紙の本
ドラマとしては海堂尊には及ばないと思います。正直、真面目。でも現代医療が抱える問題に対する思いは、同じ。このままじゃあ、イケナイ
2007/11/10 17:02
7人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
奈良県で産気づいた妊婦が受け入れる病院がないために亡くなった事件がありました。産科の看護婦の経験がある私ですが、ああ、またか、と暗然としてしまいました。そんな時に何気なく手にしたのがこの本で、内容を知らずに読み始め、時に切歯扼腕し、時に涙しながら一喜一憂して読了。
タイムリーといえばタイムリーなんですが、素直に楽しんでいいかなあ、なんて複雑な思いでした。
カバー折り返しの文は
「すべての患者さんに
この物語を読んで欲しい」(作者より)
大学病院に勤める女性産科医・柊奈智は、
深夜の当直で容態の急変した胎児を救う
ために緊急帝王切開を行なう。それは、生
死を分けるギリギリの判断だった。
だが、それから悪夢が始まった。
過酷な勤務の中、次々と奈智を襲う試練。
そして、ついに迎えた医療における最大の
悲劇にショックを受けた奈智は……。
*
現役医師が、圧倒的な迫力で描く医療
サスペンス。
なんだかZARDの坂井泉水を思わせるような写真が印象的ですが、写真提供/岡井崇とあります。下世話な私などは、この写真についてもう少し語って欲しかったかなと思いますね。装幀はハヤカワ・デザインですが、写真のインパクトが強いので、とくにありません。いつものハヤカワ本の域を出てはいない。
現代小説ですが、年代ははっきりしていて平成15年から17年にかけての二年間です。主人公の柊奈智は城南大学病院の院外助手です。その名の通り助手の定員の枠外で勤務する、平成11年医学部卒の医師で経験は五年。給料も安く、ボーナスもありませんが週一回、アルバイトをすることが認められています。
今回の話のメインとなる美和子のグレートAカイザー(城南大学で使われている用語で、最も緊急度が高く、一分でも早く胎児を娩出させたい時の帝王切開)を、奈智は40数時間殆ど睡眠をとっていないという状態で行ないます。それが常態化している、というあたりが、繰りかえし描かれます。
一旦は成功したかに思われた手術ですが、患者が原因不明の出血を繰りかえし、再手術も空しく亡くなったことから訴訟問題に発展、話は産婦人科医の減少の背景、訴訟社会のあり方、弁護士のモラルなどを問うものになっていきます。内容としてはここまで。感想ですが、お医者さんというのは、頭がいいのか文章も上手だな、って思います。ま、香り高い名文、というわけではありませんが、気取りや無駄がありません。
ただ、私は今、NHKのBSで放送している「ホスピタル」という台湾製作のテレビドラマを見ているんですが、お話としてはそちらのほうが面白い。それと、海堂尊の小説がどうしても脳裏を過ぎる。今、海堂の『ブラックペアン1988』を読んでいるんですが、展開の劇的さ、手術の緊迫感、人間の躍動感ではどうしても海堂に一日の長があります。ただし、医療の問題に寄せる想いは同じ。
とりあえず主人公について書きましょう。
奈智は中学の時父を亡くし、母の手で育てられてきました。叔父の康男は内科の開業医ですが、後継者がいないため、彼女に自分のあとを継がせたいと考えています。ただし、あくまでも控え目に思っているだけで、それが話に大きく関係してくるのは、ラストちかくだけです。奈智の年齢ですが、もうじき30の大台にのる、とあるだけで正確に語られることはありません。
