紙の本
昔は、小説を書くことがお金儲けの手段だったんだそうです。ま、今でもメガヒットを出せば億万長者ではありますが、でもそれを目指すために小説家くって言うのは少ないんじゃないでしょうか。志低し、昔の文豪・・・
2007/09/25 20:25
6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
活動の領域を広げている猪瀬ですが、私が最初に読んだのは第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『ミカドの肖像』で、その後、その続巻を読んで一休み、そして2000年以降『ピカレスク 太宰治伝』、『ペルソナ 三島由紀夫伝』、『こころの王国 菊池寛と文藝春秋の誕生』と作家シリーズを読んで、つい昨年、彼の本領というか『道路の決着』を手にして以来のこととなります。
新書の出版ラッシュですが、朝日新聞もご多分にもれず参戦。とはいえ、らしさはなくて多くの新書の中に埋没感があるのは否めません。とりあえず、私がこの本を選んだのはデザインではなく、猪瀬の名前あってのこと。そんなカバーデザインはアンスガー・フォルマー 田嶋佳子だそうです。
内容はカバー折り返しの文で十分でしょう。
「売らなければ作家でないのか。
売れたら作家なのか。
太宰治は芥川龍之介の写真をカッコイイと思った。
文章だけでなく見た目も真似た。
投稿少年だった川端康成、大宅壮一。
文豪夏目漱石の機転、菊池寛の才覚。
自己演出の極限を目指した三島由紀夫、
その壮絶な死の真実とは・・・・・・。」
読んで意外なのは、作家っていうのはお金になる、っていうこと。特にそれは第4章「一発屋の登場と『文藝春秋』の創刊の賀川豊彦の項に詳しいのですが、賞金のために芥川賞を欲しがった太宰を扱う第6章「イメージリーダーの交代」にもいえます。それに読み終えたばかりの山田風太郎『我が推理小説零年』の終戦直後の豪勢な食事風景を見ても、似た印象をもちます。
この本には、私が先にあげた『ピカレスク』、『ペルソナ』、『こころの王国』を書いたときの知見がそのまま生かされているのでしょうが、個人的に興味を持ったのは川端康成の投稿ぶりと横光利一の登場、あらためて人間性を嫌いになった太宰治と、デビュー作が自費出版なんて思ってもいなかった三島の章でしょうか。
それから、感心したのは46頁に写真が載っている明子(平塚らいてう)の美しさですね。これなら周囲が放っておかないだろうな、って思います。こういう写真、高校あたりの教科書に載っていたんでしょうか。出ていたら彼女の名前くらいは絶対に覚えていただろうな、って思うんですが。
内容的にはスラスラ読むことができるもの。以下は目次と、各章の簡単な内容紹介です。
まえがき
第1章 投稿という新しいネットワーク:田山花袋を中心に
第2章 スキャンダルとメディア:川端康成と平塚らいてう
コラム 投稿少年とブロガー:二人の投稿少年 川端と大宅
第3章 サラリーマンとフリーランサー:夏目漱石、菊池寛、芥川龍之介など
コラム 『こころ』が持つもどかしさ:『こころ』は本当に名作か
第4章 一発屋の登場と『文藝春秋』の創刊:自分の才能を過信した島田清次郎、地道に歩んだ賀川豊彦、そして菊池寛
コラム 自由主義の人・菊池寛:菊池寛の戦前戦後
第5章 文学青年二万人と市場の拡大:横光利一の衝撃
コラム 大宅壮一とは何者か:ライフワーク半ばに倒れた大宅
第6章 イメージリーダーの交代:金のために芥川賞を狙う太宰の卑小
第7章 事件を起こす、素材を集める:心中も単なる取材のための手段
第8章 センセーショナルな死:心中を繰り返す作家の最後
第9章 自己演出の極限を目指す:自費出版でデビューした三島由紀夫
あとがき
参考文献
本文写真・資料提供=日本近代文学館、朝日新聞社
紙の本
中々面白かった
2019/02/05 13:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体的に面白かった。平塚らいてうについて、夏目漱石と森田草平が買いかぶっていたというのは、面白かった。
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いまや政治家的な顔が多い著者だが、純粋に作家としての立場から、近世日本の文学史について書かれている。とくに後半は太宰・三島の2人を軸にして描かれていて、なかなか興味深い。
