権など既存社会の従来の概念を破壊していくという対立構造の到来を、著者が半ば強く期待してつけたものだと思われます。しかしWinny開発者は公判では、そのような殉教者的証言は一切していませんし、著者の期待が空回りしている感が否めません。
とはいうものの、普段からネットでの出来事すべてに目を通しているわけではない私にとって、Winny事件の顛末もさることながら、政官財を巻き込んだ国際的なコンピュータ・ソフト開発抗争の経年変化を丹念に追ったくだり(「第七章 標準化戦争」、「第八章 オープンソース」、「第九章 ガバナンス」)は大変興味深く読みましたし、勉強にもなったと感じています。
毎日新聞記者という経歴を持つ著者の文章は、老若男女の理解を前提にした、大変読みやすいものです。その分野に明るい者だけが理解できればそれで結構という態度の硬質かつ衒学的な文章とは縁遠いものです。その点を私は前著「Google」以来、大変信頼しています。今後もネット関連の興味深い事件や現象を、分かりやすい文章で私たちに提示してもらいたいという期待を、私は引き続き持っています。
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ジャーナリストの視点からネット社会を記述している興味深い内容。これからのネット社会の流れを感じることができる
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Winnyにまつわる一連の騒動を中心に、ネット世界とリアル社会がどう関わりを持つようになってきているかを分かりやすく解説されています。Winny関連から始まる本書だけに上っ面だけの内容かと思いきや非常に深い洞察はさすがと思いました。
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Winny事件によって明るみに出ようとしているネット(協調社会)とリアル(統制社会)の衝突。Winny作者の思想を探ることを通して、ネットがリアルのインフラとなり、統制されていく現状に対するネット側の反発を描いている(後半はちょっと違った内容だったかも)。個人的には前著「グーグル Google」より考えさせられるものがあり、興味深かった。
ただ、サブタイトルの「誰がウェブ2.0を制するか」はちょっと違うかな。ウェブ2.0についてはあまり触れられてないです。それが引き金とはなっているんだけど。
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Winnyって流行ったけどなんだったかも知らない状態で読み始めました。
次世代ウェブにも出てくるんだけど、P2Pって技術的な革命であり、とてもウェブ2.0的であり、著作権にとって大問題だったんですね。
いやはや、すげぇ世界です。
「包丁を作った人が、包丁を使って他人が人を殺した場合罪に問われるのか?」
この言葉は非常に重い。
でも、僕を含めITリテラシーの低い人がまだだ多い今、そこを整備するのは難しそうだな…。
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いやー前回読んだ佐々木さんの「グーグル」の時のような軽いノリでこの本を買ったのが失敗(笑)ネットの専門用語がバンバン出てくるは、引用の文が出てきたりで非常に難しくて気力で読みきったって感じです。内容はというと、Winnyでの裁判やネットの歴史を記していて実生活とはかけ離れた内容でした。
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梅田氏の「オプティミズム」なウェブ2.0時代の捉え方とは異なり、一連のウィニー事件を中心に「悪意」が潜む脅威を描いている。より現実的なミクロ視点が学べる。
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聞いたことはあるけど詳細を知らなかった事件(Winnyやら)が出ている。安倍官房長官がWinny を利用しないように、と会見した。
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科学者同士の平和なコミュニティだったインターネットは今、「ウェブ2・0」という新たなパラダイムの出現により大きな岐路に立たされています。
ネット社会は、ウィニー事件に象徴されるように国家と激突し、世界ではインターネットの覇権を巡って国家同士の総力戦が開始されました。
“第五の権力”となったインターネット文明の行方を渾身の力で描きます。
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こいつを渡米前日に読みはじめたせいで
まだなんもよういできてない。
とりあえずこれも帰国後。
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(2009.07.26読了)