彼女には離婚暦があります。別れた夫は隆弘といい、同級生で循環器の内科が専門。今も彼女と同じ病院に勤務しています。医師になって二年で離婚していますが、理由は多忙のため顔を合わせる時間もないということだけなので、恨みがあるとか、そういうことはありません。二人の間には子供がいます。4歳になる雄太ですが、奈智と暮らしています。といっても、育児は奈智の母・伸子任せの生活です。
他の登場人物をイッキに紹介。
・矢口恵子:美和子の手術のときの第一助手。
・君島和彦:城南大学病院産科病棟医長。人柄がよく人望が厚い。
・榎原浩史:城南大学病院婦人科病棟医長。君島とは同期の入局で、周囲からはライバル視されている。臨床医としての実力は、君島より上。勉強熱心で、厳しいがそれを評価する人も多い。
・須佐見誠二郎:城南大学病院産婦人科教授、一部の教室員から“おやじ”とよばれる。職人気質というか、医学一筋の人間で、わが身を省みないところがある。世間ずれしていない医師で曲がったことが大嫌い。病院長の嶋秀雄とは大学の同級生。
・徳本美和子:28歳。奈智の手術で勇太を出産するが、その後、原因不明の出血を繰り返し、三回目の手術のとき死亡。
・徳本慎一:美和子の夫で銀行員。人柄も穏やか。
・川辺学、はっきりいって社会人としても失格としかいいようのない弁護士で、視野が狭く、ものの見方が偏向していてバランスを欠く。東大出の官僚によくあるタイプで、自分以外は皆石ころ、といったことを露骨に主張し恥じるところがない。現在、日本の教育界のトップや、国粋的主張をする人間によく見かける。
目次ですが
第1章 グレートAカイザー
第2章 渦の中
第3章 伴侶の信頼
第4章 菊花一輪
第5章 震える声
第6章 再起へ
第7章 余命に彩り
第8章 戦略の一つ
第9章 尋問
第10章 心の根っこに
第11章 真実の証明
第12章 母と子
第13章 決意の深層
第14章 最後の夜
第15章 誓約
余話
で、余話がちょっと面白いかな?
投稿元:
レビューを見る
現役医師による医療もの。産婦人科の現場がさすがにリアルだし、今の医療現場や医療制度そのものへの苛酷さ・違和感が生まれました。ただ主人公を女性にする意味はあるのか?と感じます。今の現場を知ってほしいという問題提起としてはいい作品。
投稿元:
レビューを見る
帯に「困難に立ち向かう医師たちのの感動のドラマ」とあるが、そんな安っぽいものではなかった。
現役の産婦人科教授によるこの作品は、専門用語が頻出だが、あまり気にならずに、どんどん読みすすめられる。
ただ、手術シーンはあまりにリアルで、本当に息ができない感じになる。ただ、事実が無駄のない言葉で書かれているので、不思議と気持ち悪さはない。
小説として、興味深く読めたが、現在の医療をとりまく問題も考えさせられる作品だった。
ただ、物語が終わった後の余話は、これまでの緊張感ある内容とややそぐわないと思った。
また、作者から主人公に宛てた手紙というのも、なくてもよかったかな。
それで☆4つにしたけど、物語自体は☆5つにしようか迷いました。
投稿元:
レビューを見る
医師不足による勤務環境の厳しさ、医療訴訟の増大化など、現場にいる作者だからこそ書かねばならないと思ったのだろう。
これが一石となり少しでも状況が改善されることを望みたい。
投稿元:
レビューを見る
実際、医師からの視点で書かれているので、医療現場の描写が実にリアルである。
小説としての面白さから言えば完成度は並かもしれないが、現代にもよく起こりうる医療ミスがテーマとなっており、医療ミスが疑われる患者死亡の場合、病院側では、どのようなことになっているのか、興味深く読むことができた。
投稿元:
レビューを見る
ただいまドラマで放送中(09年11月現在)
主人公がテレビと原作ではまったく別人・・・・
これでいいのか!