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10月10日購入。25日読了。
いつもテレビで不機嫌そうな顔をしてる猪瀬氏だが、初めてその著作を読んでみて、そのふてぶてしい風貌に見合う筆力の持ち主だと思い知らされた。新書には珍しく、小説的な文体が用いられていたのは氏がノンフィクション作家であるからだが、やはりなにかの歴史を物語るときは、こういった調子が一番読みやすい。私小説の原型を作り出した田山花袋、青春にあこがれた恋愛下手の川端康成、川端の後輩で投稿少年だった大宅壮一、小説記者のはしり夏目漱石、その弟子森田草平と平塚らいてうの心中未遂、一発屋島田清次郎、時代を読んだ菊池寛、才気煥発芥川龍之介、その芥川への憧憬と流行のプロレタリアの流行との葛藤、様々な女性との関係、芥川賞に選ばれない自分の才の無さなどの絶望から4回も自殺未遂を繰り返した太宰治、物語の喪失とともに自決した三島由紀夫・・・名だたる文士が積み上げてきた文学の地層には様々なドラマが埋没しているのだった。
三島のデビュー作「仮面の告白」が最初は全く売れなかったこと、太宰が有名になったのは死んでからで「人間失格」や「斜陽」はその影響で爆発的に売れた、など知らなかったことを知れてよかった。
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[ 内容 ]
太宰治は芥川龍之介の写真をカッコイイと思った。
文章だけでなく見た目も真似た。
投稿少年だった川端康成、大宅壮一。
文豪夏目漱石の機転、菊池寛の才覚。
自己演出の極限を目指した三島由紀夫、その壮絶な死の真実とは…。
[ 目次 ]
第1章 投稿という新しいネットワーク
第2章 スキャンダルとメディア
第3章 サラリーマンとフリーランサー
第4章 一発屋の登場と「文藝春秋」の創刊
第5章 文学青年二万人と市場の拡大
第6章 イメージリーダーの交代
第7章 事件を起こす、素材を集める
第8章 センセーショナルな死
第9章 自己演出の極限を目指す
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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罪つくりな本です。
既に読まねばならない本を何冊も抱えてしまっている読書家は決して読んではなりません。私など、この本のせいでコレもアレもと読むべき本が10冊は増えてしまいました。
田山花袋から三島由紀夫に至る近代日本文学の巨匠群を、どうやって「稼いで喰っていたか」、どんな「女(男)を好きになり付き合ったか、結婚したか、愛人にしたか、あるいは心中したか」という2つの観点から総点検してくれている。2つの観点とは、ようするに「生活者」としてどう生きたかである。
「唯ぼんやりとした不安」との遺書を残し芥川龍之介は自殺した。そのことは誰もが知っている。だが、猪瀬氏はその1か月前芥川が出版社あてに送った「クルシイクルシイヘトヘトダ」という電報に注目する。芥川は僅かな講演料と客寄せパンダとして全集の宣伝をするため仙台、盛岡、函館、青森と文字通り喰うための「クルシイ」行脚を強いられていたのだ。
そして、その芥川に憧れ焦がれた太宰は、芥川の名を冠した賞を貰いたくてもらいたくてしょうがなかった。彼の放蕩と淫蕩ぶりは周知のことだが、猪瀬氏の記述を追ううちに、受賞のレベルなど凌駕しているはずのこの男が運命の悪戯で果たせなかった不条理への無念に、なぜか共感してしまう。
だが、西武王国も道路の権力をも葬り去った猪瀬氏の舌鋒は鋭い。四度も五度もの心中はすべて狂言やポーズに過ぎないと切り捨てている。公平で正当な記述は極めて小気味良い。
同様の鋭さで、菊地寛の生活者としての図太さを、大宅壮一の卓見性を、川端を三島を、生活者としての視点というX線を照射することで正確な透視写真のごとく次々と写し取っている。
結局のところ、田山花袋が「ヘンタイおやじ」もどきの自己を表現した『布団』から始まった私小説と職業としての「小説家」の歴史は、三島由紀夫の自殺で終わったと著者は受け止めている。