匿名で、画像データ、音声データ、テキストデータ、等を掲示、送りつけ、取り込み、いろんな事が出来てしまう仮想のネット世界。現実の世界では、犯罪となるので、おおっぴらにはやりにくいことでも、やすやすとできてしまう。
この本の前半部分は、Winnyをめぐる裁判について書いてあります。読み始めてしばらくして、いつまでもファイル交換ソフトWinnyの話題が続くので、本の題名を見直してしまいました。(これってなんの本なんだろう…)
2003年11月27日、京都府警は、ファイル交換ソフトWinnyを使って映画やゲームなどのファイルを違法に公開していた男二人を、著作権法違反(公衆送信権侵害)の容疑で逮捕した。この時点では、Winnyの開発者の金子勇さんを逮捕、起訴する予定ではなかった。
それに、金子さん自身の使用しているWinnyは、アップロード機能が使えないようになっていた。著作権では、ダウンロードして閲覧したり、使用したりする行為は、禁じられていない。他人の著作物をアップロードすることが禁止されている。
金子さんは、参考人としての聴取に対して、「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権を変えるのが目的だったんです」と述べたという。
2004年5月10日、金子さんは、著作権法の公衆送信権侵害のの容疑で逮捕される。
裁判の結果は、本が書かれた時点ではわからない。
ただ、この後も、Winnyユーザーのパソコンに感染すると、ハードディスクに保存されているデータを無差別にインターネットに放出してしまうウイルス「アンティニー・G」によって、個人情報が流出する事件が多発して、世間を騒がせ続けている。
Winnyユーザーに対する天罰なのか?(いったい誰が何の目的でこのウイルスを作ったのだろう)
そのほかの話題は、TRONの話題を含む標準化について、オープンソースについて、IPアドレスとドメイン名について、iPodについて、国産検索エンジン開発構想、などが取り上げられています。それぞれ興味深い話題です。
著者 佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年、兵庫県生まれ
早稲田大学政治経済学部政治学科を中退
1988年、毎日新聞社入社、警視庁捜査一課、遊軍などを担当
1999年、アスキーに移籍、月刊アスキー編集部など
2003年からフリージャーナリスト
(2009年7月28日・記)
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Winnyの奥深さを知った。
P2P技術が今後のネットワークで欠かせないなくなるような気がした。
裁判をきっかけに、ちまたでのWinnyはやたらと悪の面ばかり強調されが、
これを読むとどうも違う側面を持ち合わせていると感じざるを得ない。
今後、世界規模でのネット社会において、P2Pは大きな役割を担い、
それにともなって著作権の在り方など、根本的に考え直す必要がありそうだ。
そのほか、国家単位によるネット覇権争い(中国における漢字ドメインなど)などが書かれ、ネットというインフラがどう整備されてくるか考えさせられる。
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「もう読まない」って言たけど…積読用に一冊あったので読んだ。これは整理された史実として、けっこうわかりやすかったかも。ネットとリアルという構図にフォーカスする軸もわかりやすいし、時事ネタの背景や周囲の環境の理解も深まった。…ちょっと古い本だけど、過去を振り返る意味ではいいかも。現在に直結する歴史の本ですな。
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[ 内容 ]
ベストセラーとなった『グーグル Google 既存のビジネスを破壊する』の著者・佐々木氏による待望の文春新書第ニ弾です。
かつて科学者同士の平和なコミュニティだったインターネットは今、「ウェブ2・0」という新たなパラダイムの出現により大きな岐路に立たされています。
ネット社会は、ウィニー事件に象徴されるように国家と激突し、世界ではインターネットの覇権を巡って国家同士の総力戦が開始されました。
“第五の権力”となったインターネット文明の行方を渾身の力で描きます。
[ 目次 ]
第1章 Winny-「私の革命は成功した」
第2章 P2P-エンド・ツー・エンドの理想型
第3章 著作権破壊-ヒロイックなテロリズム
第4章 サイバースペース-コンピュータが人々にパワーを
第5章 逮捕-「ガリレオの地動説だ」
第6章 アンティニーウイルス-パンドラの箱が開いた
第7章 標準化戦争-三度の敗戦
第8章 オープンソース-衝突する国家
第9章 ガバナンス-インターネットは誰のものか
第10章 デジタル家電-iPodの衝撃
第11章 ウェブ2・0-インターネットの「王政復古」
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]