投稿元:
レビューを見る
医療訴訟とそれに伴う産科の危機がテーマのサスペンス。今の世の中「お産は病気じゃないので安全」って思われてるからこそ起こる訴訟。たしかに「医療過誤」は問題ですが。「力が及ばない」ってのは仕方ないよなあ。
仕方ないって言ってしまうのも、問題かもしれないけど。医者が育つためには経験も必要だし、「名医」ばかりに任せるわけにはいきません。そうすれば「力及ばず」もあるわけで。ただ、本当に一生懸命やってくれたかどうか、なんてのはなかなか分かりませんからねえ……。
難しい問題だとは思いますが。特に産科に関しては、世間の認識が重要なんじゃないかな。「お産は病気じゃないけど、いつ死んでもおかしくない危険なことなんだ」と。やたら怖がる必要はないけど、それくらい認識してもらわないと。そうすれば未受診とか飛び込み出産とかも減ると思うんだけどなあ。
こういうことが起こると、結局は「良い先生」が潰されてしまうはめになるかもしれず。実際問題、産科の閉鎖は増えていて、患者が迷惑をこうむることになるんですよね。とはいえ医療過誤が本当にあったのなら、それをはっきりさせないわけにもいかない。本当に難しい課題です。
投稿元:
レビューを見る
産科医療の現実と、大学病院の苦しい現状が書かれている。
大筋となるのは、主人公奈智の患者が母体死亡となりその訴訟。
現役医師が書いているために手術シーンも訴訟に関しても現実的。
作家が描いたのではないので、一人称が変わることがあったりして
読みにくいことはあるが、
本書が描かれた目的が明確なので不快にはならない。
ドラマ化されて「ギネ」のタイトルで放映されたが、
その時は妊娠中だったので見なかった。
見なくてよかった・・・。
産科医療の現状を良くしようと実生活でも駆け回る医師が書いた小説を
面白い物語として読んでしまうのは簡単だけれど
医療というのは誰にでも関係のあることだからこの本を読んだことによって
現状を知るというのは大切。
投稿元:
レビューを見る
私は見ていませんでしたが、ドラマ「ギネ」の原作だそうです。
女性産科医が深夜の当直で容態が急変した妊婦の緊急帝王切開手術を行なう。
子供は無事に生まれたが数日後、原因不明の出血がにより母親が死亡する。
ショックを受けながらも婦人科に移り、やりがいを取り戻すが、遺族が訴訟をおこし・・・。
医療訴訟というと医療ミス=悪で、被害者と対立するイメージでしたが、患者を救えなかったショックは医師生命を絶ってしまうほどのものなのだということに思いが及びませんでした。
過酷な勤務態勢、その割に報われない待遇、何かあれば訴えられるとあれば、産科医の減少も仕方ないと思います。
作者が提唱する、無過失補償制度が実現して欲しいです。
投稿元:
レビューを見る
ここ2,3日 これに夢中でした。
ドラマの原作本です。
産婦人科医が主人公のドラマ。
藤原紀香さんが主演のようです。
小説の内容は・・・医師が書いたものですので、本当に具体的。
専門用語がめちゃくちゃ多いので、一般の人は途中で分からない言葉が多くてストーリーも分からなくなってしまうかも。
医師のわたしが読むのも、酷なストーリーでしたが、想像できる分だけ、ページを慌ててめくるほどの熱中ぶりでした。
柊奈智は5年目の産婦人科医。
私生活では離婚を経験したシングルマザーで母親と息子の3人暮らし。
24時間を超え、36時間勤務なんてそう珍しくない日々を送っていた。
疲れは限界にきていて、脳貧血を起こして倒れることも多い毎日。
そんななか、当直中に患者が急変。
すぐに帝王切開手術が必要なグレードAの状態。一刻を争う状態であった。上司を待っている余裕がない。
そんな緊急手術の経験はなかったが、そんなことは言ってられない。
奈智はオペを開始し、おなかの赤ちゃんを無事にとりだした。
しかし、出血が止まらない。
輸血をオーダーするも、夜中であるためモタモタとしている。
途方にくれていたところに上司が駆けつけ、なんとか止血に至った。
後に患者が奈智に言う。
「川をわたろうかと思ったところに主人の声が聞こえて引き返したんです」
震える思いでその夜の当直を終えた奈智。
ところが、患者の術後の容態がよくない。
原因不明の再出血を繰り返し、再手術を行なうも、
結果、全身から出血が止まらず、母体を救うことはできなかった。
原因不明だった。
28歳女性、術後死に直面した奈智。
周囲の力添えもあって、なんとか通常業務を続けていた奈智。
そこへ、自分が裁判の被告になったことを知る。
裁判所で弁護士から浴びせられた 殺人者としての汚名。
精神的ダメージが大きく、もう立ち直ることができなくなってしまった奈智。
奈智はどうなってしまうのか?