私は、花袋とかいて「かたい」と読むのを受験勉強のための文学史テキストで覚えた。『布団』のエピソードも近代日本文学史上での意義についても大学の一般教養で教えられた。だが、本書を読んで初めて390円を支払って『布団』を買って読んでみる気になった。
三島由紀夫についても、生活の糧を得るための大蔵官僚としての職を巡る逡巡、初恋の園子との成せぬ恋という2つのキーでかっちり読み解いている。
本書の最後は、「敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされた」との檄文を遺し自殺した三島への猪瀬氏の鋭く厳しい評価で締めくくられる。
猪瀬氏曰く「戦争に負けた、という事実をひっくり返すことなどできはしない。あまたの肉親の魂が戦地で、空襲や原爆で砕け散って日本人を打ちのめした。『敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ』たのではなく、ごまかすしかなかったぐらいに深い傷だった」
私の父は三島由紀夫の二歳下、吉村昭とは同い年だった。『東京の戦争』で吉村昭がその戦争の惨状を極めて克明に書き残した記録を読んだ。同じ時期同じ場所で体験したはずの戦争について、父は結局一言も口にしなかった。その語らなかった思いは長らく私の中にわだかまっている。
だが思い出した。三島の自決の報をテレビで見た瞬間、
「ばかが」
と、ひとことだけ呟いていた。ことばに相応しくない哀しい横顔を、子どもだった私は確かに見ていた。
語らなかった父に、すこしだけ近づけた気がする。猪瀬氏の労作に感謝する。
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漱石も鴎外もサラリーマン作家だった。手堅いといえば手堅いが、そもそもフリーランス作家が食べていけるだけの市場がなかった。新聞の連載小説や投稿雑誌が流行することで一攫千金も夢見れるようになった。
井伏鱒二は早稲田の仏文学を中退し25歳で将来のあてもないころ同じような境遇の文学青年が2万人はいるだろうといっている
菊池寛は芥川と第一高等学校で同級生(ただし4歳年上)、結局退学して京都帝大卒業、27で東京に戻る。
現代日本文学全集は予約が25万以上の大ヒット。高等教育を受けられなかったが教養に手を出したい人が多くいた
芥川の義兄も多額の借金で自殺してる
太宰治は自殺未遂を繰り返し、芸姑と結婚して家を勘当されたり、26歳で大学卒業のめどが立たなかったり
みんな悩める高等遊民
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近代日本文学において、文学的価値がジャーナリズムとの関わりの中でどのように変容していったのかが、非常に分かり易く描かれている。文学青年の自己実現の理想が、「文学」的価値からではなくマーケット(読者)との関連で述べれば、何かとめんどくさい近代文学史がすっきりとする。その手腕はさすがに鮮やかだ。太宰に関しては、少々当たりが強いか。新書ながら、つまらない研究者が書く近代文学史を十分に凌駕する内容。
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小説家とつきあって・別れたら、作品でネタにされてあらいざらい ぶちまけられるんだな。すごい時代だったのね。
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猪瀬さんの本の中で一番好き!明治から昭和にかけての文豪と作家を発掘してきた腕利き編集者をそれぞれの半生を通して描いています。それぞれが、文学のための文学、流行りとしての文学、ビジネスとしての文学、名誉のための文学など、追求してきたものに焦点を当てています。
この本読んでれば、国語の授業も相当興味持てたのに~、今し更ながら思います。古典を読み返してみようかなと思いました。
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「ペルソナ」や「ピカレスク」を読んだことのある人には、重複も多いが、
重複も含めて全体像をつかむには悪くない。
ただ、気合を入れて書いたという印象はまったく受けず、
まあこれが新書レベルかなー、という程度。
コンスタントにさくっと読めるところ、
川端の投稿少年ぶり、
文筆業界をジャーナリズムに引き付けて考える著者の立場は、
まずまず評価できる。