とまぁ、恐ろしいストーリー。現実味があってね。
人は必ず死を迎える生き物ですが、
徐々に体力が衰え死を迎える のではなくて、
予期せぬ死、というのは本当にショックなものです。
それを救えるのは医師であり、
力を尽くしても救えないのもまた、医師なのです。
どこを基準に医療事故という線引きをするのか。
薬を服用するといいことばかりではなくて 必ず副作用というものがあるように、手術をしても、合併症というリスクを背負わなければいけません。
どこからが医療事故というものなのか。
議論の余地が多い 問題だと感じます。
しっかし、この本、ギネというドラマになるとか。
ギネ、って産婦人科の通称です。医師の間ではみな、産婦人科のことをギネと呼ぶ。
ちょっと、医師であればドキっとするタイトルですよね。
投稿元:
レビューを見る
ドラマとの違いにびっくりした。でもこれはこれでおもしろい。第三者視点でかつ主人公を取り巻く状況がドライな感じで書かれてある。感情移入したい人には物足りないかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
ドラマ「ギネ」の原作だということで、読んでみた。
ドラマよりしっかり、産婦人科のかかえる問題や医師の立場が描かれてて興味深かった。
ただ、話の内容が暗い…重い…ので、精神状態の良い時に読むべきですな。医療問題は現実に起きてることなので、しんみり考えさせられた。
投稿元:
レビューを見る
■産婦人科の女医さんが主人公。なんか読んでると海堂ワールドに引きずり込まれたような感覚になるんだけど、作者は現役の医師だって。どうりで。
■展開も早くてどんどん読み進めることができたけど、ラストはちょっと...。
投稿元:
レビューを見る
現役の産婦人科医による小説。筋立ては特に目につくところはなく、緊急オペで分娩後、母親死亡となった事件を巡る医療訴訟を通じて現在の産婦人科医療が抱える問題(当直過多、防衛医療)を取り上げている。ディテールはすごくいいし、医療現場の声みたいなものもよく伝わってくる。うまくいって当然、と思われているためか、産婦人科の訴訟率は他科の三倍になる。医賠責で支払われる額の半分を5% の産婦人科医師が支払っているという現状にまず、ちょっと同情を感じる。予想しない結果になった時に患者が救済されるためには、訴訟に持ち込んで相手の非を追及するしか方法がないため、これが余計に医師患者関係を悪化させる。著者の意見でも、無過失保障の制度が必要だという。インフォームドコンセントとか、治療法の選択とかいっても、圧倒的に医師側がよく分かっているわけだし、特に命に関わることは、治療法の合理的な選択をすればことが足りるわけではなく、やはり結果が全てなところもあるので、パターナリスティックにならざるをえないのではないだろうか。
投稿元:
レビューを見る
医療小説は好き。 この本は、今まで読んだ中でも硬質な部類。物語よりも、著者の「日本の現在の医療に対するジレンマ」がガツンと書かれている。 作中の会話などに滲み出る「訴え」がヒシヒシと伝わってきて、『ちょっと会話が脱線してませんか?』と思えたり…。いずれにしても、著者も「憤り」「医療への想い」が思いっきりつまってるズッシリとした一冊。ラストの仕掛けでちょっと驚く。